シャッターがあけられ、真っ暗だったスクリーンに光が射す。
一人の女性が大量の荷物を業者に引き渡しているシーンから始まる。
リーマンショック後、企業が倒産し、その影響で住んでいた家を失ったファーンという女性が主人公。
ファーンはキャンピングカーを家代わりにして、暮らしている。
スーパーで、知り合いらしき親子連れと会話するファーン。
女の子がファーンのことを「先生」と言っていたので、この子どもは昔、ファーンの教え子だったらしい。
自分のことを、ホームレスではなく「ハウスレスだ」と言うファーン。
「ホームレス」は、家(住居)がない人ってだけではなく、家族がいない人、ともいえるけど。
「ハウスレス」はなんだろう。ただ、家がない人ってことなのかな。
アメリカでは、昔から放浪する人のことを「ノマド」というそうで。
そういう生き方が認められている。
アメリカのアマゾンで働いてるファーン。でも、就業期間が終わったら、また次の仕事を探さないといけない。収入はそんなに多くなさそう。
車は駐車場に置いて、そこで生活するんだけど、たまに「出てけ」と怒鳴ってくる人もいて、ずっとその場にはいられない。
体調が悪くなっても、病気になっても、自分一人でどうにかしなければならない。
同じところにずっと住めない。
ときどき、同じように放浪して暮らしている人たちといっしょになる。
お互い、自分のことを話したり、食べ物をあげたり、物々交換したり、フリーマーケットをしてお金を手に入れたりする。大金を手に入れられないので、ほとんどその日暮らしという感じ。
誰かに話しかけられたり、こっちから話しかけることもある。
ずっと一人でいたいわけではないらしい。けど、なぜか家族と暮らそうとはしない。
姉が、この家でいっしょに暮さないかと言っても、それを断る。
この映画って、なんか、人生そのものみたいな感じだなぁと思った。
といっても、そんなに重い話とか暗い話でもない。
印象に残ってるシーン。
リンダとメイとハグして、別れ際にファーンが言われたのが
「友情をありがとう」。
もうひとつは、ノマドのグループのリーダーの男性。
5年前に息子を亡くしている。もし生きていたら、今日は彼の33歳の誕生日だった。
ファーンに対して息子の話を始めたとたん、涙ぐむ男性。
ノマドは高齢者が多いという。みんな、喪失感や悲しみを抱えている。
「それでいい。それが当然だ」
アメリカの自然の風景がすごく綺麗だった。
近くで数人誰かが話していて、そこから少し離れたところにファーンが座っている、っていうシーンがあるんだけど、本人はそんなに孤独を感じてなさそうに見える。
でも、周囲はベージュの色の岩と砂が広がっていて、そんなところに一人でいるファーンはすごい寂しそうに見える。
映画の後半になると、主人公は夫を亡くして、夫が生きていた場所にずっといたいって気持ちがあることがわかる。
これって、一人の女性が大事な人を亡くして、喪失感っていうものすごく大きなダメージから回復していくまでを撮ってる映画なのかな、と思った。
アメリカの人は、心に傷を負った人に対して優しいですね。1対1で話したり、みんなで集まって食事しながら話したり。
これ、日本だったら(こういう生き方は)できないだろうな。
一人でいることは孤独で、孤独でいるのは良くないっていう考え方? みたいなものがあるし。
また、ガレージに戻ってファーン。おそらく、夫との思い出がたくさんあるものを、業者に引き取ってもらった。
そして、また車に乗って、どこかに行く。
「旅立った仲間たちにささぐ
またどこかの旅先で」
これが、ラストシーンに出てきた、詩のような言葉。
さよならは言わない。
ファーンも、きっと、夫とさよならしないままこれからも生きていくんだろうな。