都内は27℃。今年初めて車のクーラーを使った。

東名高速上り、車3代の追突事故で渋滞し到着が遅れてしまった。

境内の樹木の新芽が美しい。

石楠花の鮮やかな赤が映える。

白と赤紫のミツバツツジが並んで咲いている。墓所も春風駘蕩の時節。

「兄イ、来ました。夏日でも今日は暑いですよ」

「オゥ苅、夏のスーツか。春霞の青空だなあ」

「はい、久方ぶりに気持ちいいですねえ。今日のお線香は、瑞々しい香りがしますよ」

「顔に似合わんことをする奴だ、お前は」

「またまたそんな憎まれ口を、気は心です」

「辛いなあ苅、ウクライナ」

「ええ…。兄イ、下旬に家内の納骨に九州に行きます」

「そうか、離れても一体だ。二人のことはよく判ってる」

「はい」

「行ってこい、苅」

「はい」

「奥さんと社長と俺、3人で晩飯喰うのはお前の家だ。これからもずっとだ、いいな苅」

「…はい」

 

瞼が潤むのは、線香の煙のせいだ。

 

「兄イ、夕食は山菜と旨い刺身でいいですか?」

「オゥ、いいぞ。…あのなあ、言い難いんだがひとつ頼みがあるんだ苅」

「はい、何なりと」

「今度、城下を喰わせてくれんか?」

「解りました!城下カレイ5月が旬です、次の月命日に必ず。でも刺身が続きますよ」

「いいぞ毎日でも、もう何年も喰ってないんでな、悪いなあ」

「そうでしたね、4年です。捌き方は兄イより遥かに下手ですよ」

「ハハッ、知ってるよ。楽しみにしてるぞ」

「はい。任せてください」

 

帰路の東名はガラガラだった。何か心に残っていた重苦しいものが、一つ消えた。

 

さあ兄イ、召し上がってください。お前は一昨日寿司だったけど、刺身はお前の好きなアジとイカもあるし、しっかり食べろよ。イクラがのってる方がお前だ。

兄イ、

鰹節をまぶした芹、野蒜は合わせ味噌、塩茹でのコゴミ。みんな旬、美味いですよ。