第2901回「黒猫館の殺人、その3、ネタバレ、鏡の国のアリス、綾辻行人著」(館S第6作) | 新稀少堂日記

第2901回「黒猫館の殺人、その3、ネタバレ、鏡の国のアリス、綾辻行人著」(館S第6作)

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 第2901回は、「黒猫館の殺人、その3、ネタバレ、鏡の国のアリス、綾辻行人著」(館S第6作)です。本書につきましては、これまで2回に分けてブログに書いてきました。「その2」だけでも、先に読んだ方が解りやすいと思います。

「その1、感想」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10744703854.html

「その2、ストーリー」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10744829262.html


 名探偵・鹿谷(ししや)とワトソン役・江南(かわみなみ、コナン)に連れられて、記憶を喪失している鮎田は、黒猫館の中に入っていきます。ですが、手記に書かれていた殺人事件とか、過去の殺人を思わせる白骨死体などは存在しませんでした・・・・。


 実は、黒猫館に侵入する前夜、鹿谷は事件の全貌を江南に語っていたのです。その推理の前提になったのが、天羽が神代元教授に送っていた絵葉書でした。神代は、鹿谷にその絵葉書を転送していたのです・・・・。以下、最後まで書きますので、ネタバレとなります(他作品のネタバレも含まれます)。


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 記憶喪失者の鮎田は、天羽辰也だったのです。黒猫館に入ることで、天羽の記憶は、次第に戻ってきます・・・・。では、彼が鮎田の名前で書いた手記は虚構だったのでしょうか、鹿谷は、手記に書かれた黒猫館の細部を次つぎと指摘していきます。


 黒猫館の由来になっているものとして、ネコを模した風見鶏があります。ですが、よく見ると、白ウサギに見えないこともありません。内装関係も微妙に異なります。しかも、建物の配置は、微妙に異なります。南北が逆転していたのです。


 天羽は、全内臓逆位症として生まれました。ある意味、鏡像のような存在です。天羽が、建築家である中村青司に依頼した設計の内容とは・・・・。実像と鏡像、ふたつの建物だったのです。青司は、ルイス・キャロルを設計モチーフに取り込みます。


 ひとつの建物は「不思議の国のアリス」、もうひとつは「鏡の国のアリス」を、内装として織り込んだのです。前者はトランプ、白兎(三月ウサギ)ですが、後者はチェスと黒猫です(再読すると、確かにそのように書き込まれています)。ですが、この程度では、単に「神の灯」を模しただけです。著者は、「残りの20パーセント」に期待してくれと、あとがきに書いています。


 手記は、確かに違和感に満ち満ちています。1979年当時(現在でもそうですが)、ドラッグをあからさまに管理人の前で使用することには、リアリティが感じられません。また、看板とか、標識などに、一々狂喜するほど青年が軽薄だったとも思えません。著者は、読者をこれでもかと、誘導していきます。「きみは、意外に鈍いね」とまで、江南に言っています。


 では、実際犯行があった黒猫館は、どこに存在するのでしょうか。鹿谷は、天羽の前身に注目します。天羽は、かつてタスマニアに留学していたことがあったのです。阿寒湖に「白兎館」、タスマニアに「黒猫館」、それが事件の全貌です。タスマニアだったからこそ、学生たちは、日本国内よりはるかに逸脱した行為をしていたのです・・・・。


 鹿谷は、事件化する意図はありません。学生のひとり麻生の自殺は、氷川の犯行だとも推理します。それが正しければ、黒猫館の転売は、氷川が断固阻止するはずだとも指摘します。今後、事件が表面化するはずはないと・・・・。


 神代は、天羽を「どじすん」だと評しました。ルイス・キャロルの本名です。真偽のほどは分りませんが、ロリコンだとして評され続けた人物です。天羽も、理沙子にアリスを重ねていたのです。そして、理沙子が女性になった時、・・・・。地下室にあった白骨死体は、天羽が殺した理沙子の遺体でした。


 こうして、「黒猫館の殺人」は終わります。エピローグに、手記の拾遺とも言うべき内容が書かれています。レナは他殺ではなく、自然死だと断定しています。絞殺であれば失禁していたはずだし、顔色もうっ血のため、どす黒くなっていたはずだとも書いています。


 そして、犯人は、「神が存在するとすれば、私の知性だ」と豪語していた氷川だと書いています。意識を失って犯人のひとりだと思われることは、彼にとっては、耐え難い事実でした。そんな彼が、密室トリックで麻生を殺したと・・・・。密室トリックは、単純な氷トリックでした。


(蛇足1) 鹿谷が、鮎田と天羽が同一人物であると断定した理由は、単純です。転送されてきた絵葉書と、手記の筆跡が同一だったからです。


(蛇足2) 阿寒湖とタスマニアの位置関係は、赤道を鏡面とした場合、ほぼ鏡像関係にあったからです。実は、赤道である必要はないのですが・・・・・。


(補足) 「鏡の国のアリス」の挿絵は、ウィキペディアから引用しました。


(追記) 館シリーズの第1作から第5作については、既にブログに書いています。興味がありましたら、アクセスしてください。なお、いずれも、ネタバレで書いています。

「十角館の殺人、その1」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10728540843.html

「十角館の殺人、その2」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10728698727.html

「十角館の殺人、その3」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10728979677.html

「水車館の殺人、その1」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10730864039.html

「水車館の殺人、その2」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10731022434.html

「迷路館の殺人、その1」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10734053635.html

「迷路館の殺人、その2」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10734202016.html

「人形館の殺人、その1」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10737213684.html

「人形館の殺人、その2」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10738200100.html

「時計館の殺人、その1」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10742830212.html

「時計館の殺人、その2」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10742977870.html

「時計館の殺人、その3」 http://ameblo.jp/s-kishodo/entry-10743336608.html