朝から曇天。

「お前と哲には負けた。雨男代表だった俺は、晴れ男になるよ」

と言った社長。この曇りで意地を見せたのかな? 

「社長、何と仰ろうと降らせませんよ絶対的に」

車の中でそう呟いた。

 

【重層仁王門】

 

いつものように売店で線香を購入し墓所を訪ねた。曇なのにヤケに明るい。

「待ってるな」と直感。

 

「おッ来たな苅谷君、ほら横に来い」

「ご機嫌ですね社長、先ず香を焚いて御挨拶が先ですよ」

「顔を見たから、んなこたぁどうでもいい」

「ダメ、筋です」

「お前なぁ昔からそうだ。そんで泣かされたぜ」

 

現状と今後の報告、自分の気持ち、社長に曝け出して笑って帰る。それが常だ。

ソッポを向きながら、クルクルッと目をまるめて真剣に耳を傾ける。

今でもシッカリ背中を押してくれている。何とも有難い大兄イだ。

 

「ホイ苅谷君、そんだけか?」

「まあ、そんなとこです」

「ホイよ、哲にも同じ事言うんだな?」

「まあ、そんなとこです」

「ホイッ解った。お前 もう哲んとこ行け」

「えッはぁ?、いきなり冷たいスよ!ステーキ・麦焼酎・〆のブランデーお預け」

「待った!そりゃねえだろ」

「ですか、じゃあどうします?」

「謝りゃぁいいんだろ」

「です」

「バッキャロー!」

「ヘッヘッヘーだ、マイッタか」

 

笑い合って次の約束をした。總持寺の広間で珈琲タイム。

それから兄イの墓所へと急いだ。

 

静寂、佇む六地蔵様に供えられた花が鮮やかだ。

兄イの気配がする。ウン?らしくなく何処かソワソワ、春の精かな。

【迎えてくれた六地蔵様】

 

「兄イ

「オオッ、待ってたぞ苅。早くここに来い」

「それって社長よりセッカチ。彼岸の中日、淡墨桜の香からですよ」

「……(ジーッと観てる)」

「あれ?どうしたんです兄イ」

「何でもねえよ、早く済ませろ苅」

「急いては事を仕損じる。兄イが言ってましたね」

「馬鹿野郎!減らず口叩くな。ハ~アッ、負けたよお前にはフッフ」

 

兄イは20代後半から、原因不明の病にズーッと苦しんで来た。

一言も口にせず 顔にも出さず  いつも笑みを絶やさなかった。

俺は、そんな兄イの不屈の精神と、痛ましい努力に打たれ、約50年を共に歩んだ。

兄イは「難病」の辛さを誰よりもよく知っている。

「糖原病患者支援」は、皆の支援で巧く捗っている。

 

「良かったな、苅」

「兄イと社長のお力、感謝します」

「なあ苅、これからもより一層あと押しするぞ」

「ありがとうございます!何でもしますので言ってください」

「オッいいのか?よし じゃあ…止めたハハハハ」

「えッ?あッ、それ必要なし ガハハハ」

 

兄イも明るかった。

重要文化財の寺院建物を背景に、海棠の蕾が開き始めた。


遅くなったが酒宴と晩飯。お墓参りの日は断酒解禁日。

肴は沖縄に行かれた方の土産、好物の「島らっきょう」に「海ぶどう」

【島らっきょう】

 

【海ぶどう】

 

【ブランデー】

 

先ずは「ちびっぽジュース割り焼酎」で乾杯!春の夜宴の始りだ。賑やかになるぞー。

「肴は3人平等に」

「社長、駄目ですブランデーは焼酎の後。ですよねぇ兄イ」

「いいじゃねえか苅、社長ブランデー切れなんだよ」

「しょうがねえなぁ」

「苅谷君、芸子さんは

「何言ってんですか社長!兄イ、何か言ってください」

「オオッ、連れて来い苅、お前」

「もういいです!俺とことんやるぞー」

 

笑の渦の中、愉快な夜は豪快に更けていった。