夏の全国高校野球はタイブレークにもつれる接戦の末、京都国際(京都府)が初優勝となりました。
さて、昨今の夏の高校野球では「夏の暑さ」とは切っても切れない程向き合わなければいけなくなりました。
そこでとある記事で浮上したのが『7イニング制』導入です。
今回はこれに関して有効な策と言えるかどうか私なりに検討したいと思います。
前提として『熱中症』とはどういうものなのか把握しなければなりません。
熱中症は主にどういう人がなりやすいか調べると
- 乳幼児や高齢者
- 運動不足や運動になれていない運動部の1年生
- 寝不足や疲れなどで体調が悪い時
全日本病院協会HPより引用
ということでこれを考えると熱中症のリスクが高いのはどちらかと言えば観衆や応援団(チアリーダーはまだしも吹奏楽等は危ない)で普段からキツイ練習している選手はそこまで高くはないと考えられます。ただ、3つめの文言からするに選手でも試合前後のケアを適切にしなければ発症しやすくなるということは頭にいれておく必要がありますし、試合中の対策が不十分だから発症したとは必ずしも言えないという事になります。
では、野球としての側面から考えるとどうでしょうか?
現場からの証言を元に分析してみたいと思います。
- 「たとえば完全試合をやられた場合、7回制だと3番打者で試合が終わる。4番以下の選手は2回しか打席に立てないことになりますよね。〈中略〉7回を球の速い投手3人がかりでこられたら、手が出ないんじゃねえかなって思いますね」(早稲田実 和泉監督)
- 「1度のミス(失点)で取り返しがつかなくなることはあるかもしれません。ただ、基本は7回制の導入によって私立と公立の差は広がるんじゃないかなと思いますね。やっぱり、選手をたくさん抱えているところの方が安定して戦えると思います」(京都国際 小牧監督)
- 「一生懸命に野球をやっている子どもたちに対して、イニングを減らすことは、現場の監督として言わせていただくなら避けてもらいたい。9イニングなら、スタメンの全選手が最低3打席は立つことができる。2回しか立てない選手がいるとなると、ちょっと少ないのかなと思う。しっかり9イニングやらせてもらいたいなというのは個人的な意見としてあります」(大阪桐蔭 西谷監督)
Number 甲子園7回制に猛反対…大阪桐蔭・西谷浩一監督がじっくり語る“決定的な理由”より引用
イニング数が減少することによって野手の出場機会の差が生じる事、有力な投手を育成しやすい私立勢が優位に立てるのではないか?という懸念が伺えます。確かに試合を見てると、ドラフト戦線にあがる有力投手なら7回は容易に完投出来ると感じられますし、そうじゃないとダメだろうなと思います。
- 「日程(スケジュール)も含め、いろんなことをしていただいている。他の競技の状況は私も勉強不足ですが、たとえばサッカーやラグビーはずっと(炎天下で行われるゲームに)出ずっぱりですよね。その点、野球はベンチで休憩する時間もありますし、クーリングタイムも考えてもらっていますよね。(大阪桐蔭の)他の部活動の先生の話を聞く限り、野球はすごく考えていただいていると思います」 (大阪桐蔭 西谷監督)
Number 甲子園7回制に猛反対…
大阪桐蔭・西谷浩一監督がじっくり語る
“決定的な理由”より引用
大阪桐蔭高校西谷監督は、他の部活動や対外試合と比べて実は甲子園大会はかなり配慮しているとも証言しています。確かに野球は表裏でベンチに入る時間もありますし、5回終了後にクーリングタイムが新設されました。当初はその使い方に苦労してた印象ですが、今ではしっかり有効活用してるなと感じられます。
- 「部員の人数的に、複数のピッチャーを持てないチームもあるんですよ。今年はひとり優れたピッチャーがいて甲子園を目指せる……というチームなのに、最後まで投げられないという状況が生まれてしまう。現実的に高校野球全体を考えれば、7回制にいい面もある」(花咲徳栄 U-18侍ジャパンヘッドコーチ経験者 岩井監督)
Number 高校野球“7回制”の賛否割れた…
金足農から大阪桐蔭まで“監督ポツリ”意外な本音「9回制より守りたいのは…」
「部員減の高校チャンス」揺れる現場より引用
否定的な証言がある一方、昨今の少子化により人を集めるのが難しいチームからすればイニングが減少することで恩恵があるのではと冷静に分析されている証言もあります。
ここまでの様々な証言を勘案するに
- 有力投手を複数育成しやすい私立勢が優位に立つ可能性が高い
- 打席数の差が生じる事で野手の育成に影響が出かねない
- 実は高校野球って結構配慮してもらってる
- 地域やチーム事情によっては7イニング制はありがたいかも
熱中症と野球の両面から7イニング制について見てきました。
私個人としての考えとしては、イニングを減少するメリット以上にデメリットの方が大きいので止めた方が良いというのが結論です。
選手は普段から厳しい練習を積んできてるのでそう簡単に症状は出ない(出たとしてもベンチ人数を増やしたのでやりくりはしやすい)、それが為に選手の成長に影響が出かねないならば私は下手にやるべきではないというところです。
また、低反発バットの導入で投打のバランスが良化して、どのチームでも勝ち進むチャンスが生まれてるだけに更にバランスを傾けかねない事はすべきでないと思います。
もう1つ申し上げたい(むしろこっちが重要)のはどこかの大会で7イニング制をテストすべきということです。確かに現場の証言はいくつか取り上げて見ましたが、その多くは実際7イニング制の野球を目の当たりしてない方々の主観あるいは想像という部分があるため、賛否どちらの側にしろ実際に采配してみたら…ということがあると思います。
ですからいきなり施行するのではなく、どこかの大会(国体や春の地方大会等あまり全国大会に影響のない大会)でテストして関係者の声を集めるべきだろうと思います。
実際社会人野球では小規模なクラブ大会限定で7イニング制を運用しています。
低反発バットの導入で正しく野球をしないとダメ、以前のように力任せで勝ち上がるというのがなくなる事が想定され大きく変わる高校野球界、何もやらないのはダメにしても野球の根幹に関わる7イニング制の導入については慎重な対応を行っていただきたいものです。
〈了〉