重い雲から細かく降り続く雨、さすがの晴れ男にも青空は見えない。

しかも カメラを玄関に置き忘れて来た。スマフォで撮るしかない。

 

兄イの墓所に到着。曇天だが 雨はピタリと止んだ。何とか晴れ男の面目は立った。

〝時雨れ止み 立ち木を撫でる 秋の風〟

   

 

「オウ 苅、止んだなぁ」

「当たりき車力 二人とも天下の晴れ男よ」

「だなぁ」

「顔が少し暗いぞ苅 お前」

「えっ…ですか? まっ ドラマのゲスト出演の役づくりの精でしょ」

「ほんとか~ 役づくりするお前 見たことないぞ」

「兄イ そりゃ言い過ぎだ。初めてやる胸を患っている役柄なんで たまにはね。

 兄イだって凄かったですよ 仁義の墓場の時の役づくりは 、

 傍に寄れませんでしたからね」

「それが役者よ ハハハ」

 

そんな会話に被って 淡墨桜の香が漂った。

 

「兄イ、人生 長いと 生きることを噛み締める時間も 長くなりますねぇ」

「哀しさも 寂しさもな 苅」

「確かに…湿っぽいですよ兄イ、晩飯は珍品で ドーンとやりましょう

「珍品 何だそれ?」

「今は内緒。詣でる日じゃないけど 今日は特別に社長のところに行って 

 それを伝えてきます。3人でやりましょう」

「教えろ 苅!」

「酒が旨くなるヤツですよ 兄イ」

「待て~ッ 苅~!!」

「来月は2度来ますよ~ 兄イー」

 

雨は降ってこない。社長の墓所へ車を飛ばした。

 

   

 

「ようッ 何だ今日は 来る日じゃないだろ? お前が来ると雨止むよなぁ

「いや 兄イの月命日でお参りして来たんですがね、珍しいものが手に入ったんで

 これは社長も一緒にグイッとやらねばと思いましてね」

「よっしゃ お前に乗った 苅谷君!」

「そう来なくっちゃ 社長。本場物のからすみですよ」

「日本酒あっか?焼酎でもいい。先ずそれからいこう!!」

「はいはい、今日は兄いが主役ですよ。いいですね社長」

「解った。最初の箸付けは哲 それから俺たちッてことだ」

「いや2番は社長です」

「わかった わかった わかった。早く行けー、来月は今年の最後だ必ず来いよ苅谷君」

「36年間 欠かしたことは無いですよハハハ。行きまーす」

 

俺はこのお二人が大好きだ。何でもしてあげたい 本当に世話になった。

ほんの少し雨の気配が来た。

 

   

 

   

 

 

一本15cmは有にある 立派なからすみだ。お二人がこんなに喜んでくれた。

送り主に心から感謝だ。最初の箸付けは兄イ 顔がほころぶ。社長 迷い箸(笑)

「日田全麹いいちこ」と良く合う。

嬉しい 本当に嬉しい。いつもと同じ様に騒ぐ我々だが、此岸という欲や煩悩にまみれたこの世に居るのは俺だけだ。それでもいい お二人との間は昔のままだ。