見覚えのある服から香る

あの時耳に入った音

馴染みのない布団から香る

あの時感じた新しい気持ち


好きな匂い 忘れない匂い

どんなに近づいたとしても

手に入れられず 遠くで消えるばかり


寝息のする方へ顔を向ける

髭をあしらって眠る大きな子

安心した表情が愛おしい

力の入っていない唇にそっと


遠い記憶の道から香る

あの時目に入った彩り

写真越しからでも香る

あの時触れた身体の味


好きな匂い 忘れない匂い

どんなに掴めたと信じても

隙間を見つけ 逃げられてばかり


珈琲を片手に外を見つめる表情

丸い眼鏡の奥に光る意思

同じ時を歩む幸せが身に染みて

白く柔らかな首元にそっと


街並みで気付く服の香り

君の匂いが僕からもする

振り向く顔と重なって

声に滲んだ息をそっと吸う


歯ブラシを咥えつま先で膝を掻く

少し見慣れて一カ月が過ぎた

裾を引きずって小さな足で気怠く歩く

癖が見えて半年が過ぎた


扉を開けた部屋から香る

あの時横切った風

昨日座った椅子から香る

絶え間なく揺れ残る灯火


好きな匂い 忘れない匂い

どんなに求めたとしても

勝者からは遠く 呆然と眺めてばかり


君がいる事実 君の動く道

これが私の僕の今 動いた道を辿る

安心した目にそっと

柔らかく強い手にそっと