第2895回「時計館の殺人、その2、ストーリー、旧館の連続殺人」(館S弟5作)
第2895回は、「時計館の殺人、その2、ストーリー、旧館の連続殺人」(館S弟5作)です。プロローグで、江南(かわみなみ)は、作家であり素人探偵である鹿谷(ししや)に会います。そこで、江南は、オカルト雑誌「 CHAOS (ケイオス)」主催で、時計館の幽霊騒ぎを調査するために、3日間立て籠もる計画を話します。鹿谷も参加しないかという、誘いでもあったのですが、鹿谷は、都合がつかないと断ります・・・・。
1989年7月30日午後6時前、調査隊の9人は、全員"時計館"に集合します。金属類をすべて外し、黒い霊衣に着替えます。金属類には、時計、めがね、イヤリングなど金属であれば全てです。現在であれば、ケータイも含まれると思います。そして、6時ちょうど、旧館に入ります。入り口は、施錠されます。旧館には、窓は一切なく明り取りの天窓が唯一あるだけです。
1. 1日目(7月30日)
午後6時から、3日間にわたる合宿が始ります(開錠は、8月2日午後6時)。まず、部屋割りをします。女性3人には客室が当てられ、男性6人には寝室としてそれぞれの資料室を割り当てられます。1日目のスケジュールとして、午後9時から降霊会を予定しています。もちろん降霊の対象は、9年前に亡くなった古峨永遠(とわ)の霊です。
全員、車座になり、右隣の人の左手を右手でつかみます。全員の手が、リング状につながれます。霊媒師は、テレビにも出演している光明寺美琴です。テーブルの真ん中に、1本のローソクが灯されているだけです。霊が降りてきます。霊は、"とわ"と答えます。イエスであればひとつ、ノーであればふたつ、"霊"がこつんと答える方式で、会話が進みます。1回目としては十分な成果を得ます。調査は、まだ始ったばかりです・・・・。
降霊会が終わった後は、霊媒師をのぞいて全員、広間で会話を交わします。彼女がいないためか、参加者の一人は、霊媒師のトリックを語ります。左に座る人につかまれている左手を、右手に替えて、つかまれている左手で右側ひとの手首をつかむ単純なトリックです(ユーサピア・パラディノ・トリック、上図参照)。ですが、有効なトリックです。空いた右手で、テーブルなどを叩いたのです(タッピング)。
酒も持ち込んでいます。それなりに充実した気分に浸りながら、全員各自の部屋に引き取ります。
2. 2日目(7月31日)
未明の3時頃、江南はトイレのため、目が覚めます。その時、立ち入りを禁止されている"振子の部屋"(故"とわ"の部屋)に、霊媒師が向かっているのを目撃します。霊媒師は、部屋に入ると施錠しますが、中で争っている物音が聞こえます・・・・。ですが、深夜に目覚めた江南には、夢か現か判断が付きません。
① 光明寺美琴(32、霊媒師)・・・・「失踪」 彼女は、外界に通じる唯一の鍵を持っていました。そのため、事件の背景に彼女がいるのではないか、との疑惑が常に付きまといます。全員が起きだしたのは午後です。その段階で、彼女が消えていることが分ります。振子の部屋を調べると開錠されており、部屋の中には血痕が残されていました。全員で全室を調べますが、彼女の姿は見つかりません・・・・。
午後5時頃、美琴の失踪について、全員で話し合います。ですが、緊迫感はなく、学生たちはカード・ゲームなどをします。雑誌スタッフは、持ち込んだ酒を飲みます。三々五々、解散します。
3. 3日目(8月1日)
日にちが変わった直後、相次いで殺人事件が発生します。発見したのは、超常現象研究会の女性メンバーのこずえでした・・・・。5人の学生のうち、2人が死体で発見されたのですが、いずれも時計で強打されています。旧館には、108の時計が飾られているのですが、それを凶器としています。
② 渡辺涼介(20、学生)・・・・「死亡」 強度の近視、広間で殺害されていました。広間は、ミーティングにも使われていた場所です。
③ 樫(かたぎ)早紀子(20、学生)・・・・「死亡」 客室の中で遺体で発見されました。なお、ドアは、開けっ放しとなっていました。9年前にも、時計館に来たことを話していましたが、その記憶はあいまいです。次第に、9年前の出来事が浮かびあがってきます。
残った者たちは、出口の鋼鉄のドアを叩き破ろうとします。鍵は、美琴(①)の失踪とともに消えてしまったからです。しかし、鋼鉄のドアはびくともしません。新館とは長い回廊でつながれていますので、音は届きませんし、まだ深夜です・・・・。メンバーは、パニックになります。
メンバー間の意見は、対立します。カメラマンは自分に割り当てられた部屋で籠城すると称し、ドアをバリケードで封鎖します。未明に全員起こされていますので、正午まで、全員眠っていたのですが・・・・。籠城していたカメラマンの部屋から、悲鳴が上がったのです。
④ 内海篤志(29、カメラマン)・・・・「死亡」 メンバーが助けに行ったとき、ドアはバリケードで封鎖されていました。中には、内海以外の人物がいるように見えたのですが・・・・。窓を割って入ったときには、内海は、殺されていました。時計で、散々殴打されたようです。抜かれたフィルムが捨てられていただけでなく、カメラも持ち去られています。密室殺人です。
⑤ 河原崎潤一(21、学生)・・・・「死亡」 犯人に抵抗しますが、時計の針で刺され、反撃はそこまでとなりました。止めとして、なんども時計で殴打されていました。犯人は、「おまえたちが殺した」とのメッセージを残しています。このメッセージは、"振子の部屋"にも、残されていました。
学生のひとりは、9年前の出来事が今回の惨劇につながっていると感じ始めます。14歳で自殺した古峨永遠(とわ)とは、確かに会った記憶があると・・・・。当時、永遠の自殺の原因となったことを、自分たちは何か仕出かしたかもしれない・・・・。
残ったものは、4人になりました。女子学生こずえは、パニック状態で、部屋に閉じこもります。肝心のリーダーである副編集長は、茫然自失の状態です。比較的冷静な学生・瓜生は、過去(小学生の頃)に起こした過ちに、打ちのめされます。鹿谷とともに、「十角館の殺人」に関与した江南(かわみなみ)は、この状況に茫然とします・・・・。
そして、「そして誰もいなくなった」の最終章が始まります。
4. 4日目(8月2日、最終日)
暦が変わった最終日、深夜、泥酔した副編集長が暴れ始めます。ですが、手がつけられません。こずえのことが気になり、部屋に向かいますが、部屋からいなくなっていました。こずえは、振子の部屋に向かったのです・・・・。
⑥ 新見こずえ(19、学生)・・・・「死亡」 館の設計をしたのは、中村青司です。必ずと言っていいほど、なんらかの"からくり"を施しています。こずえは、それを発見したのです。地下から明りが洩れています。長い通路を潜り抜けると、納骨堂でした。逃亡に成功したのです。ドアには、鍵がかけられていません。ドアを開けると、こずえは、"ありえざるもの"を目撃することになります(それが何かは書かれていません)。そして、後頭部を殴打されます。
⑦ 瓜生民佐男(みさお、20、学生)・・・・「死亡」 超常現象研究会の会長、理屈っぽい青年です。瓜生は、こずえの後を追う形で、振子の部屋へ行きます。そして、誰もいません。写真を見つけます。永遠(とわ)と、現当主である由季弥(現在17)が、ツーショットで写されています。死体として発見された時、瓜生は写真を握り締めていました。ダイイング・メッセージだとすれば、由季弥が犯人と言うことになりますが・・・・。
⑧ 江南(かわみな)孝明(24、編集員)・・・・ 「死亡?」 工学部だが、なぜか雑誌社に就職したミステリ・マニアです。「十角館の殺人」では、鹿谷(島田潔)と共に、探偵をしています。瓜生が写真を握り締めて、亡くなったのを発見したのは、彼です。直後、後頭部を殴打され、昏倒します。生死については、明記されていません。
⑨ 小早川茂郎(44、副編集長)・・・・ 「死亡」 今回の企画の責任者ですが、事件が起きてからは、極めて責任感を欠いています。いわゆる団塊の世代です。著者は極めて批判的に描写しています。"壊れた"小早川は、壊れていない時計まで、全て破壊しつくします。とんでもないオヤジです。天窓も壊そうとしますが、落下した時に、テーブルの下に"あるもの"(何であるか明記されていません)を発見します。それを取り出そうとしたとき、下腹部を何度も殴打され、・・・・。
そして、誰もいなくなりました。伏線が多数書き込まれています。この旧館連続殺人の間に、名探偵(?)・鹿谷の新館での活動が描き込まれています。事件は、旧館と新館が交錯する形で描かれてきた訳ですが、ここからは、一つの解決に向けて収斂していきます。
次回、最後まで書く予定です。文庫本換算100ページにわたる解決編です。全てが矛盾なく提示されます。初読の際、私の推理は、旧館の108台の時計は、何時間か進ませているか、逆に遅らせるというものだったのですが・・・・。想像を超える、はるかにスケールの大きい事件背景になっています。
(蛇足) 私の推理は、館内にあったものとはいえ、江南(⑦)が懐中時計を携帯していましたので、あえなく破綻しました。ただ、飲料水には睡眠薬が混入されていました。全員が眠っている間に、時間トリックとして、108台の時計に細工したように思えたのですが・・・・。