ジャグ・バンド・ミュージックを聴く | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。


さて、今回 Apple Music を使って、私が色々と聴いてみたのはジャグ・バンドの演奏。

ジャグ・バンドというのは20世紀初頭にケンタッキー州ルイズヴィルという街で生まれたバンド形態で、ギター、バンジョー、ハーモニカなどの楽器に加えてジャグ瓶)をはじめとした身の回りにあるもので作られた手製の楽器を使うという編成のバンド。
音楽的にはジャズ、ブルース、カントリーなどを基調とした演奏がされていました。
同じ時期のアメリカでも、フランス人の父親から楽器を買い与えられ音楽教育を受けたクリオール(白人と黒人の混血)が多く、南軍の軍楽隊から放出された楽器が大量に出回っていた大都市のニューオリンズと比べると地方都市では、楽器を揃えてバンドを編成することは中々に難しいことだったということでしょうか。
1920年代頃になるとこのバンド・スタイルはメンフィスにも飛び火して、キャノンズ・ジャグ・ストンパーズやメンフィス・ジャグ・バンドなどの有名なジャグ・バンドがこの地で誕生します。
Apple Music を使って、この2つのジャグ・バンドの音源を聴いてみましたが、彼等にブルースだとかジャズだとかのジャンルに対するこだわりはないですね。
ダンスナンバーや流行歌など客に受ける曲なら何でもやるというエンターテイメントに重点を置いた姿勢です。
ギターやバンジョーなどの通常の楽器でベースとなるリズムやメロディーをキープしながら、手製の楽器の出すユーモラスの音が賑やかで楽しげな雰囲気を添えているといった感じですね。

こちらキャノンズ・ジャグ・ストンパーズのモノクロ写真。

 Cannon's Jug Stompers

バンジョーを持ったガス・キャノンは肩にジャグらしきものも取り付けています。向かって右の人はハーモニカらしきものを手にしているので、ハーピストのノア・ルイスという人でしょうか。
レコーディングによっては他に加わっているメンバーもいるのかもしれませんが、彼等の音源からはギター、バンジョー、ハーモニカ以外にはジャグとカズーの音しか聴こえてこないので、少人数の編成であるのは間違いないですね(カズーというのは口に咥えて音を出す玩具のような楽器でフォーク時代のRCサクセションの”僕の好きな先生”で使っていたあの音です)
高い演奏能力を誇り、現在でもブルースのアーカイブとして評価の高いバンドです。

キャノンズ・ジャグ・ストンパーズもメンフィス・ジャグ・バンドもレコーディング音源があるのでYouTube上にスティール写真を使った動画はあるのですが、残念ながら演奏している様子を撮影したものはありませんでした。
ですが、やはり、この時代のジャグ・バンドがジャグを吹いて演奏している様子は観てみたいですよね。
こちらは珍しい、実際に当時のWhistler's Jug Bandというジャグ・バンドが演奏している様子を撮影した1930年の映像です。



何とこのバンドはブローワー(ジャグ奏者)が3人も居て、ビッグバンド・ジャズのようにジャグ・セクションを形成しています(笑)
手前のシルクハットの人はさながらジャグのソロイストですね。

メンフィス・ジャグ・バンドは、リーダーのウィル・シェイドを中心に数多くのメンバーが集まっており、バンド・メンバーも録音セッションによって変化していたようですね。
Apple Music 上の音源を聴いてもガス・キャノンのバンドよりも賑やかで陽気。
当時は最も人気の高いジャグ・バンドだったというのも頷けます。




さて、ジャグやカズー以外にもジャグ・バンドではウォッシュボード(洗濯板)、ウォッシュタブ・ベース(洗濯桶とモップから作ったベース)、スプーンなど身近なものを楽器として利用しています。
こちらの動画ではジャグ・バンドで使われるこれらの手作り楽器を実演を交えて説明しています。




1920年代から30年代にかけて、ルイズヴィルとメンフィスの2都市を中心に人気を博したジャグ・バンドでしたが、1930年後半頃(スウィング・ジャズ全盛期ですねえ)から一般大衆にも都会的なスタイルがもてはやされるようになり、ジャグ・バンドという、いかにもルーラル(田舎風)なバンド・スタイルは廃れていくことになります…


最初にジャグ・バンド・リバイバルの動きが起こったのは、本国アメリカではなく第二次大戦後のイギリスでした。
ジャグ・バンドの演奏する音楽はアメリカでもスキッフルという呼び方をされることがありましたが、イギリスでのリヴァイバルではこのスキッフルという言葉が使われていたようです。
戦後のイギリスの耐乏生活の中、労働者階級の若者たちは楽器を安く手に入れたり、あり合わせのもので自作してスキッフルに興じました。
イギリスのスキッフル・ブームの中心にいたのがロニー・ドネガンという人。
彼の音源をApple Music で聴いてみると多くの曲で基調となっている音楽は50年代という時代を反映してロカビリー、ロックンロールですが、流行りの音楽を演るという意味では20〜30年代にジャズやブルースを演奏したジャグ・バンドと同じです。

トラディショナル・ジャズのバンジョー奏者であったロニー・ドネガンはバンドの演奏の合間にギターを弾きながら歌い、他の2人のメンバーがウォッシュボードとティーチェスト・ベースでスキッフルを演奏していたのが評判を呼び、1956年にレッドベリーのフォーク・ソング"Rock Island Line"をアップテンポで演奏したカバーが大ヒットしてイギリスでスキッフルのブームが起こることになります。

草の根のアマチュアの活動としては一説では、1950年代末のイギリスには3万から5万組のスキッフル・グループがいたものと推定されており、この中から多くの有能な若者が現れます(母数が多いというのは大事ですね)
UKブルースバンドの先駆者、アレクシス・コーナーやロンドンとベルファストでR&Bシーンの中心となったミック・ジャガーやヴァン・モリソン。
他にもモッズ、ブルース〜ハード・ロックを担ったロジャー・ダルトリー、ジミー・ペイジ、リッチー・ブラックモアなどの人材もスキッフルから音楽キャリアをスタートしています。
ですが、何と言ってもビートルズの前身となったバンド、クオリーメンがこの中にいたと言いますから、スキッフル・ブームが60年代のブリティッシュ・インヴェンションの下地になったことは間違いないですね。
サウンド的には20〜30年代のアメリカのジャグ・バンド・ミュージックとは異なりますが、正に「ジャグ・バンド精神」のリヴァイバルと言えますね。


サウンド面でジャズ、ブルース、カントリーを基調にした戦前のジャグ・バンドの音を再現したのが、1950年代後半から60年代にかけてのフォーク・リヴァイバルの分派として、当時の若者たちの支持を受けたニューヨークのイーヴン・ダズン・ジャグ・バンドであり、ボストンを拠点に活動したのジム・クゥエンスキン・ジャグ・バンドです(共に1963年の結成)

イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドはメンフィス・ジャグ・バンド的な賑やかな大所帯。
手製の楽器を携えた若者たち演奏ぶりをご覧ください。



いかにもこの時代の「メガネの大学生」といった風貌の人が多く、さながら「ジャグバンド研究会」といった様相を呈していますが、このバンドは音楽史上に残る数々の重要なアーティストを輩出しています。


バンド解散後、ラヴィン・スプーンフルを結成し数々のヒット曲を放ったジョン・セバスチャンや、ジム・クゥエンスキン・ジャグ・バンドに移籍の後、ソロ・シンガーとして大きな成功を収めるマリア・マルダー
また、アル・クーパーとともにブラス・ロックの雄、ブラッド・スゥエット&ティアーズ(BS&T)結成の中核メンバーとなったスティーブ・カッツ
渋いところではブルーグラスとジャズを融合させた"Dawg Music"という音楽を創出したデヴィッド・グリスマンやカントリー・ブルース・ギターの巨匠として知られるようになるステファン・グロスマンもこのジャグバンドに参加していました。
これだけの才能溢れるメンバーが集まっていたバンドなら、意見の衝突もするだろうし、こちらのアルバム一枚を発表しただけで解散してしまったのも無理のない話なのかも…

Even Dozen Jug Band/Even Dozen Jug Band

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一方のジム・クウェンスキン・ジャグ・バンドですが、どちらかと言えばキャノンズ・ジャグ・ストンパーズのような少人数の編成で、実際にリーダーのジム・グウェンスキンやギターとヴォーカルのジェフ・マルダーは彼等のジャグ・バンドのスタイルを作っていくにあたってガス・キャノンのジャグ・バンドを参考にしたようです。



裸足でタンバリンを叩きながら踊っているマリア・マルダーが若いですね。
手製の楽器はウォッシュタブ・ベースのみで、二本のギターとバンジョー、フィドルの演奏もしっかりしています。

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特に1967年にリリースされた『See Reverse Side For Title』の方は手作り楽器の使用が若干、控え目になり普通にアメリカン・ルーツロックのアルバムとして楽しめますね。
このオープニング・ナンバーの"Blues in the Bottle"なんかはジャグ・バンドなどと意識しなくても気持ちよく聴けます。



一般的にアメリカン・ルーツロック(アメリカーナ)のアルバムの中の楽曲はブルースやカントリー色の濃い楽曲が多いのですが、ジャグ・バンドやジャグ・バンドの出身者によるアルバムはジャズ色の強い楽曲が比較的多く収録されているというのが特色と言えば特色でしょうか。
ジム・クウェンスキン・ジャグ・バンドの個々のメンバーについてもジャズの影響が強く感じられるソロ・アルバムをその後、発表していくことになります。
特にジム・クウェンスキンが1967年にJim Kweskin & Neo-Passé Jazz Band という名義で出した『Jump For Joy』というアルバムはガーシュウィンなどの古い時代の楽曲を扱った、全面的なジャズ・アルバム。
アーリー・ジャズをいい音で楽しむには最適のアルバムですね。
知っていれば、前回のブログで紹介したのになあ…

ジャンプ・フォー・ジョイ (生産限定紙ジャケット仕様)/ジム・クウェスキン

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しかし、こういう復古的な動きをするのは、大体が白人ですよね。
この時期、黒人は既にR&Bからソウルに移行しており、更にファンク→ヒップホップと常に前へと進んでいく訳です。


さて、日本人はどうかというと…
やはり、温故知新の国民性。。。
古いデルタ・ブルース好きが日本にもいるようにジャグ・バンド好きも日本全国にいるようです。
2002年から始まり、毎年開催されている「横浜ジャグバンドフェスティバル」には全国から50組近いジャグ・バンドが集まってきます。
こちらはノコギリの奏者もいる関西から来たバンドのようですね。



いや、実に楽しいそうです。
仲間内で「バンドやろうぜ!」と盛り上がっても、結局は楽器のできない奴は参加できない訳ですが、ジャグ・バンドなら仲間が全員で参加できそうですね。
もちろん手製の楽器にも演奏技術というのはあるのでしょうが、上手くなくてもサマになるいうか、楽しければオッケーという感じはありますね。
楽器がなくても技術がなくても仲間で音楽を楽しむ。これが100年以上前から続く「ジャグ・バンドの精神」なんでしょうね。

最後に、
本場ケンタッキー州ルイズヴィルで開催される「ナショナル・ジャグ・バンド・ジュビリー」にも出演した、こんな高い演奏能力を持つ本格的なジャグ・バンドが日本にも…



アルバムも聴きごたえ充分‼︎
The Jug Band Special/OLD SOUTHERN JUG BLOWERS

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