僕を覚えているのだろうか

あの時のあの気持ちは本物だったのだろうか

この場所で まさしくこの場面で

顔を見合わせ手を取り合ったこと

難しく考えなくて良いから

ただ 覚えているかを聞いておきたい


あれは夜の川のふもと

遠くに聞こえる車の音で

あたりの静けさを実感する

柵に腰掛け まばらに光る橋を見た

ゆっくりとした時間に

白い二人の息が空中で混ざり合う


あれは窓のないリビング

磨りガラスから寝室の灯りが透けて

たくさんのグラスを光らせる

薄暗い中 二人でソファーに座り

いつにもなく真面目な顔をして

淡々と別れを切り出していた


僕を覚えているのだろうか

あの頃のあの想いは偽物だったのだろうか

この時間に またもやこの時期に

頭を寄せ合い共に寝たこと

簡単に応えてくれて良いから

ただ 覚えているかを知っておきたい


あれは鮮やかな山の上

騒がしい人混みから少しだけ奥へ

こんなにも音がなくなるものかと

二人して顔を見合わせ夜を感じた

遠くに見える煌びやかな建物と

はっきりとした陰影を写すあなたの横顔


あれは窓を閉め切った暗い部屋

テレビの光であなたの場所を知る

煙草の煙が部屋中を白くした

寝転がって二人を感じ

あなたの右手に持った煙草を吸う

何もしない日々が心地よく過ぎ去った


僕を覚えているのだろうか

なんだっていい あの時間があったこと

今の僕に繋がっているということ

ただそれだけでいいのかもしれない


静かな夜と二人だけの空間

それを彩る光と音の狭間を

今更思い出したからって

覚えているふりはしないで


あれは貸切の露天風呂

お湯の流れる音だけが夜に響く

見上げると満天の星が煌めいていた

風が山に乗ってやってくる

こんなにも広い湯に二人

外の人に聞こえるよう歌ってみたり


僕を覚えているのだろうか

記憶は僕と同じだろうか

懐かしむ時があるのだろうか

どちらにせよ 終わったことではあるが