おいしいはなし | Halloween!Commando☆2021

黒い黒いチョコレート


ちょこれーと?


苦くて甘い
舌に乗せるととろりと溶けてなくなって、いつまでもきえない


チョコレート?
食べたい!!


きつねいろで香ばしい匂いのクッキーやビスケット


くっきー?


さくさく噛むとほろほろに砕けて
ずっと舌に残るバターの味がたまらなくて
消えてしまうのがさびしくてもう一枚…ってキリがない


クッキー!食べたい!


はちみつ色の透きとおったきれいなキャンディー


きゃんでぃー?


甘い甘い、レインドロップみたいな
小さなかけらなのに信じられないくらいねっとり甘い


キャンディー、食べたい!!


薄い羽みたいなパイが幾重にも重なりあって
美味しい中身がびっしり詰まっている


ぱい?


りんごのパイ、すぐりのパイ、くるみのパイ
かぼちゃのパイ…


りんごのパイ、食べたい!!


紅いあかいイチゴのケーキ


けーき?


白いクリームがふわふわで甘くて
イチゴの冷たいじゅわじゅわのすっぱさときたら最高にベストマッチ


ケーキ?
たべたいたべたいたべたい!!


どれもみんな食べたい!はやく貰いに行こう!!



君はそんなふうに急かすけれど、

まだ日が高いから、もう少しがまんしなくてはいけない


ちゃんと衣装も用意して
黒い大きな帽子とか、長いマント
それとも白いひらひらした大きな布?
とにかくちゃんと隠れられるようなそんなものを身につけて


お菓子をもらう時には特に気をつけなくてはならない
布に隠した本性をチラリとでもみせちゃいけない


今夜はどの家のドアから叩こうか?

君はお菓子に夢中でそんなことにはちっとも興味がなさそうだけれど
お菓子をくれない家にはイタズラできるって
それが本当の本当の目的
お仲間が欲しいって、淋しい淋しいと彷徨うだけの日々には
一年に一度だけの、この夜をばかり待ち望む

君にもそのうちわかると思うけれど―――



そろそろ日が暮れる
あの大きな明るい窓の家を目指そう
あそこにはやさしそうな男の人と女の人と、小さな子供たちが住んでいる





Halloween!Commando☆



Trick or Treat! Trick or Treat!


玄関が開いて、女の人が現れた。

「来たわね、モンスター君たち。」

「お菓子くれなきゃいたずらするぞ」 僕たちは、脅しの決めポーズで宣言した。

女の人の背後では、パーティーでもしているようなたくさんの気配があった。


「ねぇ、モンスター君たち。お菓子はすきなだけあげるわ。だからちょっと寄っていってくれないかしら?うちのこどもたちね、まだモンスターになれなくておうちにいるんだけど、先輩モンスターにお手本をみせてほしいのよ^^どうかしら?」

そんな申し出ははじめてだから僕は困ってしまったが、答えるより先に僕の小さいおばけが室内に突入して行ってしまった。

「いいにおいっ!

ケーキッ!チョコレート!クッキー!りんごパイあるっ?食べたいっ!」

「さあどうぞ、なんでも食べてね、あなたも入って。

にぎやかになってきてうれしいわ。」


家は外観とは違い、ハロウィーンの飾りつけと、奥の部屋では電気も消した 完全なる暗闇の中でのいくつかのジャック・オー・ランタンの灯りのみ。

何という曲なのか、レクイエム風な楽曲が流れている。

部屋の中にはあちらこちらにいろんな格好をしたモンスターたちがいるようで、ランタンをあびてお菓子をほおばる影がうごめいている。

それにあわせるように こそこそ話しやちいさな笑い声がさんざめく。

「びっくりした?ムード満点でしょ?怖いことないわよねモンスター君、さあ、どうぞ。」


きらびやかに夢のようなお菓子が並んでいる。ああ、想像したよりもっとたくさんの、名前も知らない甘い、あまい、やさしいスウィーツ・・・!ぼくの小さいおばけはつぎつぎとお菓子をほおばっては感激で舞い上がってしまいそうな勢い。

長居はできない。見破られては大変だ。


それにしても・・・このお菓子っ!体中に力がみなぎるような、大きな声で笑いたくなるような、ジャンプで月をも越えてしまいそうな、なんておいしい食べ物なのかっ!

こんなのは今まで食べたことが無い。ぼくのおばけもすぐに夢中になって、その皿は二人で食べつくしてしまったし、その横のこれもまた格別。

はっと気づくと、こどもが二人、新しいお皿をもってぼくたちに差し出していた。

「これもおいしいよ。」「ありがとう。このうちの子?」二人ともにっこりうなずいた。

どきどきしながら、いっしょにお菓子をほうばった。袖口が透明だなんてばれないよね?食べ方 おかしくなんかないよね?食べながらまわりを見回すと、数人のモンスターたちがおもしろそうにこっちを見ていた。壁際のソファーには、おとうさんだろう、仮装をした男の人が楽しげにくつろいでいる。


「どう?気に入ってもらえたかしら?このお料理やこのお菓子たちは?」

ああ、僕はほんとうにびっくりしたのだ!こんなにおいしいものは今まで一度も食べたことが無い。底なしにおいしい、ほんとうに驚きだ!

そんなことを女の人にまくしたててしまった。僕としたことが、興奮しているみたいだ。

女の人が満足そうにほほえんで、言った。


「うれしいわ。ようこそ、モンスターたち。今夜はみんなで楽しみましょう。

わたしたちのハロウィーンを。」


そして言った彼女のせりふに、僕は、耳を疑った。

僕たちが特においしく食べていたお菓子の秘密。

この家でお菓子を食べているモンスターに化けた子供たちのたましいを、ちょっとずつイタダイテ、月下に咲く花の肉厚な実と 芳香がぎゅっと詰まった大きなつぼみをいっきに攪拌し、小麦粉に混ぜる。


「このお菓子に目がなくなっちゃうのが、ホンモノのあかしよ^^

月の雫やこどものタマシイは好き?」


ぼくのちいさいおばけは、デビュー最初からついているな。

この先のハロウィーンの晩は、ここにみんなで集うのだ。

人の子の化けたモンスターにもおいしいお菓子を食べさせて、そのかわりにちょっとだけ、いのちの欠片をもらっておく。


みんなしあわせ。そしてだれしもがおいしいお菓子にありつける。

やってくる子供たちを待っていればいい、一石二鳥のおいしいはなし。

もうさみしいことはない。

こんなに仲間が集うなんて。それもこんな画期的な企画で人間まで交えて!


やっぱり魔女ってすごいんだ。

お菓子でひとを操るんだから!



入れ替わり立ち代り、現れてはお菓子を食べて立ち去る子供たちを見送りながら、僕たちも たらふく食べた。