第3922回「名探偵ポワロ全集、第19巻、エッジウェア卿の死、その2、ストーリー、ネタバレ」 | 新稀少堂日記

第3922回「名探偵ポワロ全集、第19巻、エッジウェア卿の死、その2、ストーリー、ネタバレ」

 第3922回は、「名探偵ポワロ全集、第19巻、エッジウェア卿の死、その2、ストーリー、ネタバレ」です。


 ドラマは、舞台劇「マクベス」から始ります。マクベス夫人を演じているのは、エッジウェア卿夫人のジェーン・ウィルキンソンです。マクベスと夫人は抱き合います。その時、桟敷席で観ていたエッジウェア卿は、露骨な嫌がらせと取れる拍手をします。観客が、ざわめきます・・・・。


 芝居が終わった後、楽屋でエッジウェア卿と夫人が激しく言い争います。離婚を言い立てるジェーンに対し、卿は即座に否定します。「理由は、私がエッジウェア卿であるからだ」、男優に対する嫉妬は隠しませんが、離婚には応じようとしません。


 その数ヵ月後でしょうか、ジェーンからポワロに対して、離婚調停の話が持ち込まれたのです。とにかく一度、夫と話し合ってもらいたい、というのが依頼内容です。その話は、キャバレーで依頼されました。舞台では、アメリカ人の女性コメディアン、カーロッタ・アダムスが政治コントを繰り広げていました。政治コントだけでなく、ポワロの物まねなどもします・・・・(笑えます)。


 ポワロは、エッジウェア卿に面会します。傲岸不遜な男です。パリで、絵の買い付けに行くために、準備をしていたのも一因かもしれません。秘書にフラン紙幣の調達を急がせます(伏線①)。しかし、離婚の話は簡単に終わりました。エッジウェア卿は、離婚を認めることを手紙に書いて出したというのです・・・・。


 ポワロは、ジェーンにそのことを報告します。ですが、ジェーンは、そんな手紙は受け取っていないと話します(謎①)。確かに、受け取っていれば、ポワロへの依頼は不要です。ジェーンは、気が晴れたので、いったん断っていたディナーへの招待を受けることを電話連絡します。


 ポワロも誘いを受けますが、今夜は欠かせない用事がありました。年来の友人であり仲間である3人を招待して、手料理を振る舞う予定だったのです。ポワロの秘書であるミス・レモン、アルゼンチンでの事業に失敗して、失意のヘイスティング大尉、長年の捜査仲間であるジャップ警部の3人です。楽しい夜でした・・・・。


 一方、ジェーンがよばれたディナーは13人です。翻訳によっては、「晩餐会の13人」ともタイトルされています。招待主の主人は平気なのですが、女主人は嫌な予感に打ち震えます・・・・。ピンクの大胆な衣装を着たジェーンは、いったんホテルに寄ります。そこで、ヴァン・デューセンというアメリカ人脚本家と出会います・・・・.


 ですが、ディナーは和気藹々としたものでした。場の会話は、劇作家のドナルド・ロスがリードします。新作の脚本を得々として語り続けたのです・・・・。トロイ戦争をモチーフとしたドラマでした(伏線②)。9時半後、ジェーンに電話が入りましたが、名前を確認しただけで、意味不明の電話でした・・・・(謎②)。


 翌朝、エッジウェア卿の他殺死体が発見されます。首筋には、ナイフが刺さっていました。ですが、最大の容疑者であるジェーンにも、次期エッジウェア卿(甥)にも、卿と先妻の娘にも確固たるアリバイがあります。何故、エッジウェア卿は殺されたのか、そして、真犯人は誰か、といった展開です。


 エッジウェア卿の屋敷に勤める秘書と召使いから重要な証言が飛び出してきます。昨日の10時ごろ、黒衣ずくめのジェーンが訪ねて来たというのです。ですが、離婚問題が解決したため、当初キャンセルしていたディナーに出席し確固たるアリバイが成立しています。動機としても、離婚の見通しが立っている以上、卿をあえて殺す必要もありません。


 そこで、ポワロは突然しゃべり始めます。「私は愚かでした。気付くべきでした」、向かった先は、ポワロの物まねなどを見事に演じたカーロッタのアパートでした。ですが、既に亡くなっていました。睡眠剤の多量服用が原因です・・・・。バッグの中には、カーロッタのものでない鼻眼鏡(謎③)と、ピルケースが入っていました。


 ピル・ケースには、「CAにPから」と刻印されています。CAはカーロッタ・アダムスで間違いありませんが、ではPとは・・・・(謎④)。ポワロは、エッジウェア卿の屋敷をジェーンだと称して訪れたのは、物まねが得意だったカーロッタの仕業だと考えたのです。そのため、犯人によって、殺されたと・・・・。


 問題を複雑にしたのは、秘書の存在でした。卿の死をいいことに、フランを奪ったのです(伏線①の答)。逃亡している時、ジャップ警部に追われた秘書は、空港ビルから墜落死します。ですが、秘書の事件は本筋ではありませんでした。


 一方、カーロッタの妹が、姉のアパートにやってきます。死の直前に、妹に手紙を出していたのです。そこには、ショーのことと、"アルバイト"のことが書かれていました。ジェーンになりすます報酬として、2000ドル出すという提案です。ショー・ウーマン魂に火を付けられたカーロッタは、もちろん引き受けました。ポワロの推理が当たったのです。


 手紙には、その依頼主の名前も記されていました。エッジウェア卿の甥のロナルド・マーシュです。ですが、彼は即座に否定します。今の生活にも困窮している自分には、そんな大金は払えない・・・・。もっともな反論です。彼は、本当に金に困っていたのです、それだけに動機もありますが・・・・。では、カーロッタは何故マーシュの名前を出したのでしょうか(謎⑤)。


 事件が解決しない中、事件関係者が集まって会食をします。「エッジウェア卿の死に乾杯」と音頭を取ろうとしたエッジウェア卿の甥を、ジェーンは激しく非難します。ですが、事件当夜のディナーに出ていた脚本家が、この席で新作の「パリスの審判」について話そうとした時、ジェーンが何故か都市のパリと勘違いしたのです。


 この会食の後、この脚本家は、ポワロとの電話中に、首筋を刺され死亡しています。ポワロには五つの謎が、ひとつにつながりました。契機となったのは、ヘイスティングが意識せずに話した「実際は逆」の一言でした。事件関係者をキャバレーに集めます。


 ここで、主要登場人物(容疑者)を紹介しておきます。

① ジェーン・ウィルキンソン・・・・ 女優であり、最初に殺されたエッジウェア卿の妻です。恋多き女性です。離婚を熱望していましたが、卿は離婚に同意しています。では、他にも動機があるのでしょうか。卿の死後、マートン公爵は、ジェーンとの結婚を明言しており、ウェストミンスター大聖堂での挙式を公言しています。


② ジェラルディン・マーシュ・・・・ エッジウェア卿と先妻との間に生まれた娘です。母である先妻は、卿の屋敷を去った後、貧困の中で亡くなっています。そんな冷徹な父親に対して、敵意を隠していません。事件当日は、従兄弟のマーシュ(③)とオペラに行っていましたが、実は、ふたりは幕間に抜け出し、卿の屋敷に行っていました。


③ ロナルド・マーシュ・・・・ エッジウェア卿の莫大な相続人であり、爵位の継承者です。動機としては十分です、果たして・・・・。オペラを抜け出したとき、男優のブライアン(④)を目撃したと証言しています。


④ ブライアン・マーティン・・・・ 舞台劇「マクベス」では、主役のマクベスを演じました。その時、エッジウェア卿は、露骨に嫉妬心を示しました。その一方、ジェーンには振られています。そういう意味では、ジェーンをおとしめる理由には事欠きませんが、果たして殺人となりますと・・・・・。


⑤ ヴァン・デューセン・・・・ アメリカ人の劇作家です。睡眠薬を入れたビル・ケースを作らせたのは、彼女でした。次第に、謎を深めた人物です。鼻眼鏡に白髪、黒ずくめのオバサンです。事件当日、ホテルでジェーンと演出論について話し合っています。


 ポワロは、五つの謎を解明していきます。そして、犯行手順を解き明かします。傑作ミステリです。これ以降は読まずに、原作を読まれるか、ドラマを観ることをオススメします。トリックとしては、大ネタの部類に入ります。


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 ポワロは、容疑者全員に動機があったことを話していきます。そして、ピル・ケースは、ヴァン・デューセンが作らせたものであることを明かします。目的は、二番目に殺されたカーロッタが、睡眠薬の常習者であることを印象付けるためでした。ある意味、演劇用語での"小道具的"な役割です。"P"に特段の意味はありません(謎④に対する答)。


 そして、ずはり犯人を指摘します。犯人は、女優だと・・・・。女優はひとりしかいませんので、ジェーンということになります。犯行手順を詳細に語り始めます。ジェーンは、ホテルに行く前に、ピンクのドレスの上に、コートなどをはおり、ヴァン・デューセンに変装し、チェックインしています。そして、ホテルの一室で物まね名人のカーロッタを待ち受けます。当然、チェックイン直後に、ヴァン・デューセンの変装は解いています・・・・。


 そして、到着したカーロッタとジェーンは、相互の服を交換します。これ以降、カーロッタは、ジェーンとして行動します。それが、2000ドルのゲームでした。カーロッタの演技力を確認するために、9時半頃、ジェーンはディナーの行われている屋敷に電話を入れました。カーロッタは、"なりすまし"に成功していることをジェーンに報告します(謎②の答)。


 これで、ジェーンの犯意は確定しました。完璧なアリバイができたからです。10時頃、館に堂々と入ったジェーンは、エッジウェイ卿の妻であることを明言しています。ですが、その秘書(執事)は、別居中のジェーンとは初対面でした。後日、カーロッタがジェーンを演じていたと主張できるからです。すべて、ジェーンの計算でした。


 そして、エッジウェア卿を刺殺した後、ホテルに戻ります。そして、ディナーで何が話されたか、カーロッタの報告を受けます。後日のために、会話の辻褄を合わせるためです。しかし、大量の睡眠薬(ベルナール)を、カーロッタのグラスに入れていました。1時間後、部屋に戻ったカーロッタは亡くなります。


 ジェーンが逮捕されないことを知って慌てたのは、秘書でした。多額のフランを横領していたからです。ロナルド・マーシュ(③)が目撃したのは、男優のブライアン(④)ではなく、秘書でした。秘書は、エッジウェア卿の死後間もなく、死体を発見しています。そのため、フランス・フランを隠そうとしたところをロナルドに目撃されたのです。


 秘書は、逃亡を図り、自滅します。一方、ジェーンが馬脚を現したのは、会食での脚本家との会話でした。あの時のディナーでは、彼の新脚本「トロイ戦争」の話で盛り上がりました。ですから、「パリスの審判」を知らないジェーンに疑惑を感じたのです。あのディナーに出席して、"パリス"を知らない訳がない・・・・。口を封じるために、ジェーンは脚本家を刺殺します。


 鼻眼鏡が、カーロッタのバッグに入ったのは、ジェーンの単純なミスでした(謎③の答)。変装を繰り返している間に、間違えて入れてしまったのです。その際、小道具のビル・ケースも、バッグの中に入れています。


 ポワロは、カーロッタの手紙についても触れます。マーシュがカーロッタの黒幕と思われたのは、5枚あった手紙の1枚を抜いたからです。文意が完全に変わりました。ジェーンは、事後にその手紙を入手し、改竄したのです。"she"を"he"に変えたりしています。


 残る謎は、ジェーンの動機です。マートン公爵は、「ウェストミンスター大聖堂で結婚式を挙げますので、ポワロさんも是非出席してください」と言っています。イギリス国教会の信徒であれば,"ウェストミンスター寺院"での結婚式となりますが、カトリックとなりますと"大聖堂"ということになります・・・・。


 公爵はカトリックだったのです。離婚した女性とは結婚できません。そのため、ジェーンはエッジウェア卿を殺す必要があると・・・・。離婚承諾の手紙を握りつぶしたのも、ジェーン自身でした(謎①の答)。


 ジェーンは、女優としてポワロに答えます。「私は否定しないわ。そうよ、これは女優としての最高の演技なのよ。少なくとも、世間の注目を浴びるわ。もしかしたら、マダム・タッソーの蝋人形館に展示されるかもしれない。楽しかったわ」


 大ネタです。十三人の晩餐会で身代わりを立てたのです。最初、秘書の目をごまかすためにカーロッタを雇ったと思われたのですが、カーロッタの真の役割は、12人の目を欺くことでした。読者を見事に誤誘導しています。舞台女優ですので、近くで親しく話したものはいません。しかも、ディナーではロウソクの灯りだけでした。人間の記銘力って、この程度のものかもしれません。


(追記) 感想につきましては、"その1"に書きました。興味がありましたら、アクセスしてください。http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-11040702115.html