車でいつも通る我が町のケヤキ並木。この新緑を 毎年何十回見て来ただろう。

 

10日は兄イの月命日。境内の新緑の中で いつも迎えて下さる6地蔵様が並んでいる。

   

 

「おおゥ 苅、暑くなったなぁ」

「いよいよ夏も近づきましたね、兄イ 水浴びは7月からにしましょう」

「今でもいいぞ 苅」

「何言ってるんですか いつものお二人さんが 墓所を綺麗に掃除されたばかりですよ」

「だな・・・申し訳ない」

「ハッハッ 兄イ いたづらっこのような顔してもう。兄イ 晩飯はアジの開きに新茶の

 茶漬けでいきますよ」

「おッ 苅、懐事情が悪いな お前。ハハハハ、いいぞ」

「見え見えでバレましたね ハハハ、社長の月命日の帰りに もう一度来ますから、 

 その日に3人でやりましょう」

「おゥ いいぞ、社長も楽しみにしてるぞ きっと」

 

10日は そんな会話で別れたと思う。

その間、暗い夜の海を見ながら 懐かしい想い出に耽ったり、頼まれ仕事をこなしたり

の日々が過ぎ去った。

 

 

17日 社長の月命日は、静岡行きが重なって慌ただしい一日となった。

8時過ぎに家を出て鶴見の墓所へと車を飛ばした。

 

  

 

「よぉ 晴れ男 来たな、しかし今日は早いな」

「社長 風も緩やか 雲一つないですね、線香の煙が揺らいでますよ」

「そ~よ、吾唯足るを知る。悟ってるからな へッへッ」

「ヨットのいいシーズンですね」

「オ~ヨ、苅谷君 お前にゃ悪いがなへッ へッ」

「自分はいつも留守番でしたよ、ハワイにも行けず」

「ヨットに5分も乗らずに船酔いするお前には参ったぜ、しょうがねぇだろ」

「ええ ええ 、判ってます。そんな事より社長、自分は今日は忙しいんです。報告

 だけしときます」

「そうか、うまくやれよ」

「はい。社長 晩酌はとっておきのウイスキーにしましたよ」

「オッ 楽しみだなぁ、苅谷君 忙しいんだろ、静岡に早くいって来いよ」

「兄イにも報告して その足で東名に乗ります。酒宴は遅くなりますよ」

「おゥ 分かった、楽しみにして待ってるぞ」

 

ホントに忙しい。でもここだけはお参りしておきたかった。

以前 大河ドラマで初めて登場した[新野左馬之助親矩(にいのさまのすけちかのり)]という武将の役を演じたことがあるからだ。義を尊び わが身の利害をかえりみずに他人のために尽くした​​​​人物。そこがなんとも好きだった。

           【茶畑に囲まれてコンモリとした丸い丘に墓所がある】

 

帰路 東名高速の車窓から撮った富士山に 夕刻の空が薄く染まっていた。

 

今か今かと お二人が待っている 17日の夜宴。

ステーキは焼いたが晩飯がまだ炊けていない。早めに80年代のサントリーロイヤル

を開けた。社長の第一声。

「オイ 苅谷君、お前これはもう無いぜ 今買えば2~3万するぞ!」

「じゃ 呑みませんか?」

「馬鹿言え、有難くいただくぜ」

 

兄イがカラカッた。

 

「おい苅、社長が嫌がってるぞ 安い焼酎にしてやれ」

「哲、お前ら二人で俺をいじめるのか!!」

 

愉しい大爆笑が始まった。

 

 

 

深夜の半月が 夜空に傾いていた。朗らかな笑い声と話し声は いつまでも続いた。