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龍慈ryuukeiのブログ

愛一元の世界ここに在り。
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白いドラコニアン種族の白山木(ハクサンボク)伯爵家の跡継ぎである龍慈(リュウケイ)は、一時期、白い龍に変化して『ハク』と名乗っていた。

 

 

彼が白龍に変化したのは、ドラコニアンの種族長から、一人の人間を担当して志事をしながら、性質や行動をジックリ観察して、人間という種族を知るように言われたからだった。

 


 

 

その当時は、龍慈と同様に、種族長から命を受けて龍に変化した同年齢の友達が沢山いて、それぞれ個性的な人間を割り振られ、担当した。

 

 

人間の担当歴が長い黒龍の『コクさん』は、ハクに沢山の事を教えてくれた。

 

 

担当する人間が、他の人間に向けて射たマイナス波動の矢を回収して、矢を射た本人に刺し直す方法や刺す場所、そしてその人間の行動を日誌に書く時の注意点等、コクさんは正確に、そして丁寧に、ハクへと伝授した。

 

 

純粋な波動のハクにとって、人間を担当するのは、本当に骨の折れる志事だった。


ドラコニアンを含む多くの宇宙種族たちは、テレパシーで会話をする為、嘘を吐かず素直に話す。


しかし地球人類は、保身の為に都合の良い嘘を吐く。

 

 初めて人間を担当したハクは、カルチャーショックの連続だった

 

色んな人間を担当する内に、人間不信気味になったハクは、8歳の峰子が18歳を迎えるまで、彼女を担当した。

 

 

峰子にはハクが視えていて、話す事もできた。


自分を見て話しかけてこられた時、ハクは心底ビックリして焦った。

 

 

変わり者の彼女は、龍の姿のハクを視ても怖がらず、一緒にコロッケを食べたりして、ハクとの毎日を楽しんだ。

 

 

峰子にとっては、異形の存在よりも、家族である人間の方が脅威であるようだった。

 

しかし彼女は、不条理な経験をしても、それを他人の所為にして責めず、自分自身で解決した。

 

 

だから、峰子を担当している間、ハクは矢の回収作業をする必要がなかった。

 

 

峰子は一度も、ハクに助けを求めなかった。

 

 

ハクは、人間の中にも信頼できる者がいると、峰子との対等な交流で知った。

 

 

峰子の中に在る『根源的な育みの愛』を知れば知るほど、ハクの方が歯痒い思いをした。

 

 

何故ならハクは、過酷な日々を過ごした峰子の子供時代を、見守る事しかできなかったからだ。

 

担当する人間の人生に、余計な介入をする事は、固く禁じられていたからだ。

 

 

だからハクは、峰子を担当する間、せめて愉しく会話する事にしたのだった。

 

 

しかし、楽しい時間は瞬く間に過ぎて、別れの時がやって来た。

 

 

ハクは峰子との別れを寂しいと感じ、初めて人間に対して、親しみを覚えていると自覚した。

 

 

そんなハクに、峰子はあっけらかんとして言った。

 

 

「これからも、ずっと友達なんやから遊びに来ればいいやん。連絡くれたらコロッケ買って待ってるよ。」

 

「そうか!そうだね!その手があった!」

 

 

ハクは歓んで大きな尻尾をひと振りした。

 

こうしてハクは、峰子の担当という志事を終え、人間の峰子と友達になった。

 

 

 

この後、数人を担当したハクは、個人の人間を担当する期間が終わり、種族長に任期満了届けを出してドラコニアンの姿に戻った。

 

 

そして今度は、ドラコニアン評議会の決定により、白山木龍慈伯爵は外交官として、裏天皇縁の結社に派遣される事になった。

 

 

伯爵は結社の奥の院で、大人になった峰子と再会した時、大きな尻尾をグルングルン振り回したいほど歓んでいた。

 

だが、外交官という立場上、何とかその衝動を抑えて、落ち着いた表情を心がけた。

 

 

そんな伯爵の気持ちを汲んで、峰子は丁寧に挨拶をして、彼の立場を守ってくれた。

 

 

帰り際、峰子は、他の人たちには解らない様、伯爵だけに言った。

 

 

「龍くん、田嶋屋の新メニューにコーンクリームコロッケが出たよ。これがさ、めっちゃ美味しいのよ。今度一緒に食べよね(笑)」

 

 

 

目元と口元が緩んだ伯爵の穏和な笑顏は、峰子に、かつてアルバイトをしていた病院の入院患者の背中を思い出させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は70歳を迎えて、もう肝臓が機能しなくなってきていた。


肝炎から肝硬変というやつになったのだ。


糖尿病も悪化していた。


長年の不摂生がここにきて、一気に身体の不調という結果を、彼に突きつけてきたのだ。


彼の妻は甲斐甲斐しく彼の世話を焼き、入院の手配も支払いもしてくれた。


これまでも妻は、彼に頼らず働いて生活を支え、子供を大学までやり、育て上げた。



妻はいつもいつも、笑顔で彼に尽くしてくれた。


それを見て育った子供たちは、彼に寄り付きもしない。


当然だろう。


自分でも不甲斐ない父親だと思うのだから。


しかし、極道として生きて組に尽くしてきた事に、何ら後悔はない。




肩で風を切り歩いて、生意気なやつがいたら、背中の龍で一睨みしてやるのだ。


そうすれば、チンピラ風情は黙って道を空けたものだ。


それも遠い昔の話。



週に三回の風呂の日に、綺麗に身体を洗い、気分良く湯船に浸かる。


気持ち良さに思わず声が出る。



目を閉じて、しばらくの間、湯に身を委ねる。


目を開けると鏡に映った自分が見えた。


83キロあった体重が、今や57キロに落ちて、目の前の鏡には、穏和な顔の痩せた老人が映っていた。



血気盛んな青年時代に、偶然出会った組長に憧れ、その道に入り、義理を重んじ忠義を尽くした彼は、人生の最後を迎えようとしていた。



入院生活は毎日代わり映えせず、つまらないものだ。


笑いひとつない。


ただ薬をのみ、点滴を打ち、看護婦に血圧を計られ、採血して、血液検査の結果を確認したら、見ないテレビをつけてベッドにいる。


そうしてゆっくりと死へ向かっているのだ。



そんな彼の生活に、ある日、一人の看護学生が現れた。



彼女は長田峰子という、ちょっと変わった19歳の女の子だった。



はじめて彼の部屋にやってきた時、彼女は部屋の者に薬を配りながら自己紹介をして、バイタルチェックというものをやり出した。


そして、同室の山本の血圧を計ろうとして、腕にある刺青をシャツと間違えた。


シャツを全部まくってください、という彼女に、山本が全部まくったと言って腕を見せると、彼女はそれを凝視して確認した。


そして、それが刺青だと気付き、少し焦りながらも、ポーカーフェイスで言った。


「すみません、ナマモノだったのですね。では計りますね。」



山本を含め、部屋のものは皆、一瞬ポカンとした後、大爆笑した。


一部始終を聞いていた彼も、可笑しくてたまらなくなり、大笑いした。


そして皆の笑いが一段落した頃に、彼は彼女に言った。



「学生さん、ワシの背中のナマモノにもシップ貼ってくれ。」



彼女はすぐにやってきて、彼の背中にシップを貼った。


その時、彼は、イタズラ心が動いて言った。



「ワシの背中のナマモノ怖いか?」



すると彼女は言った。



「いえ、何というか、とても味のある素敵なお顔をなさった龍さんですね。こんなに笑顔の似合う龍さんを初めて見ました。」



彼の背中は急激に痩せた為、皮膚が弛んでしまっていた。



かつてチンピラたちを震え上がらせた、彼の自慢の龍のイカツイ目は、今やタレ目の柔和な笑顔で、見る者に愛嬌を振り撒いていたのだ。



彼女は決して、龍をタレ目とは言わなかった。


それは同情や哀れみではなく、純粋な感想だったので、彼は、気分が良くなった。 


そして、彼女がアルバイトで病院に来る度、彼を含め、沢山の入院患者が笑いの渦に巻き込まれて、何故か症状が改善して、体調が戻っていった。


何人もの末期癌患者の腫瘍が消えてしまって、完治して退院して行った。



皆声には出さないが、長田峰子の不思議な力は、入院患者の知るところとなり、体調が良くなっていく変化を、それぞれが自覚していったのだ。



その長田峰子が、同じ病院の外科医に付きまとわれて困っていた。


その外科医が先月まで付きまとっていた別の看護学生は、今、行方不明になっていた。


彼は、同室の山本と相談して、彼女にこの病院を辞めるようにアドバイスして、できる限りのサポートをした。



退院が決まり、彼は思った。



これからはこの龍と共に、家族に感謝して、笑って生きていこう。


そして、今やミス日本になった彼女に、義理堅い彼は、遠くから感謝した。



「ありがとうございました。」







おばば様が逝去して、ひとつの時代が終わりを告げ、新たな時代が幕を開けた。


二極一対の世界が統合して、愛一元の世界へと進化の道を進み出したのだ。

 

 

それはある意味、古くからの日本の文化や伝統の素晴らしさを残しつつ、地球の波動上昇に共鳴して覚醒した国民が、しがらみや支配からの解放を成し遂げる事を意味していた。


消えてしまった縄文文化の利点を、今の社会に活用し直していけば、長い時間の中で人類が忘れてしまった能力を、再び使えるようになるのだ。


自分の不調は自分で治し、一人で出来ない時は皆で協力して、大きな共鳴をして解決する。


そして、自分の意識を使って理想の現実を創り、尊重しあって生きる。

 

その為には、いつでも自分軸でいて、自分の総ての権利と義務と感情を、自分の手に取り戻す事が必要なのだ。

 

簡単に言えば、他人に振り回されず、自分の意志で生きる、という事だ。

 

 

社会や政治家や誰かの所為で損害や被害を受けるという感覚では、他人軸となり、自分の人生を政治家や他人に委ねてしまう。

 

他を変えても、自分の人生は変わらない。

 

 

政治家を変えても、自分の波動が変わらなければ、その人の観ている世界は変わらない。

 

被害者でいる人は、被害者で居続ける。

 

 

逆に言えば、政治家や他人が変わらなくても、自分軸で生きて、その人の価値観や波動が根底から変われば、観ている世界が一瞬で理想郷に変わる。

 

必要な物は必要なだけ手に入り、好きな時に好きなコトを自由にできる、という環境が、見事に構築されるのだ。

 

 

 

峰子は日々を愉しみつつ、事務所の志事は勿論、一柳から依頼される結社の志事も、卒無くこなした。

 

 

事務所からの志事は、ミスビューティワールド日本の活動と勉強会、ファッション雑誌のモデルやインタビュー、テレビ番組やコマーシャルへの出演、医者協会をはじめとする様々な協会団体のイメージモデル、そして新聞のコラムやエッセイの執筆、学校や企業への講演活動等だった。

 

 

結社からの依頼は、国内外の重要人物に対する病気治癒や健康維持、結社に居る子供たちの能力開発、目標を見間違えた政治家や国家の重鎮への愛の共鳴等であったが、これから始まる一元化の為に、峰子は個人の利害に向けてではなく、全体の利害から個人へ向けて特技を使った。

 

志事に乗じて全体空間の波動を上げる事で、個人空間の波動を上げ、その結果成果を出し、国民が自由に、自分の意志で覚醒しやすくした。

 

 

ここまですれば、後は、それぞれ個人の選択に委ねるしかない。

 

何を選ぶのか決めるのは、その人の領分だからだ。

 

 

前向きに努力して、他人よりも優位な立場になりたい人には、比較対象が必要なので、他人軸のままが心地良いのだ。

 

 

ただシンプルに自分の感覚を受け容れ、人生で経験するコトを愉しみ、自分軸で居たい人だけが次に行けばいい。

 

 

 

人々はどんどん二極化していき、それぞれの世界を持ちながら、同じ空間を共有して、それぞれ違う意識世界で生きる事になる。

 

 

同じ空間に、沢山の世界があって、隣に居ても、まったく違う経験をする。

 

 

今までの日本は、表と裏、陰と陽、という二極の両立で成り立ってきた。

 

しかしこの二極は、もうすぐ統合して、大きなひとつの育みの愛になる。

 

 

一元化の方向へ、もう、人類は進んでいるのだ。

 

 

 

税金の変動や有無に関係なく、豊かな生活を送る人もいれば、生活が困窮する人もいる。

 

 

もし社会が変わって、税金が無くなっても、困窮する波動の人は、やはり生活に苦しむのだ。

 

 

 

 

 

 

 

峰子は、沢山の人がそれぞれ思いのままに選択する事が、その人の幸せなのだと理解した。

 

皆、やりたい事を経験する為に生まれてきたのだから、好みで選べば良いだけだ。

 

喩えそれが、どんなに過酷な経験であってもだ。


選んでいない理想郷は、その人を退屈にするだけだ。

 

 

国民がみんな一緒に覚醒しなくても、自分軸でいればパラダイスはやって来る。

 

 

国民の覚醒が遅いと嘆くのは、国民の覚醒がないと次にいけない、という他人軸でしかない。

 

覚醒する人だけが覚醒する事に意義があるのだ。

 

 

この宇宙の法則に、善悪や正邪はないのだから。

 

 

 

峰子の物語は、第一章を終えた。

 

 

そして、次の段階を迎えて、第二章へと続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おばば様の遺言により、一柳華子が結社の長になった。

 

 

峰子はおばば様から、結社のメンバーにならず、特別な客人として、奥の院へ自由に出入りする許可を与えられた。


 

 

そして、外側から一柳と結社をサポートをするように、重々頼まれた。

 

その際、結社に入り込み過ぎないで、メンバーとは一線を引いて付き合うように言われた。

 

それは、結社のメンバー全員にも伝えられた。

 

 

この結社は、イギリスの名家であるサンチャイルド家や、アメリカの名家であるロックフェス家等、世界各国の名家と繋がっていた。

 

先日、峰子が奥の院を尋ねた時に会ったのが、その人たちであった。

 

 

この結社の目的は、裏天皇の命により秘密裏に日本を守り、同時に、日本のディープステートとして各国の裏社会と繋がって、平和と調和を保つ要素も担っていた。

 

 

そして古来より付き合い続けている、地球外の種族との繋がりの継続や、他の宇宙種族との外交も、結社の大切な役割なのだった。

 

 

結社の長の先祖や、裏天皇家の先祖は、ゴールデンドラゴンと呼ばれていて、その歴史は縄文時代に、シリウスから地球へ渡来した事から始まったのだという。

 

 

初めは磐船で隕石の様に地球に降り立ち、そこから幾つかに分かれて、各拠点毎に世界中に文明を開いて行った。

 

日本では出雲に拠点を置いて、天皇を名乗った。

 

出雲以外にも、沖縄・六甲・交野・東北地方等、集落毎に磐船の拠点があった。

 

 

 

何千年かの後、別の星から渡来したドラコニアン種族の使者が、出雲にやって来た。

 

その話し合いは平和的に行われ、ドラコニアン種族たちが奈良に大和朝廷を開いて天皇になり、元々天皇だったゴールデンドラゴン種族が裏天皇になって、富士に新たな拠点を置き、富士文明を開いた。

 

その際、六甲と交野は、裏天皇の小さな拠点として機能させる事になった。

 

 

おばば様はこのような歴史を、峰子の頭の中に直接伝えた。

 

そして、何故、峰子が結社のメンバーになってはいけないのか理由を言った。

 

 

「この先、ディープステートは崩壊するのよ。当然結社も崩壊する。そこで、貴女の能力をお金にしたがる人が出て来るの。だから本来結社とは無関係な峰子は結社に入ってはいけない。」

 

「わかりました。外側から役割を果たすと、お約束します。」

 

 

峰子が伝えると、おばば様は安堵した表情で大きく頷いた。

 

そして、眩しそうに峰子を見て言った。

 

 

「貴女の子供時代は私と同じ地獄やったけど、貴女は自分自身で自由を勝ち取ったんやね。」

 

 

その言葉のエネルギーは、峰子に勇気を与えた。

 

 

 

おばば様はこの世を卒業したが、その意識とはいつでも交流できる。

 

 

生きていても、死んでいても、関係ない。

 

この宇宙のどこかに、その人だった意識が、必ずいるからだ。

 

 

 

 

峰子は、おばば様の中から孤独が消えて、幸せの中に居る事を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おばば様は峰子に、期待する役割や、これからの動き等、沢山の事を伝えた。

 

 

その中で一番重要な内容だったのは、おばば様自身の寿命についてだった。

 

 

彼女は今週末の3月17日23時55分に、この世を卒業するのだという。

 

 

戸籍を持たない彼女の人生は、唯ひたすら、結社にすべてを捧げ続けたものだった。

 

 

だから彼女は、せめて最後の数日で、ずっと禁止されていた事をすると言った。

 

 

育む事が大好きなおばば様の望みは、太陽と一緒に自由に畑へ出て、好きなだけ農作業をして、自然に触れ、野菜を収穫する事だった。

 

 

彼女は生れながらに、結社の長として生きるという宿命を背負っていた。

 

だから、彼女が物心ついた時には、長としての能力を開く為に、覚醒の為の特殊な訓練を受け、厳しい修行をする毎日を送っていた。

 

その所為で、彼女には自由な時間がまったく無く、食事や寝る時間まで管理されていたのだ。

 

 

増してや、好きな時に外へ出て、誰かに見られる事は、言語道断だった。

 

 

 

 

おばば様は最後の数日を、畑で幸せを感じて生きた。

 

その顔には、ハッキリと安らぎが浮かんでいた。

 

 

 

 

峰子はおばば様の最期の刻に合わせて、自宅から彼女の居る六甲へ、感謝と祝福の光を贈った。

 

 

峰子は、おばば様が光に包まれて源へ戻って行くのを視て声を掛けた。

 

 

「おばば様、お愉しみ様でした。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伯爵が峰子に話しかけると、そこに居た全員が峰子の方を向いて注目した。

 

 

 

その目はどれも好意的に、期待を込めて峰子を見つめていた。

 

 

伯爵から峰子の脳に、一瞬で沢山の情報が送られてきた。

 

峰子はその情報を受け取り、把握した。

 

 

結社の歴史に始まり、今の現状、そこに居た全員の名前や、ここで峰子が何を求められているのか、これからの世界線、結社の役割等、情報は多岐に渡った。

 

 

峰子は伯爵に向けて、了承の意味を込めて大きく頷いた。

 

そして、全員に一礼してから、テレパシーで挨拶を返した。

 

 

「お久しぶりです、伯爵。皆様とは初めましてですね。長田峰子です。どうぞよろしくお願いいたします。」

 

 

椅子に座っていた人たちは、立ち上がって峰子に一礼して、それぞれが挨拶を返してきた。

 

 

伯爵は大きくて長い尻尾を、一振りした。

 

 

そこに、まったく音を立てずに、白い着物の巫女が現れた。

 

その女性は、一柳よりも隙がなく、独特のオーラを放っていた。

 

若々しい見た目だが、全く年齢が判らない。

 

400歳だと言われても納得する完璧さがあった。

 

 

その女性に向かって、一柳が言った。

 

 

「おばば様。客人をお連れいたしました。」

 

 

おばば様と言われた女性は、峰子を見て、目を細めて毅然として言った。

 

 

「良く来てくれましたね。」

 

 

峰子は、おばば様に一礼して言った。

 

 

「お招きくださいまして、ありがとうございます。」

 

 

おばば様は頷くと、新たな情報を峰子に送ってきた。

 

峰子は、受け取り了承したという意思表示の為に頷いた。

 

 

「では、よろしくお願いしますね。」

 

 

おばば様はそう言うと、塔を出て行った。

 

 

絶対的な長である『おばば様』の登場により、ピリリと張り詰めていた空気が、おばば様の退出により和らいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月12日、月曜日。

 

 

午前10時。

 

 

 

白いワンピースに白いジャケットを羽織った峰子は、迎えに来たマネージャーの神野芳樹が運転する白いベンツに乗って、六甲の事務所に向かった。

 

 

一柳の事務所は、最寄り駅からすぐ近くにある5階建ての自社ビルだった。

 

1階は打ち合わせの為のカフェスペースになっており、2階から上は事務所・会議室・レッスン場・仮眠室・物置等になっていた。

 

 

峰子は神野の案内で事務所に行き、紹介された。

 

 

峰子は良く通る声で丁寧に挨拶をした。

 

すると、働いていた人が皆、手を止めて立ち上がり、峰子を拍手で温かく迎えた。

 

 

峰子は皆に一礼をして、心から感謝をした。

 

その途端、事務所の中にいる人たちへと祝福のエネルギーが降り注いだ。

 

 

次に、神野に促されて、峰子は5階の社長室へ向かった。

 

 

3回ノックをして部屋に入ると、一柳が笑顔で迎えてくれた。

 

 

彼女は美しく光る白いスーツを着ていた。

 

 

「峰子さん、待ってたわよ。じゃあ奥の院へ参りましょう。神野君、車を出してください。」

 

「はい。玄関でお待ちください。」

 

 

一柳と一緒に玄関へ行くと、神野が地下の駐車場から白いベンツで出てきた。

 

 

一柳と共に後部座席へ座った峰子は、これから起きる事にワクワクが止まらなかった。

 

 

坂を上って行くと、車は山道に入った。

 

幾つかトンネルを抜けて20分ほど走ると、広い敷地の中にひっそりと佇む、日本建築の豪邸に着いた。

 

建物の周りは手入れの行き届いた日本庭園になっていた。

 

 

建物は六角形になっており、その中央には、5階建て位の高さの塔があった。

 

 

建物の中に入ると、京都の町屋の様に、六角形の建物に沿って土間になった通路があり、土間から扉を開けて上がれば、そこに部屋があるようだった。

 

 

峰子はその作りを見て、UFОのようだと感じた。

 

 

一柳に促されて、峰子は建物の中心にある塔に入った。

 

 

するとそこには、20人程の人が椅子に座っていた。

 

その人たちの半分は外国人で、残りは日本人の様だった。

 

 

そして一番前に伯爵がいた。

 

 

伯爵は、体長が3メートル位ある真っ白いドラコニアンだった。

 

 

伯爵は峰子を見て、テレパシーで話しかけてきた。

 

 

「待っていたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後1時。

 

 

表彰式は、大判府警本部の本部長室で行われた。

 


 

そこで峰子は、警察協力章の感謝状を、警察庁長官である谷川誠一から授与された。


 

石本・笹本・岩田・近藤も、笑顔で峰子の横に並び、誠一から正式に昇進の辞令が伝えられた。

 

 

表彰式の後には、府警本部内の大会議室に場所を移して、記者会見が行われた。

 

 

マスコミ側からのリクエストで、そこでもう一度感謝状を渡すセレモニーが行われた。

 

 

本部長室では、多数集まったマスコミが入りきれなかったからだった。

 

 

 

感謝状を手渡す所で、そのまま一旦動きを止めてください、とリクエストされたので、誠一と峰子は、沢山のフラッシュとシャッター音の中で、笑顔のまま止まっていた。

 


 

 

その模様は大々的に報道された。

 

 

 

 

一通り撮影が終わると、誠一が、今回発覚した12人連続殺人事件という前代未聞の大事件の流れを簡潔に説明した。

 

 

そして峰子の協力が、犯罪の発覚と容疑者の逮捕に大きく貢献した事を感謝すると発言した。

 

 

次に、事件当日の流れを石本たちが説明すると、マスコミの人たちから大きな歓声が上がった。

 

 

石本たちが言った、峰子が容疑者を背負い投げした話と、峰子が証拠品の在処を伝えた事で、犯罪の立件が早くなった話は、各新聞やテレビで大きな話題を呼んだ。

 

 

峰子は言葉にエネルギーを乗せながら、自分の身は自分で守るという意識が大切だと思ったので護身術を習ったと、インタビューに答えた。

 

そして、峰子自身が考える『付きまとい被害の課題』について、自分の経験からいくつかの問題提起をして、法的な整備が早く為される事を望む、と心から訴えた。

 

 

祐二は、峰子が何か困った時のサポーターとして、ずっと峰子の横にいた。

 

記者は祐二にも、付きまといへの対策として、弁護士の立場から法律的にどのように対処できるのか?という質問がされた。

 

祐二は言った。

 

 

「今のところ、何か実害が出ないと書面で注意する位しかできません。なので、一日も早く法的に対応できるようになる事を望みます。」

 

 

祐二の熱い思いに、その場に居た全員が共感した。

 

 

そして祐二はこの後、テレビ番組にコメンテーターとして呼ばれる事が多くなり、お茶の間の人気者になって行くのだった。

 

 

 

 

夕方のテレビのニュース番組では、ある女性芸能人が自身の怖かった経験を話し、峰子に共感していた。

 

 

こうして峰子の訴えかけは、大きなエネルギーを持ち、世論となって広がって行った。

 

 

そして、柴田正彦たちが推進していたストーカー規制法案が、国会で賛成多数の上可決されたのであった。

 

 

 

 

ひとりの声は小さいようでいて、時には大きな波紋を起こすコトも出来る。

 

 

 

自分一人の意識が、この宇宙にどれほどの影響を与えられるか、人は過小評価をしがちだ。

 

しかし真実は、自分一人の意識が、宇宙全体にまで、大きな影響を与え得るのである。

 

 

 

この事を一人ひとりが自覚すれば、政治家や他人に頼らなくても、自分の意識で、自分の見ている世界を変えれるのだ。

 

 

 

 

自分の世界は自分にしか変えられない。

 

そういう仕掛けになっているのだから。

 

 

 

 

記者会見が終わった後、峰子は久しぶりに祐二や石本たちと一緒に、近所のファミリーレストランへ行き、お祝いの会を開いた。

 

 

里美・美和・博美・綾子・洋子も加わって、宴は賑やかに盛り上がった。

 

 

そこに山口も駆け付けて来た。

 

山口は医者協会からの伝言を、峰子に伝えた。

 

 

「峰子さん、医者協会のイメージモデルをお願いできますか?ぜひ、健康増進の為のポスターやCМにご出演いただきたいんです。」

 

 

祐二が言った。

 

 

「先輩、峰子さんは所属事務所が決まったんですよ。なので、そちらに話してください。」

 

 

峰子が笑顔で山口に言った。

 

 

「ありがとうございます。素敵なお話ですね。ぜひやりたいので、こちらに連絡をください。」

 

 

峰子は一柳から貰ったばかりの名刺を、山口に渡した。

 

 

峰子は、初めて誰かに名刺を渡したので、ちょっと緊張した。

 

 

そこに店長がやって来て、峰子にサインしてくれと言って、色紙を持ってきたので、峰子はものすごく緊張しながら、シッカリとした楷書体で「ファミリーレストラン店長様へ。長田峰子 1984年3月11日」とサイン第一号を書いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

3月11日、日曜日。

 

 

午前11時。

 

 

その日峰子は何となく、白いブラウスに紺色のスーツという、大人しい印象の洋服を選んだ。

 

背負い投げで逮捕に貢献!という新聞の見出しが、峰子の頭に浮かんだので、できるだけ清楚な洋服で行って緩和しようと思ったのだ。

 

それと実際に、行動とキャラクターのギャップが少しでもあれば、多くの人に『自分にも護身術が出来るかも。』と思ってもらえるかもしれない。

 

自分の身は自分で守る。

 

そう思って行動すると、色んな人が協力してくれるエネルギーが生まれるのだ。

 

 

怖がるだけだったり、攻撃する事ばかりを考えると、他人軸になってしまうので、余計被害に遭いやすくなったり、逆に自分が加害者になるかもしれない。

 

適切に自分を守る事を主に考えると、自分軸になるので、自分に優しい結果になりやすいのだ。

 

 

 

峰子は、迎えに来た警察庁の白いクラウンに乗って、大判府警本部に向かった。

 

 

府警本部の車寄せに着くと、誠一を始め10人程の制服の方々に玄関口で出迎えられ、峰子は建物の中に入った。

 

 

捜査用の会議室に通され、そこで時間まで待機するように案内された峰子は、机の上に置かれた大量のお菓子や軽食や飲み物に驚きながら、早朝から迎車の為に準備してくれた人や、この日の為に動いてくれた人全員に感謝した。

 

 

10分程すると、誠一と祐二が笑顔で現れた。

 

 

誠一が言った。

 

 

「峰子ちゃん、今日は来てくれてありがとう。お蔭さんでこれ以上被害が出ずに済んだよ。取り調べも順調に進んどるよ。」

 

「私の方こそ、ありがとうございます。あの時おっちゃんが、石本さんたちを特殊任務にして、守ってくださったから、私無事だったんです。」

 

 

誠一が照れて笑った。

 

祐二が言った。

 

 

「容疑者はこれから起訴されて裁判が始まるんだって。精神鑑定も受けるらしいよ。彼はマトモとは言えないが、あれだけ緻密な計画をしていたんだし、責任能力はありそうですよね。」

 

 

誠一が頷きながら言った。

 

 

「被害者の方々にキチンと報告できるように、検察も頑張ってくれるだろう。」

 

 

峰子が切ない気持ちで言った。

 

 

「これからは、こういう事件が未然に防げるようになれば良いですね。」

 

 

峰子の気持ちを察した誠一が、励ますように言った。

 

 

「折角だし、ドラマみたいに出前でカツ丼頼もか(笑)」

 

 

皆が笑った。

 

そして昼食は、本当にカツオ出汁の利いたカツ丼が出前されてきて、三人で美味しくいただいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月10日、土曜日。

 

 

峰子は早朝から新幹線で東京に向かい、港区の出版社でファッション誌の取材を受けた。

 

そこで林沙也加と仲田芳美に再会して、改めてお互いの健闘を称え、喜び合った。

 

 

皆、とてもお喋りなので、話は尽きなかった。

 

 

その後3人は、ミスビューティワールド日本事務局が入る六本木のビルで、世界大会に向けての打ち合わせをして、志事と勉強会のスケジュールを受け取った。

 

 

外国語会話や社交界のマナーやダンス、世界の法律や常識、税理士の講習という固い内容から、フラワーアレンジメントやラッピング講習等、色んな分野を広く網羅した勉強会に、好奇心旺盛な峰子は興味を持ったので、この貴重な機会に感謝して、是非参加したいと思った。

 

 

沙也加と芳美も、勉強会に参加すると言っていた。

 

 

峰子と同様に、二人共それぞれタレント事務所に所属したので、皆忙しく、個々の志事をしているようだ。

 

 

奇麗なエネルギーの循環が在ったので、峰子は、これから一年を通して会う内に、この二人とはもっと仲良くなる予感がした。

 

 

別れ際、三人は連絡先の交換をした。

 

 

帰り道で峰子は、東京への片道4時間弱の移動は長いなと思ったが、新幹線に乗っている時間を有効に使おうと思い直した。

 

 

新幹線の扉から大阪の景色が見えると、峰子はホッとした。

 

 

峰子は、自分は生まれ育った大阪が、一番好きなのだなと、初めて郷土愛を自覚した。

 

 

ただ、何度も通って自分の居場所が出来てくれば、東京にも愛着が湧くのかもしれない。

 

 

峰子は呟いた。

 

 

「今日もお愉しみ様。」

 

 

すると、言霊のパワーで、益々楽しい出来事が現実化されていった。