第4804回「GSワンダーランド、その2、ストーリー、ネタバレ 本田隆一監督、栗山千明主演」
第4804回は、「GSワンダーランド、その2、ストーリー、ネタバレ 本田隆一監督、栗山千明主演」(2010年)です。
「1968年 GS全盛期」
銀座の交差点に、ひとりの女性が立っています。サイケデリックな、当時最高のファッショを着込んだ女性です。見つめる先は日劇です・・・・。当時、日劇で開催されていたウエスタンカーニバル(当時はGSが主流)には、多数の女性客を集めていました。ただ、大野ミク(ミック、栗山千明さん)が目指していたのは、グループ・サウンズではなく、あくまでソロの歌手でした。
早速、ミックは、芸能事務所に売り込みを図りますが、どこにも相手にされません。そのうちの一社が、梶井(武田真治さん)が経営する弱小プロダクションでした。もちろん、断られています。そんな梶井に、レコード会社からオファーが来ます。ファインレコーズの社員・佐々木(杉本哲太さん)が、「時代はGSだ」と社内で主張していたのです。
一方、ドラムのシュン(水嶋ヒロさん)とベースのケンタ(浅利陽介さん)は、既存バンド"ザ・ナックルズ"のリーダーに騙されていました。「東北の山奥で、リンゴ・スター(ドラムス)とポール・マッカトニー(ベース)が個人レッスンしてるんだって」、こんな与太話に簡単にだまされます・・・・。おバカですが、憎めないキャラです。
そんな二人に接触したのが、リード・ギターのマサオ(石田卓也さん)でした。三人は、アパートの屋上で練習します・・・・。そのサウンドに惹かれてやってきたのが、プロダクションの梶井でした。早速、その3人を、ファインレコーズの佐々木に売り込みますが、3人ではダメだと断られます。
佐々木が言いたかったのは、オルガン(キーボード)が欠けているということでした。ですが、梶井は安請け合いします。梶井の脳裏にあったのは、大野ミクのことでした。男装して誤魔化せばいい、当面はだませるはずだと・・・・(アマバンドもありましたが、原則的にはタブーでした)。
こうして出来上がったバンドが、"ザ・ダイアモンズ"でした。全員は、日劇を目指します・・・・。ですが、一筋縄ではいきません。まずは、作詞・作曲家先生のレッスンです。レッスン場には、ザ・ダイアモンズだけでなく、"フレッシュ・フォー"(リーダー:温水洋一さん)も来ていました。
「楽器ができない? 帰って、帰って」、おじさんたちは作曲家先生に詰め寄ります・・・・。フレッシュ・フォーは、これ以降、ザ・ダイアモンズの窮状を何度か救ってくれることになります。そして、ザ・ダイアモンズが、ついにレコードを出すことになります。
ファインレコーズの役員会で、売り上げ枚数が発表されます。その報告を聞いた佐々木は喜びます。「23? 23万枚、凄いじゃないですか」、23万枚ではなく、23枚でした・・・・。
「1969年 GS衰退期」
佐々木と梶井は、善後策を講じます。こうして生まれたのが、タイツをはいたGS"ザ・タイツメン"でした。かなり恥ずかしい格好です。ライブハウスで公演を始めます。シュンたちをはめたザ・ナックルズも、出演しています。
ですが、ザ・タイツメンが注目を集めたのです。中性的なミックに視線が集中したのです。黎明期のオタクには、信頼に値する"眼"を持つ者が少なくありませんでした。そんなディープなファンが混じっていたのです。三倉茉奈さんと三倉佳奈さんが演じています。映画「キサラギ」(※)に通じるマニアックな世界です。
ふたりの熱狂は、他の女性ファンにも伝播していきます。ミックにはただ戸惑いがあるだけですが、他のメンバーには新鮮な驚きが襲います。「俺たちのバンドが評価されてる・・・・」 ですが、いいことばかりだけではありません。プロダクション社長の梶井は、ミックが女だとばれないための偽装工作として、ミックに他のメンバーと一緒に暮らすように命じたのです。
ですが、ザ・タイツメンの人気は益々高まっていきます。スポーツ新聞だけでなく、テレビの芸能ニュースでも取り上げられたのです。ですが、意外に冷めていたのは、ファインレコーズの佐々木でした。「いずれ、ミックが女であることはばれる。だが、GS人気もそう長くはないさ。客もマスコミも、薄々感じているはずだ」
日劇ウエスタンカーニバルの日も近づきます。テレビの歌番組出演のオファーもきます。あの"ザ・タイガース"の前座としてテレビに出られるのです・・・・。ですが、佐々木と梶井の怖れた事態が顕在化しました。
当時、写真週刊誌はありませんでしたが、週刊誌に売り込みを図るフリー・カメラマンは多数いました。そんなカメラマンの一人が、アパートでの盗撮に成功したのです。ブラジャーの肩紐が映ったミックの写真は、じわじわと業界に拡がります。
以下、最後まで書きますので、ネタバレになります。
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ライバル・バンド"ザ・ナックルズ"のリーダーが恫喝に出たのです。「バラされたくなければ、テレビに出演した時、"サビ"の部分で止めろ」、リード・ギターのマサオ(石田卓也さん)は演奏を止めます。ザ・タイチメン全員が固まります。テレビは、そんな彼らを映し続けます・・・・。
口を開いたのは、ミックでした。「私は女です。ただ歌いたかったんです。ごめんなさい」、彼女の発言は実質的に解散宣言でした。ザ・タイツメンはマスコミの餌食になります。ですが、一方で、ミックに対するディープなファンも存在しました。また、楽器のできないオジサン・バンド"フレッシュ・フォー"(リーダー:温水洋一さん)も、ザ・タイツメンをかばい続けます・・・・・。
4人は、それぞれの道を歩み始めます。
「1970年 GS消滅期」
ミックは、梶井の芸能事務所で、ソロ歌手デビューを目指していました。ザ・タイツメン時代に演奏していたライブ・ハウスでのデビューも決まります・・・・。シュン(水嶋ヒロさん)、ケンタ(浅利陽介さん)、マサオ(石田卓也さん)が、ライブハウスに集結します。今ひとたび、ザ・タイツメンが集まったのです。
「私たちは、解散しました。ですが、解散コンサートって、やってないんですよね。歌わせてください」、ミックは、観客に訴えます。歌ったのは、実質的なデビュー曲だった「海岸線のホテル」でした。
そして、数ヶ月が経ちます。歌番組に、ミックが演歌歌手として出演しています。そこそこのヒット曲のようです。そして、トリとして歌ったのが、ミリオン・セラーを記録したフレッシュ・フォーでした(クール・ファイブからの連想でしょうか)。温水洋一さんが熱唱します・・・・・。
(蛇足) カラーリングとか、シナリオなどは、明らかに大人のファンタジーになっています。ただ、予備知識なしで観た10代、20代の人は、"GS"については、最初にガソリン・スタンドを思い浮かべたのではないでしょうか。一方、60歳以上の人たちはほとんど忘れています。「GS、なんだべ? やっぱ、ガソリン・スタンドだべ」ってところでしょうか。
(補足) 1964年当時の日劇の写真は、ウィキペディアから引用しました。その他の写真は、"goo映画"から引用しています。
(追記1) GSと感想につきましては、"その1"に書きました。
http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11274902032.html
(追記2) 映画版「キサラギ」につきましては、2回に分けてブログに取り上げました。