表に出て拙庭を巡ると 花盛りを目指す草木の姿に 思わず目が優しくなった。
【オカメ桜はソメイヨシノを繋ぐために散り際】 【白蓮が咲き 花桃が開く】
【築山のニラ花も今や盛ん】 【赤い木瓜が鮮やか】
【サクランボの花のつぼみ】 【白い馬酔木】
【フキはまだまだこれから】 【岩つつじの赤紫も競うように】
青空は広がり 風静かにして、「お二人の春の彼岸」詣でには この上ない日になった。
東名高速の上りはこの日も渋滞、一般道の抜け道を總持寺に向けて走った。
陽気のいいこんな日は 誰もが外の春の香に触れてみたぃものだ。
総持寺の駐車場から階段を上ることにした。
【抜けるような青空 社長も晴れ男に改心しましたね 37年かかりましたよ ハハハ】
「イヨーッお前 最高だなぁ苅谷君、言う事なしだ」
「来ましたよ~ 花咲き乱れる春の彼岸ですねぇ 気持ちがいいです」
「4月からは新出発だ。ありがとヨ」
「ハハハ、どういたしまして 兄イと一緒にガッチリ組みましたよ」
「オウ そうだ 苅谷君、今日もビールだけでいいぞ」
「エッ エエー!!社長 、イケますよ今夜からブランデー」
「文句言うな 俺が決めたんだ、その代わり4月の月命日は思い切り飲ませてくれ」
俺は何と倖せ者だ、大スターの大兄イがここまで俺を。
「社長…」
「ホイ 苅谷君 イイってことよ、哲のところ行く前に 三松閣で珈琲飲ませてくれ」
「はい社長 何杯でも」
「バ~カ そんな何杯も飲めるか。ヨット仲間の早川さんとこ顔出してくれよな、
彼ももういい年だ」
「はい 兄イのところ少し遅くなりますが必ず」
一般道を走って 兄いの墓所の近くに差しかかると、暮れ泥む空に 月が高く見えた。
花桶に水を入れ手を合わせる、月が白く輝いて見下ろす。
「兄イ 今日の空 静かですね」
「うん、見詰めてたよ群青に浮かぶ月を。いいもんだな苅」
「はい」
「苅 かなり戻ったなお前 後10キロ肉をつけろよ」
「兄イ そんなにジロジロ見ないこと、今は相撲取ったら負けますが後2週間 投げ飛ば しますよハハハ」
「馬~鹿、俺たちの事は泣かすくせに お前は負けず嫌いだ。まッそれで続いて来たん だから不思議なもんだが… 苅 この4月からはビシビシやるぞ」
「兄イ嬉しいですねぇ、その言葉待ってました!」
「フフッ、苅 お前は何処まで馬鹿なんだ」
「生まれつきで~すハハハハハ」
「苅 俺も今夜の酒宴はビールだけだ、社長 判るヨな」
「言いっこなし!腹に納めています」
兄いの笑い声が誰もいない墓所に響き渡った。
急いだのだが大磯の肉屋の灯りが消えていた。しょうがない適当な肉をスーパーで。
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「ホントにビールだけです。後はサバの開き もしくは長崎皿うどん ジャンケンです」
それでも3人だけの笑い声は 絶えることなく続いた。