「おーッ、待ってたぞ。雲一つ無いな」
「ですねえー。気持ちいいけど風が強いですね。
チョッと掃きますよ」
「いいよ苅、きりないぞ」
「気は心ですから」
掃いても掃いても枯葉が飛んでくる。
「もう止めとけ」
「そうします」
風が吹くのも、木の葉が舞うのも、清々しい天気も自然の摂理。
「兄イ、昨夜は一気に詩集を読みました」
「詩集?珍しいな、考古学じゃなくてお前が詩集なんて」
「読みますよ僕だって。兄イ、覚えてますか詩を」
「誰の?」
〝私は紫陽花があまり好きではない。花のようで花ではなく、
ひと雨ごとに色移りして、紫陽花の雨の歌は…〟
「そこまで!何でお前」
「出会って4年目でしたか、芝に寝転んで見せてくれたノートの
1ページ目、覚えてますか?」
「もういい!負けたよ苅、お前には」
「文学青年渡哲也、もっと生身で付き合いたかったですよ」
「苅、俺なあ。お前が来るの楽しみなんだ」
「泣けちゃいますよ兄イ。嬉しいです。さあ、今日の晩飯何がいい
ですか?」
「う~ん…、鰻かなあ、いやお前に任せるよ」
「判りました。」
帰路、遠くに富士が見えた。
30年ぶりかなあ、家内とよく行った〝うな和〟
息子さんの代になっていたが覚えていてくれた。
大隅のごぼうサラダは膳に載らないので、箸と上の段に供えた。
さあ、召し上がってください。
お前も久しぶりだろう?あの息子さん、貫禄ある2代目になったぞ