昨年の秋、自宅近くの空き地に知らぬ間にセイタカアワダチソウが群生していると書いたのだが、
今年はほとんど見かけず、代わりにススキが勢いを増している。
外来植物のセイタカアワダチソウは、
他の植物の成長を阻害する成分を出して一時期は優勢になるが、
やがて、自ら出した毒素にやられて衰退していくという説は本当だった。
その点、日本古来からの在来種であるススキは悠々としたもの。
風土に適応して、滅びることなく生き続けている。
近年は、セイタカアワダチソウが侵入したのと逆のルートで、ススキが北米大陸に進出して勢力を広げており、
現地では “侵略的外来種” に指定されているという。
このように、困った雑草のように思われがちなススキだが、
実は、昔は生活になくてはならないものだった。
ススキの別名は尾花が有名だが、
カヤ (茅, 萱) とも呼ばれて、茅葺 (かやぶき) 屋根の材料にしたり、家畜の飼料にしたりした。
そのため、かつては、農村の周辺にはススキを意図的に群生させたススキ野原があり、
必要に応じて刈り取って利用していた。
こういったススキ野原は茅場 (かやば) と呼ばれ、東京にある茅場町 (正式には日本橋茅場町) などに、その名を残している。
今でこそ、茅場町といえば企業のビルが建ち並ふオフィス街だが、昔は一面のススキ野原だった。
江戸時代には、そのススキ (茅) を刈り取って商う商人が住んでいたという。
時代の流れとともにススキが利用されなくなると、茅場は開発されたり、雑木林になったりして姿を消した。
それとともに、茅場に棲んでいた動物にも変化が現れた。
カヤネズミと呼ばれる小型のネズミは、ススキやオギなどの葉を利用して、
地表から約1mの高さに直径8~10cmほどの球形の巣を作る。
そのため、茅場は格好の生息場所であったが、
(カヤネズミの名もここから付いた)
茅場の消失により数を減らし、現在では絶滅が危惧されている。
草の上に巣を作るネズミは世界的にも珍しい。
ちなみに、カヤネズミはネズミといっても人家に入ってくることはなく、
主に草の種やイナゴやバッタを食べている。
稲の害虫であるイナゴやバッタを補食してくれるので、人間にとっては益獣だったのだが。
何気なく生えているススキひとつとっても、
時代の変遷とともに、環境の大きな変化を反映しているのがわかる。
これから先、さらに激烈な自然界の変化が待っているような気がして、
ちょっと恐ろしくなった次第。