人を馬鹿にするにも程がある。」
劉備の怒りに徐庶が宥めに入った。
「孔明は何処にも仕官していない自由人です。たまたま、将軍がお訪ねの時,不在だっただけです。彼は軍師として,きっとお役に立ちましょう。」
徐庶の言葉に思い直した劉備は,二回,三回と孔明を訪ねた。
悔しい思い以上に切実に軍師が欲しかったのだ。
二回目も会えず、三回目に出かけた時は,むしろ諦めの境地であった。
在宅と言われた時は耳を疑った程だ。
初めてあいまみえる二人の間の時が止まった。
見つめ合う二人。
劉備は思う。
「若い!。臥龍か。優秀とはいえ未経験者ではないか。しかし,なにかしら,惹かれるものがある。孔明はどう思っているのであろう? 他家以上に私には仕官しないであろうな。やむをえまい。」
ところが、思いがけなくも孔明は言った。
「貧宅に度々おいでくださいましてありがとうございます。将軍のお噂はかねがね徐庶から伺っておりました。お目にかかれて心より嬉しく存じます。」
孔明は当然のことのように,劉備の現状分析と対策を提示する。則ち、「天下三分の計」の披露であった。
孔明は劉備に仕えるものと,始めから決めていたような口ぶりである。
以外な展開に劉備は戸惑った。
「貴方は私に仕えてくれるというのか?確かに軍師殿は欲しい。が,私は領土も持たぬ。ましてや曹操から追われる身。それはおわかりか?」
孔明は答える。
「これは将軍と私との間に結ばれた運命でございます。抗うことなどできはしません。」
かくて,水魚の交わりと後々劉備が語る,固い信頼で結ばれた主従が生まれたのであった。