連載小説(2) | 情熱派日本夕景

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…小屋の中で、少年は本を読んでいた。
少年は、名をアスカ・クロムウェルと言った。
フェリア砂漠で暮らす、フェリア族の少年である。
フェリア砂漠は、砂漠と言うよりかは、集落の目の前に巨大な岩がある、荒野のようなところである。
フェイルラントの中でも野生の空気を残すこの地でずっと生きてきたアスカは、町にたまに来る行商人から買う本以外に何の趣味もなかった。

と、ドアをノックする音が響く。

「兄上。
族長がお呼びです。」

妹のシルビアからだった。

「ああ、分かった。今行く。
…あとな、頼むから…他人行儀なその呼び方…やめてくれねぇか?
血を分けた兄弟だしな。
ワシも混乱するから。」

と、アスカが突っ込むと

「母上からキツく言われてるんです。
兄上こそ、一人称を普通にしてください。」

と、反撃をする。
さらにアスカは突っ込む。

「…族の男はみんなそうだろうが。」

そんなアスカに、シルビアは

「あ、そうでした…。
っていうか、そんな場合じゃないでしょうが!!

とにかく、族長がお呼びです!!
オアシスの桟橋に来るように、との事です。」
「…固っ苦しいけど、まあいいや。
了解。」

アスカは部屋を出た。

その直後…。

「…兄上ったら、またこの本を読んでたんだ。


と、シルビアは小説を手に取る。
アスカおすすめの一冊で、しおりがたくさんある。

「読書感想文でも書くつもりなの?あの兄は。」

と、シルビアも呆れ気味だ。

タイトルは『運命の下り坂』と記されている。

しばらく読み耽るシルビアだった。