皆で美味しいすき焼きをイタダキながら自己紹介をすると、会話は大いに盛り上がった。
柴田祐二が峰子や石本たちに、簡単な相関関係を伝えた。
「僕の母の明子が谷川誠一の妹で、僕の父の義之が柴田正彦の弟で、正彦伯父さんの秘書の中野修司さんを含め、皆、幼馴染です。因みに雅子叔母さんは誠一叔父さんと大学からのお付き合いだそうです。僕は父の法律事務所で兄の啓一と一緒に弁護士として働いています。美和はうちの事務所で事務仕事をしているんです。」
説明を聞いた石本が言った。
「すごい親戚に囲まれてますな。」
「考えれば、そうですね(笑)」
石本と祐二は同じ年で、剣道をしているという共通点から、意気投合した様子だ。
石本は舘ひろしさんに似ていて、祐二は柴田恭兵さんに似ている。
峰子は後に、アブナイ二人と呼ぶ事になるのだ。
因みに祐二は東京育ちなので、普段は標準語だが、大阪弁と混じってしまっている。
笹本と岩田は、最高級の霜降り肉の美味しさに感動して、ほぼ無言で一生懸命に食べていた。
A5等級の肉は脂が甘くて、口に入れると溶けてしまうように柔らかい。
肉汁と出汁が染みた野菜やシラタキや豆腐も、いくらでも食べられるのだった。
近藤は食が細いので、早々にご馳走様をして、石本と祐二の話に加わった。
雅子と美和も食べ終えて、石本たちと話していた。
柴田正彦と谷川誠一と中野修司は、久しぶりの再会を喜び合った後、峰子に、明日から身辺には充分注意するように言って、峰子を絶対に守ると約束した。
食事がひと段落すると、柔和な表情で柴田正彦が皆に言った。
「日本でもストーカーを規制する法律が必要じゃ。いま法案を作成しちょる。党を越えて賛同した代議士たちが集まって勉強会も開いちょるよ。国民は国の宝じゃ。」
一同が深く頷いた。
国会討論会を見るのが好きな峰子が言った。
「法案が通る前に解散総選挙になりそうですから、ご自愛下さいね。」
「ありがとう。健康が一番だからね。」
柴田正彦は国会中に胆石発作が出て、峰子の特技で胆石が消えてしまった事を思い出し言った。
「お陰様で、あれから自分でも気を付けてますよ。」
「はい、先生はもう暴飲暴食はしておられません(笑)」
中野が言うと、誠一が笑っていった。
「快適に生活できるっちゅうのは、有難い事じゃ。」
皆がまた深く頷いた。
峰子は、ここに集まってくれた全員に、心の底から感謝して目が潤んでいた。
食事が終わると、石本たちが後片付けを申し出た。
オジサン群団を除いた皆で分担すると、20分程ですべて片付け終わった。
皆で食卓から食器類を運んだ。
意外な事に、岩田は繊細な手つきで丁寧にお皿やコップを洗っていた。
岩田が洗い終わった食器類を、笹本が受け取って見事に拭きあげ、それを雅子の指示で、近藤が迅速丁寧に棚へと仕舞っていった。
石本は食卓を奇麗に拭いてから、コンロが冷えた事を確認して掃除をして片付けた。
祐二は、南部鉄のすき焼き鍋をふたつ、冷ましてから洗った。
美和と峰子は、残ったすき焼きや、余った食材を仕分けして冷蔵庫と食品庫に仕舞った。
雅子は現場監督のように的確な指示を出しながら、食後の飲み物の好みを皆に聞いた。
そして、薫り高い珈琲を手落としで淹れた。
珈琲が苦手な人には、紅茶を淹れて、レモンとミルクを用意した。
気持ち良く、望む方向に、物事が進んで行く予感を、峰子は感じていた。