storage of my life story 31 | 龍慈ryuukeiのブログ

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愛一元の世界ここに在り。
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峰子が部屋に入りドアを閉めて挨拶すると、担任の佐藤が奥にある椅子に座るよう案内した。

 

先生方と男性で峰子を囲むように並ぶ形だ。

 

 

どうやら話は、少し長くなるようだ。

 

 

初老の男性のひとりは、穏やかな表情の高井だ。

 

峰子はもう一人の初老男性を見て、この人は坂本医師の父親なのだろうと、何となく察した。

 

 

佐藤が峰子に、二人の男性の紹介をした。

 

 

「高井先生は知ってますね。で、こちらは坂本朝治先生。お二人共当校の理事です。」

 

 

峰子は椅子から立ち一礼して言った。

 

 

「第1課2回生の長田峰子です。」

 

 

高井が言う。

 

 

「まあまあ、座ってくださいな。」

 

 

峰子は頷いて「はい。」と言って座った。

 

 

坂本朝治は険しい表情で峰子を睨んで言った。

 

 

「本日、緊急理事会が行われました。事案は君、判るだろう。」

 

 

峰子が応える。

 

 

「昨夜の事ですか?」

 

「そうだ。君は前途ある外科医に怪我をさせて、将来まで奪おうとしている。」

 

 

怒りを孕んだ声で、坂本朝治が峰子を非難した。

 

峰子は冷静に、昨夜の状況を説明した。

 

 

「羽交い絞めにされて『騒ぐな。』とメスで脅され、車で拉致されそうになったんですよ。逃れようとするのが当然ですし、被害届も出しますよ。私殺されそうになったんですから。」

 

「息子は、ちょっとフザケただけなのに、右手の小指を捻られ背負い投げされたと言っている。看護婦は医師をサポートする役目だ。外科医の指を捻るなんて許されない事だよ。」

 

「四人の警察官が目撃して、現行犯逮捕しているのに?」

 

「息子と私は、君を過剰防衛で刑事告訴するつもりだ。勿論民事でもね。」

 

 

黙っていた佐藤が言った。

 

 

「理事会では、そんな学生は退学処分が相当だ、という話になったそうです。」

 

 

高井が首を振りながら言った。

 

 

「僕は、長田君の話を聞かずに結論を出すのは、一方的過ぎると思いますよ。」

 

 

坂本朝治が高井を冷ややかに見ながら言った。

 

 

「だから今聞いてるじゃないですか。」

 

 

峰子が言った。

 

 

「私は取り調べ中の事件について、喩え知っている情報があっても、今ここでそれを話せる立場にはありません。先程お話した事が目一杯言える事なんです。でも、これだけはお伝えしておきます。この件は所轄の警察署ではなく警察庁が動く案件になってます。その内マスコミの知る処にもなるでしょう。不躾な言い方で申し訳ありませんが、坂本先生は息子さんを心配するよりも、ご自身の心配をなさった方が良いと思います。」

 

 

峰子の言葉で、部屋の空気が冷えたような感じがした。

 

しばらく沈黙が続いた。

 

 

暗くなりかけた窓の外から、ヒヨドリが騒いでいる声が聴こえた。

 

 

皆、何を言って良いのか解らない様子だったので、峰子は立って一礼して言った。

 

 

「これ以上お話する事はありません。不当に退学を勧告されたので私も代理人を立てます。私の時間と労力とお金を返していただきます。失礼します。」

 

 

峰子は部屋のドアを開けて出て行こうとしたが、思い出したように振り返って言った。

 

 

「言い忘れていましたが、この会話録音させてもらってます。では、お疲れ様でした。」

 

 

ほんの数分前まで、峰子が信頼していた先生たち。

 

その人たちが『信じられない』という眼で峰子を見ていたのが悲しかった。

 

 

でも、高井だけは物事を公平に見て、峰子を信じてくれたように感じた。

 

 

峰子は高井に心から感謝した。

 

 

 

駅へ向かう坂道を上りながら、峰子は柴田祐二に相談しようと決めた。

 


「その前にお金を作ろっと。」