一応 気分的に黒の正装だ。

總持寺の駐車場を出ると、真っ白な百合1茎がポツリと咲いていた。

風に揺られて、お辞儀をしてくれた。そう、明日15日は77回目の終戦記念日。

 

坂を上り 先代 裕次郎さんの墓所に、少し汗ばむ。

「いよッ 苅谷君 また来たな」

「晴れましたね 歓迎のお言葉 ありがとうございます。」

「もう雨男は止め、お前さんと哲に組まれたらお手上げだ」

 

お線香を手向け 手を合わせた。30数年 来る度に寺の売店の線香を使えと仰る。

 

「でしょ ハハ。社長 僕はこの前、難病指定のブロガーさんの心に泣かされました。

 兄イの13回忌の日 帰宅して遅くブログを開いたら〝くちなしの花〟がアップされて

 お二人で歌われている映像が流れてたんです」

 

「そうか…泣けるな、苅谷君よく解るよ。お前と哲と俺、3人だけの約束は」

「口が裂けても でしょ。僕がそんな男」

「ハイよー、シルバーなんちゃってな へへ、もう言わねえよ」

 

「三位一体です。ところで社長、今日の晩飯は何にしますか?」

「おッ 来たね、呑みてえよ

「そんなもん百も承知です。じゃアテだけでいいんですね」

「イジめんなよ 苅谷君。刺身だったからステーキ」

「予想通り。実はね社長 美味そうなステーキ頂いたんです」

「分った 早く哲んとこ行ってやれ」

「ったく現金なんだからハハハ。解りました それでは」

オーイ 苅谷君。及ばずながら糖原病支援、俺がついてるぞ

 

泣かせる言葉だった。

 

 

 

 

「兄イ、約束通り先代のところを先にお参りしてきました」

「オオ 来たか苅、この前は大勢に来てもらって有難かった、心憎い奴だよお前」

「兄イ 随分と水浴びしましたよね。冷えませんでしたか?」

「お前の水が一番気持ち良かった」

「持ち上げますねえ兄イ、何も出ませんよ」

「バレたか ハッハッハ」

「見え見えハハハ」

 

僕は持ってきたホウズキを対花で挿した、桔梗の紫と意外にも合う。薄墨桜の線香

の香りがフワッと漂う。

 

「晩飯、社長はステーキと言いました」

「オオ 俺もいいぞ 苅、唯 ブランデーはなあ」

「ワインの赤がチョッと残ってます。まだキルクあけてない白の上物ありますよ」

「おッ それ いいねえ」

「兄イ、今日は空が高いですねえ」

「秋だなあ、盆が過ぎると」

 

「なあ苅 無理するなよ お前」

「兄イ この前も同じこと言いましたよ大丈夫です。いま救命ボートに10人乗ってる。

 11人乗ったら完全にボートは沈み全員が死ぬ。自分は11人目になれるかどうか

 考えてるんだ。44年前 僕に言った言葉です。兄イはその姿勢を貫いてきた」

「お前には苦労かけた」

「バカ言わんでください! 晩飯無です」

「また怒る苅 お前は」

「兄イ、世は海なり 身は船なり 志は楫なり というじゃないですか。

  兄イはブレそうになっても楫を離さなかった。俺は半世紀それを見てきました。

 社長もフッと3人の約束と言いました。二人とも変ですよ」

「分った、もう言わん 身体壊すなよ苅」

「ガッテン承知の助!ハハハ」

「フッ しょうがないなあ 苅 お前は」

 

美味いステーキ作ろうと思いながら帰路に就いたが、後ろ髪惹かれた…が消えた。

 

凄い!肉厚2cm どころじゃない、4cmもあった。縦切りする前に測ればよかった。

 

先代はレアミディアム、兄いはミディアム、家内はウェルダン。ややこしい。

とにかく皿に分けずに、家内の分は胡瓜で四角に囲った。今日は塩コショウだけ。

さあ食べてください。左から赤ワイン、ブランデー、白ワイン。

後で4人で庭に出て月を楽しみましょう。そしてまた飲め飲め、笑え笑え。

 

 

 

豆サラダ

 

 

14日23時19分の月。裕次郎さん・兄イ・家内・僕の4名で観たのは初めてだ。