快晴。東名高速は車が多め、しかし青空は気分がいい。先ず、社長の墓所へ。
「来たな、苅谷君。先に言うけどお前と哲には負けた」
「でしょ、この天気。もう…はいカラー」
「よっしゃ、なんちゃって」
「社長、誕生日おめでとうございます。米寿記念も兼ねて」
「俺はあの時以来歳は取ってねえよ」
「判ってます。でも社長は僕の中で生きてますから」
「…泣かせんなよ」
お線香をあげて、映画製作・糖原病HP・今後の方向等々色んなことを話した。
自分には相談相手がいない。親身になってくれるのは社長と兄イだけだ。
三人、歳の差はあったがいつもそうだった。
「褒めてくれましたね、晩飯はステーキ頼んでますよ」
「俺なぁ、刺身が喰いてえんだ」
「えーッ!前回お会いした時ステーキと言ったじゃないスか!」
「あん時はその日に喰いたかったからよ、お前違うもの喰わせたじゃないか」
「いやーまあ、でしたけど都合があって…、兄イに訊いてみます」
「へッへッ、哲は文句言わんぜ」
「ったく、分かりましたよ。その代わりブランデーはお預けです」
「オイッ、それはないぜ」
「らしいものは差し上げます、では兄イのとこへ」
「怒ったのか?」
「べ~です。ハハハ」
目黒に向かって車を走らせた。空は青空だが3時をまわっていた。
女性の方がお一人花を挿しお線香をあげていた。ありがとうございます、
どうぞお先にと言って僕は待った。
「兄イ、来ましたよ。淡墨桜です」
「オオッありがとう苅、社長何か言ってたか?」
「兄イも同じでしょ、はいカラー」
「バカ、寒いのに」
「兄イ、誕生日おめでとうございます。そして傘寿のお祝いです」
「照れるじゃねえか苅、お前」
「兄イは俺の心の中で脈々と生きてます。先に言っときます」
兄イは僕を試すように沢山の質問を投げかけた。全て明確に応えられた。
「苅、お前、何処となく若返ったなぁ」
「そう思いますか?、自分もそう感じるんです。やること山のようにあって」
「いいことだ、お前は何かのために動いている時が最高だよ苅。勝負の時かな」
「お前は歳を経て花が咲く、そう言ってましたね。覚えてます」
「そんなこと言ったかなあ」
「またとぼける」
「苅、つまらんこと言うけど、恒彦が先に逝って弟はお前だけだ」
「兄イ、俺は本当の兄貴だと思ってます。社長は大兄貴ですよ」
「嬉しいねぇ苅、お前…」
「はいッ、これ以上褒めても何も出ません」
「バカ、」
「兄イ、晩飯にステーキ頼んでいるのに社長は刺身がいいって言うんです」
「しょうがねえなぁ、勘弁しろよ苅」
「やっぱりね。ハイハイ」
もう日が落ちた。寿司屋に行って刺身を頼もう。兄イに別れを告げて車に乗った。
東名高速ではもう暗くなっていた。いつものすし屋は満席、注文だけして車で待った。
月が浮かぶ。
どうぞ、刺身です。ブランデーの代わりに米寿と傘寿のお祝いにシャンパンを。
お前も二人に囲まれて愉しくやれよ。