月を見ると、あなたを思い出す。
「気ぃ早いなぁ。もうお月見どすか?」
とても綺麗な月に、縁側へ誘われた。
暫くうっとりと眺めていると、後ろから涼しげな香りと笑みを含んだ声。
「今頃の方が気候も良いですよ」
可愛げのない返答に気を悪くした風もなく、かもしれんね、と。
振り返るとその手にあるのはいつもの扇子とは違うものだった。
「…お酒?」
「へぇ。わてが飲むんは、おかしい?」
勿論彼はいい大人なんだし、そんな事はないけれど
あまり酔ってるところが想像出来ない。
首を横に振ってから、別のものに気付く。
目線に気付いたのか、彼は緩やかに微笑むと一つを手に取りこちらに寄越した。
「ご一緒してくらはる?」
誘いに少し驚く。
想像できないのは、いつも一人や彼と楽しんでいるだろうからで。
「少ぅし、わての相手をしておくれやす」
それを共有できるのが嬉しくて、笑顔で受け取った。
彼は満足気に笑み右隣に座ると、一口含む。
ふ…と息をつき、月に目をやった。
そよそよと、初夏の風が彼の前髪を揺らす。
月はあなたを思い出させる。
静かで優しくて
決して強くはないのだけど、宵闇の中で澄んだ光を放つ。
「秋斉さん」
「ん?」
あなたは、知らないかもしれないけど
「今日も…」
私は
「月がとても、綺麗ですね」
静かに視線を交わす。
その後、優しい目で
「そうどすな」
と。
その声が
その仕草が
その微笑みが
あなたの全部がとても愛おしいのだと
臆病な私は、あなたの知らない言い回しではなく、いつかちゃんと、伝えられるのだろうか。
今日も、私はあなたの事を、愛していますーー。
***
夏目漱石が、「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳した事より。
お酒を飲めるヒロインがいたっていいよね?。゚(T^T)゚。
なお、これは5月くらいの話のつもりです。
*秋斉さん目線 「香夜」