流れ星 -4ページ目

流れ星

思いつくままに書いた二次作品などの保存場所。某所で書いたものも含みます。勿論、私が勝手に書いているだけなので、どことも関係はありません。


「そうかぁ、お前には兄がいるんだね」

島原ではあまり過去の話はしない。

それがこんな話になったのは、昨晩禿の少女が家族に会いたいと泣いた事を彼に話したから。
その流れで自分にも兄がいたと話したのだ。

その少女の話を聞いた時、会った事のない少女の為に、色素の薄い瞳は伏せられた。
そういう優しさが、この人の素敵なところだと思う。

そして少しばかり自分の話をして、ふと気になった。

「慶喜さんには、ご兄弟はおられるんですか?」

それを聞いた慶喜さんは、一瞬驚いた様な顔。
でも少し考えた様子の後、すぐにいつもの笑顔に戻って答えてくれた。

「…あぁ、いるよ。俺にも、兄がね」

その時ピクリと、机に向かう黒い羽織が揺れたのが視界の端に見えた様な。
だがそんな些末な事よりも話の続きを聞きたいと思った。

「どんな方なんですか?」
目を輝かせただろう私の問いに、慶喜さんは楽しそうに微笑む。

「そうだねぇ…何というか、朝から晩まで口煩くてね。早く起きろ、食べ物は残すな、本を読め、武芸に励め、早く寝ろ…という感じでね。最早兄というより小姑みたいだろう?」
「…誰が小姑や」

私達などいないかのごとく仕事に打ち込んでいた秋斉さんが、カタリと筆を置いて振り向いた。
何故か鋭い眼差しで慶喜さんを見やっている。

「やだなぁ、何で怒るのさ秋斉。今のは俺の兄上の話だよ?秋斉には関係ないじゃないか」
「………」

この微妙な空気ったらない。

秋斉さんから発せられる眼光は鋭く、彼と彼の部屋から漂う涼しげな香りが手伝い、それは極寒を思わせた。

でも、今のお話を聞いて…私は思う。

「お兄さんは、慶喜さんの事がとても大切だったんですね」

きっとどれも、慶喜さんを想って言ってくれた言葉ですもんね?

純粋に思った事を口にすると、慶喜さんは兄弟の有無を尋ねられた時よりも驚いた顔をして…
それから少し照れ臭そうに微笑んで煙管を弄りながら、

「そうだね。煩いと思う事もあるけど…俺にとって、とても大切な兄上だよ」
と、優しく言った。

その笑顔と心の籠った言葉に、ぽかぽかとした気持ちになった。
少し、家族が懐かしく思ってしまう。

ところが、訪れたのはまたも沈黙。
もしかすると彼の兄弟の話は駄目だったのかと、
口元を扇子で隠したままの秋斉さんへ話しかけてみる。

「あの、秋斉さんにはご兄弟は…」
「おりまへん」

全て言い終える前にピシャリと言い切られた。

「わてにはその兄君の様に手のかかる弟なんぞ、おりまへんえ」
「秋斉…」

駄目なのはこの話題そのものだったらしい。
しかし何故だろう、慶喜さんの瞳がとても切ない。

秋斉さんはチラリと彼に目をやった後、自分の湯呑みを見やり
「…あぁ、茶が無うなってもうたね。桜はん、悪いけど新しく淹れてきて貰えんやろか」
と私にそれを寄越した。

「ぁ、はい!すぐに!」

何だか彼らしくない、不自然な感じがしたものの、全員分の湯呑みを取った私は、お茶を淹れなおすべく急いで台所へと向かったのだった。




「ねぇ秋斉」
「なんどすか」
「あの子は気付いてなかったけど、少し耳が赤……痛!」


ぺしり、と。
小気味良い音が部屋に響いた。