ライ・クーダー で『Jazz』を探求する | Apple Music音楽生活

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レンタルCDとiPodを中心とした音楽生活を綴ってきたブログですが、Apple MusicとiPhoneの音楽生活に変わったのを機に、「レンタルCD音楽生活」からブログタイトルも変更しました。

このライ・クーダーの『Jazz』というタイトルのアルバムを聴いて長い間、「どこがジャズなんだろう」と疑問に思っていました。

ジャズと言えば私より少し前の世代の人たちが薄暗いジャズ喫茶で難しい顔をしてJBLのスピーカーから出る音を1音も聴き逃すまいと一心に聴き入っているというイメージがありましたので。
最近、そういう40〜60年代のビ・バップ〜モダンジャズ以前の古い時代のジャズやラグタイムなどを少し聴くようになって、何となく分かってきました。

ライ・クーダーがそれまで取り組んできた、ブルース、ゴスペル、カントリーなどと同様に古いアメリカン・ルーツ・ミュージックとしてのジャズを更にそのルーツを遡って、彼なりに再構築して作り上げたアルバムなんですね。


1978年の作品
ライ・クーダー、7枚目のアルバム
Jazz/Ry Cooder

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Track Listing
1.Big Bad Bill Is Sweet William Now(Emmett Miller)
2.Face to Face That I Shall Meet Him(Joseph Spence)
3.The Pearls/Tia Juana(Jelly Roll Morton)
4.The Dream(Jack the Bear, Jess Pickett))
5.Happy Meeting in Glory(Joseph Spence)
6.In a Mist(Bix Beiderbecke)
7.Flashes(Bix Beiderbecke)
8.Davenport Blues(Bix Beiderbecke)
9.Shine(Cecil Mack, Ford Dabney)
10.Nobody(Bert Williams)
11.We Shall Be Happy(Joseph Spence)


カッコ内に作曲者ないしは、ライ・クーダーによるカバーの元となった原曲のプレイヤー(あるいは歌い手)の名前を入れておきましたが、一見して多いのがジョセフ・スペンス(Joseph Spence)とビックス・バイダーベック(Bix Beiderbecke)という名前。


この二人について触れる前に、まず、このアルバムの大きな特徴である、ライ・クーダーと共同でこのアルバムをプロデュースしているジョセフ・バードがタクトを振るビッグ・バンドの演奏を観て観ましょう(いつものライのアルバムの常連メンバー、ジム・ケルトナー(ds)やクリス・エスリッジ(b)は参加していないんです)

曲は1920年代後半に活躍したエメット・ミラーというミンストレル・ショーの芸人が歌った"Big Bad Bill is Sweet William Now"



予算の都合でしょうか。ビッグバンドと言っても、さほどの人数ではない(かろうじてサックスだけは3本でセクションを構成)のですが、ちゃんとひな壇を作って、譜面台まで用意してジョセフ・バードがタクトを振っています。
気分はビッグバンドといったところでしょうか(笑)
ビッグバンドとは言え、1935〜45年頃に隆盛を極めたスウィング・ジャズという訳ではないですね。
アルバム全体としてはフルメンバーによる演奏とビッグバンドから選抜されたメンバーによるコンボ(小編成のジャズ・バンド)で演奏された曲で構成されています(曲によって ゲスト・プレイヤーが参加)

ミンストレル・ショーというのは顔を黒く塗った白人の芸人が「馬鹿で間抜けな黒人」を演じて笑いをとるという、今のアメリカで演ったら完全にアウトの大衆芸能。
Apple Music にあるエメット・ミラーの音源(いや、こんなものまであるとは…)を聴くと、ミラーの歌声自体はヨーデルを取り入れたコミカルなもの(同時代のカントリー音楽の父、ジミー・ロジャースのヨーデル唄法に影響を与えたという説もあるようです)なのですが、バックの演奏は確かにジャズですね。
それもそのはず、このレコーディング時のメンバーは、ジミー・ドーシー(sax 、cl),トミー・ドーシー(tb ),ジャック・ティーガーデン(tb ),エディ・ラング(g),ジーン・クルーパ(ds )など、後に一流のジャズメンとして知られるようになった人ばかりです。



Emmett Miller(1900–1962)


さて、こういう曲ばかりであれば、なるほど古い時代のジャズをテーマにしたアルバムだなと分かるのですが、今回、詳細に聴き直してみて、2曲目、5曲目(A面ラスト)、11曲目(B面ラスト)と要所要所に配されたジョセフ・スペンスのカバーが従来からのライ・クーダーらしい雰囲気なので、アルバム全体としてジャズ的な印象を薄めているように思います。
と言うのも道理でジョセフ・スペンスはライ・クーダー自身がボトルネック奏法でないギター・プレイでは、最も大きな影響を受けたと語っている、バハマのギタリストだからでしょうね。
Apple Music にあるジョセフ・スペンスの音源を聴いてみると、確かに押弦のフィンガー・ピッキングで弾くときのライのギターによく似ています(逆なわけですが)
もっとも、ライがプロのミュージシャンとして、リスナーが聴くことを意識した演奏を行っているのに対して、ジョセフ・スペンスは時々、平然と音を外して、まったく意に解する様子もなく、歌もでたらめな英語で適当に歌っています(笑)
元々、彼はプロの音楽家ではなく、農夫、漁師、大工(石工)などの仕事をしながら自分自身と家族や友人を楽しませるためにギターを弾いていた人です。


スペンスは1958年にバハマに来た音楽研究家のサム・チャーターズによって「発見」され、レコーディングを行います。
このときの『The Complete Folkways Recordings,1958』という音源には"Face to Face That I Shall Meet Him"と"Happy Meeting in Glory"が、1964年の『Happy All the Time』には"We Shall Be Happy"が収録されています。
おそらく、ライはこのあたりの音源でスペンスのギターを聴いて驚愕し、大きな影響を受けることになったのだと思われます。
スペンスの原曲とライ・クーダーのバージョンを続けて聴いてみましょう。
"Face to Face That I Shall Know Him"






ライは古い賛美歌などを、シンコペーションの効いたベース・ラインを持つギター曲にアレンジしてしまうジョセフ・スペンスの音楽に、ニューオリンズの黒人やクリオールたちがラグタイムやイタリア・オペラの楽曲を勝手に演奏し始めたことが起源とされているジャズの誕生に近いものを感じ取ったということのようです。
理屈としては判りますが、何かジャズからは遠いなあという感じは否めません。

ライ・クーダーのバージョンはスペンスのギターに特徴的な6弦をDに落としたチューニングによるベース・ランをジャズ界の大御所、レッド・カレンダーの演奏するチューバの重低音に置き換えて強調しています。
ジャズというよりも、ラグタイムやブルースとともにニューオリンズ・ジャズの成立に影響を与えたマーチング・バンド(軍楽隊)的にアレンジされた曲だと思います。他のスペンス・カバー2曲にも同じようなアレンジが施されていますね(スベンスの3曲にはデヴィッド・リンドレーもマンドリンで参加)
ライが音楽を担当した南北戦争のミズーリ州を舞台にジェシー・ジェイムスを主人公にした、1980年の映画『Long Riders 』のサントラも何かこんな感じでしたね。



ジャズなのかどうかなどと言う議論を別にすればジョセフ・スペンスの遺した音源は、中々、興味深いものがあります。『The Complete Folkways Recordings,1958』の方が音楽史料的な価値は高いのかもしれませんが、どうも音質が良くない。Apple Music にあるスペンスのアルバムの中で個人的にはこちらが気に入りました。

Glory/Joseph Spence

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この音源は主に1978年にナッソーにあったスペンスの自宅と姉夫婦の自宅で収録されたものですが、非常にきれいにギターの音が録れており、姉夫婦とその娘(ピンダーズ・ファミリー)も歌で参加しています。
何よりもリラックスした雰囲気で家族や仲間たちと一緒に、いかにも音楽を楽しんでいるといった様子が伝わってくるのがイイですね。時おり笑い声も上げながら、実に楽しそうです(所々、音が途切れる箇所があるのが難点です 笑)
人と音楽との関わりの本来の在り方は、こうしたものだったと思いますね。

このレコーディングの後、1980年に姉のイーデスが亡くなり、その翌年、彼女の夫レイモンド・ピンダーも亡くなります。
2人が亡くなって間もなくスペンスも病気になり、1984年に73歳で亡くなりました。
大いに働き、大いに家族や仲間と音楽を楽しんだ充実した人生だったんでしょうなあ。。。


Joseph Spence(1910-1984)



と、ここで終わってしまいそうな雰囲気ですが、、、
次はジョセフ・スペンスとならんで、このアルバム『Jazz』で3曲が取り上げられているビックス・バイダーベックについて。

ビックス・ バイダーベックは1920年代に活躍した白人のコルネット/ピアノ奏者で、当時はルイ・アームストロングと並ぶ影響力のあるソロイスト(独奏者)だったそうですね。
フランシス・フォード・コッポラの1984年の映画『コットンクラブ』でリチャード・ギアが演じた主人公は彼がモチーフになっています。
ちなみにコルネットという楽器はトランペットに似た金管楽器ですが管がぐるぐる巻かれている分、柔らかい音が出るそうです。

このアルバム『Jazz』のアナログ・レコードでのB面、最初の3曲が"In a Mist"、"Flashes"、"Davenport Blues"と続くビックス・バイダーベックの作品なのですが、長年のライ・クーダー愛好家としては、この3曲にはどうも違和感を感じます。

"In a Mist"はドビュッシーらのフランス印象派と呼ばれた当時のクラッシック前衛音楽とジャズのシンコペーションを融合したピアノ曲で、1927年という時期に作られたポピュラー音楽としては驚異的に芸術的水準の高い作品です。
民衆の間で生まれた素朴な歌を採り上げてきたライにしては、らしくない選曲に思えます。
しかもライ・クーダーのバージョンではヴィブラフォン(鉄琴)という楽器が使われていますが、私はこの楽器の「夜の大人のムード」が漂う音色が苦手なんです。
"Flashes"も"In a Mist"と同様に、これまでジャズで使われたことの無かった新しい和音と音階を使用した曲で、ライはギター1本のインストに置き換えているのですが、いつものライの押弦のフィンガー・ピッキングのインスト・ナンバーとは、まったく趣きが異なっています。

この3曲の中では唯一"Davenport Blues"だけはビックスが初期に組んでいたリズム・ジャグラーズによる彼の故郷ダヴェンポートを題材にした、郷愁感のあるディキシーランド・ジャズ(白人がニューオリンズ・ジャズを演る場合はこう呼びます)
曲としてはライが取り上げてもおかしくはないと思うので、これをかけてみようと思います。


今回の記事はライ・クーダーの『Jazz』というアルバムを手がかりにロック・リスナーがジャズを探求してみようという趣旨なのでこのアルバムの収録曲にはこだわらずにいきます。
YouTube 上にあるリズム・ジャグラーズの音源は音質的にかなり厳しいので、これを選んでみました。
誰が演奏しているのか判りませんが、賑やかなホーン(集団で即興演奏をしていると言ったらいいでしょうか)のオリジナル盤とは異なる静かでしっとりとした演奏をバックにビックスと仲間たちのモノクロ写真が流れていく、非常にビックスへの愛着が感じられる動画です。



YouTube を検索していると、いかにビックスの信奉者が多いかよく判りますね。

古きアメリカのグッド・ミュージックを現代に提供してくれるウッドストック人脈のミュージシャン、ジェフ・マルダーも、ビックスの楽曲に歌詞を載せたユニークなカバー・アルバムを出しています。
ジェフ・マルダーのヴォーカルは古い時代のジャズの雰囲気にマッチしていますね。

Private Astronomy: A Vision of the Music of Bix.../Geoff Futuristic Ensemble Muldaur

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ビックス・バイダーベックは若くしてデビューしてスターになり、僅か5年という短い期間に数々の名曲と素晴らしい演奏を遺し28歳(ロック・スターなら27歳ですね)の若さでアルコール禁断症候群の発作で亡くなったという、天才破滅型のアーティストの典型のような人。
50年代のクール・ジャズにも大きな影響を与えたようです(時代を超えた天才ですね)


Bix Beiderbecke(1903-1931)

先ほどのジョセフ・スペンスとは対照的(スペンスも天才ではありますが)な人生ですね。
若い頃はビックスのような天才破滅型アーティストに惹かれるもんですが、いまでは私もスペンスの生き方に共感する歳になりました。


Vol. 1: Singin’ the Blues by Bix Beiderbecke (2.../Bix Beiderbecke

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色々、聴いてみましたが、このアルバムはデジタル・リマスターが良いのか比較的、音質が良くて聴きやすいです。もちろん、雑音はあるのですがビックスの卓越したコルネットの即興演奏を体感するには、やはりオリジナルを聴くしかありません。
アルバム・タイトルにもなっている"Singin' The Blues"のフランキー・トランバウワーのサックスとビックスのコルネットの独奏(エディ・ラングのギターも聴けます)は素人の私が聴いても確かに名演だと思いますね。


この『Jazz』というアルバムの中で、原曲の演奏者が明確にジャズメンだと言えるのはビックス・バイダーベックと3曲目の"The Pearls/Tia Juana"ジェリー・ロール・モートンのみです。
Apple Music 上にあるジェリー・ロール・モートンと彼のレッド・ホット・ペッパーズの演奏で"The Pesrls"を聴くと普通にホーン・セクションの賑やかなディキシーランド・ジャズという雰囲気ですか、ライ・クーダー版はストリングス・バンド編成に構成し直しています。後半の"Tia Juana"ではティプレ・ハープという楽器を使っているのですが、この音がトリニダードのスティール・パンを思わせ、カリビアン的な雰囲気が濃厚な曲になっています。
モートンについては以前、「ニューオリンズ・ピアノを聴く(前篇)」(ブログはこちら)でも触れましたが、キューバなどのカリブ海のラテン音楽の影響を受けている人なので、ライはモートンのジャズのルーツを強調する形でこの曲をアレンジしたのだと思いますね。

"The Pearls/Tia Juana"の次の曲、ゲスト・プレイヤーとしてライ・クーダー、1974年の4枚目のアルバム『Paradise and Lunch』(ブログはこちら)で初共演したアール・ハインズとライが再び共演した"The Dream"もラテンの香りが濃厚です。
ハインズは1920年代にシカゴでルイ・アームストロングとホット・ファイブというバンドを組んでいたという、この当時でも生ける伝説のような存在だったピアノ・プレイヤーですね。
この曲はニューオリンズのストーリーヴィルという歓楽街でよく演奏されていた曲のようで、14歳の頃からストーリーヴィルの娼館でピアニストを務めていたジェリー・ロール・モートンもおそらくは演奏していたはずです。
このあたりの曲のつながりはよく考えられていますね。
ライ・クーダーがカリブのラテン音楽を明確にジャズのルーツのひとつと考えていることが伺えます。


このアルバムの中では、最初のエメット・ミラーの"Big Bad Bill is Sweet William Now"と黒人ヴォードビリアン、セシル・マックとロード・ダブニーにより1910年に流行した"Shine"という双方ともお笑い芸人による流行歌において、最もジャズらしさのある演奏を聴くことができますが、私にはこれは、かなり意図的なものに感じられます。
このアルバムが発表された1978年という時代性を考えると、モダン・ジャズから発展したオーネット・コールマンらによるフリー・ジャズ(キング・クリムゾンのイアン・マクドナルドのサックス、あの感じです)、60年代末から70年代半ばまでのマイルス・ディヴィス・グループの『Bitches Brew(1969)』『Agharta(1975)』(このアルバムは横尾忠則のジャケット・デザインに惹かれて訳も分からずリアルタイムで買ってしまいました)などにより前衛芸術として「行くところまで行った」という感のあるジャズに対して、前衛芸術とは対極にある大衆芸能をことさらジャズとして演奏することによって「ジャズって本来、大衆的で楽しいもんなんだよ」と異議申し立てをしているのだと思います。


実際、この曲は多くのジャズ・ミュージシャンによってカバーされており、ライ・クーダーもアコースティック・ギターで中々にジャズらしい演奏を聴かせています。
ゲスト参加のゴールデン・ゲイト・カルテットのコーラスもいい味を出していますし、ティンパン・アレーの香りのあるグッド・タイムのジャズに仕上がっています。
ですが、ここはひとつルイ・アームストロングがビッグバンドをバックに歌って、トランペット・ソロを聴かせているスウィング・ジャズのバージョンを貼っておこうと思います。
このアルバム『Jazz』ではスウィング・ジャズと呼べるような演奏は収録されていないのですが(ライのスウィング・ジャズというのはあまり想像できないです)ひとつくらいスウィング・ジャズも観ておきたいので。


この映像は1942年のもののようです。
ビ・バップはすでに誕生していましたが、スウィング・ジャズにまだまだ人気があった頃ですね。



しかし、戦時中でこの華やかさ…
当時の日本の状況を考えると、日本が負けるのも道理です。

このアルバム『Jazz』でジョセフ・バードが指揮するビッグバンドとは違いサックス、トランペット、トローボーンが各々セクションを形成している立派なビッグバンドです。
コメディアンらしき人も登場していましたが、こういうビッグバンドのスウィング・ジャズはエンターテイメントとしてのジャズの究極の形だと思いますね。




さて、冒頭にも書きましたが、久々にこのアルバムをじっくりと聴いてみての結論を述べておきます。

この『Jazz』というアルバム、やはり、これまで私が感じていたとおり、ジャズのアルバムではないですね。
ライが他のアルバムでロックやソウル・ミュージックのルーツとして、古い時代のブルース、ゴスペル、カントリーを掘り起こしてきたように、ジャズのルーツとして古い時代のラグタイムやティンパン・アレーに起源を持つ大衆の流行歌、ニューオリンズに伝わったカリブ海のラテン音楽、軍楽隊の吹奏楽などのルーツ・ミュージックをミックスした作品ですね(ジャズのルーツのひとつブルースについては、これまでも取り上げてきたせいか収録されていませんが)

とは言え、今回の記事タイトルを見て「あまり聴いたことないけどジャズを聴いてみたい」思って読んでくれた方のために、ライ・クーダー『Jazz』の代わりと言っては何ですが、ここから先は私も含めたジャズ初心者にも聴きやすいと思ったジャズのアルバムを紹介したいと思います。

今回、この記事を書くにあたって初期のニューオリンズ・ジャズからスウィング・ジャズあたりの時代のものを手当たり次第に聴いてみました。
超一流のエンターテイナーでもあり、オールド・タイムの楽しいジャズを聴かせてくれるルイ・アームストロングやファッツ・ウォーラー、飄々とした歌声で粋なジャズを聴かせるシンガー・ソングライターのホギー・カーマイケル、アコースティックでジャズ・ギターを弾くエディ・ラング、ジャンゴ・ラインハルトなどは興味深く聴くことができました。
ただ、1920〜40年代の録音はやはり普段使いで聴くのは厳しい…
そこで、こういう古い時代のジャズを演奏している現代のジャズ・ミュージシャンについて調べてみるとフランス系の人たちが多いことが判りました。
ジャズ誕生の地、ニューオリンズは元々はフランスの植民地だった場所。
フランスの白人と黒人が混血したクリオールと呼ばれる人たちがジャズという音楽の成立に大きな役割を果たしているのですが、そんな歴史も何か関係しているのかもしれませんね。

以下のバンドについては日本語の情報が少ないので、英文をグーグル翻訳して調べてみましたが、固有名詞までは翻訳してくれないので、バンド名・ミュージシャン名については英文表記させてもらいます。

まずはニューオリンズのライブハウスSpotted Cat Music Clubを拠点に2004年頃から活動しているNew Orleans Jazz Vipersというジャズ・バンド。
ビリー・ホリデー、デューク・エリントン、ルイ・アームストロング、カウント・ベイシーあたりをレパートリーにしているようです。

こちらはティンパン・アレー(以前書いたブログはこちら)の代表的な作曲家ジョージ・ガーシュウィの"Lady Be Good"を本拠地のSpotted Cat Music Clubで、リラックスした雰囲気で楽しんで演奏しています。



いいですねえ…
ニューオリンズのバーボン・ストリートなどの通りにはジャズ、ブルース、R&B、ファンクなど様々なジャンルのライブハウスが並んでいるそうですが、店のドアは開けっぱなしにしてあって、客は店先で音を聴いて、入る店を決めるということです。
一度は行ってみたいもんですね。

ホーン・セクションのオヤジ連中と比べるとリズム・セクションの2人(バンジョーの人もいますがメンバーではないようです)はかなり若めなのですが、このリズム・ギターのお姉さん(Molly Reeves)いいですね。
ウッド・ベースの人とも非常に息の合ったコンビネーションを聴かせてくれてます。
ジャズのリズム・ギターと言えばカウント・ベイシー楽団のミスター・リズムことフレディ・グリーンという人がいますが、彼のリズム・ギターはカウント・ベイシーのビッグバンドの古い音源では、かなり注意深く聴かないと聴き取れないのですが、このくらいの小編成のバンドの音を現代の録音技術で聴けば「タイム感をキープする」というリズム・ギターの役割がよく分かりますね。
ちなみに、ニューオリンズ・ジャズではドラム、ピアノと併せてリズム・セクションを担当していたチューバ、バンジョーに代わってウッド・ベースとギターがリズム楽器として使われるようになったのはスウィング・ジャズの時代以降のことのようです。
このバンドもニューオリンズらしいホーンの賑やかな演奏ですが、スウィングのコンボと言っていいんでしょうかね?

こちらは彼らの最新アルバム。
地元、ニューオリンズ・ソウルの女王アーマ・トーマスが1曲、ゲスト参加しています。
サックスのJoe Braunの白人ながらサッチモそっくりのヴォーカルにも注目!

Going,Going,Gone
New Orleans Jazz Vipers


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実はNew Orleans Jazz Vipersのリズム・ギターとウッド・ベースの2人、 The World Finest Applesというカリフォルニア州サクラメントとニューオーリンズを拠点に1920〜30年代のジャズにアプローチしている若い世代のジャズ・バンドのメンバーでもあります。
このバンドのリーダーはNahum Zdybel(フランス系の名前なんでしょうが、まったく読めません…)というギタリスト。
Molly Reevesが弾いているように、ジャズではギターはリズム楽器として使われていましたが、ジャズの演奏で初めてギターでソロのメロディを弾いたのは1920年代に活躍したエディ・ラングというギタリストだと言われています。
ラングからの影響を受けた、少し後の世代のギタリストにジャンゴ・ラインハルトという人がいますが、Nahum Zdybelのギターには、この辺りの時代のジャズ・ギターの香りがします。

曲は、大学で法律の勉強をしていたもののヴィックス・バイダーベックとの運命的な出会いでジャズ・ミュージシャンになったホギー・カーマイケルが1929年に書いた永遠のスタンダード・ナンバー"Stardust"(『シャボン玉ホリデー』のエンディング曲ですね)
The World's Finest Applesの拠点のひとつ、サクラメントのミュージック・フェスティバルでのライブです。



ステファン・グラッペリのヴィオリンの代わりにアコーディオンの入ったジャンゴ・ラインハルトのフランス・ホット・クラブ五重奏団といったところでしょうか(にわか仕立てでジャズを聴いただけのくせに、生意気言ってすいません…)

アコーディオンの音色のせいもあるのかもしれませんが、このバンドはニューオリンズというよりもフランスのヨーロッパ的なジャズの香りがしますね。

Apple Music で聴くことができるのは、このアルバム1枚のみ(どうも、このバンドの情報は少ないです)

The Bunnyfriend Colloquium
The World's Finest Apples


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ジャンゴ・ラインハルトという人は1930〜40年代にジプシー音楽とスウィング・ジャズを融合した独自の音楽性で活躍し、後世に多大な影響を与えたジャズ・ギタリストですが、こちらはジャンゴ・ラインハルトの本拠地だったパリのジャズ・クラブ・シーンで活動しているRP QUARTETというバンド。
これはもう、ジャンゴ・ラインハルト&ステファン・グラッペリ直系のジャズと言っていいんじゃないでしょうか。



弾いているギターもジャンゴが使用していたセルマーのようですね。
この演奏で、最初にジャンゴ・ラインハルトのアニメも出てくるので、彼の曲かと思ってしまいますが、実はこの"I Mean You"という曲、セロニアス・モンクのナンバー。
RP Quartetはモンクの他にもジョン・コルトレーンの曲もよくカバーしていますが、モダン・ジャズの曲も彼らのカバーだと原曲よりも聴きやすい感じがしますね。


ロンドンのクラブ・シーンのアシッド・ジャズは非常にスタイリッシュなものだったと思いますが、パリのクラブ・シーンのジャズもニュアンスは異なるものの、やはりスタイリッシュ(洒落ていると言うべきか)だと思いますね。

彼らのアルバム、『Goat Rhythm(2014)』『Chicken Do It(2016)』ではサックスやゲスト・ヴォーカルも参加して、よりジャズらしい編成になっていますが、おそらく、彼らのデビュー・アルバムと思われる、こちらの2010年のアルバムは、リード(?)ギター、ヴァイオリン、リズム・ギター、ウッド・ベースというジャンゴ・ラインハルトのフランス・ホット・ジャズ五重奏団とほぼ同じ編成(ジャンゴの五重奏団の方はリズム・ギターが2本ですが)で全編が演奏されています。

RP Quartet/Crawfish

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非常に聴きやすいですね。
初心者には本場のジャズよりもヨーロッパのフィルターを通したものの方が聴きやすいのかもしれないです(ジャンゴ・ラインハルトの影響がある日本のギター・デュオ、GONTITIを聴いてたせいもあるかな)
アメリカの外にあって、レコード音源を聴き込み、ジャズの格好良さだけを抽出したという感じがします。
我々、ロック・リスナーがブルースに入っていった入口は大抵、ブリティッシュのブルース・ロックからでした。
イギリス人のエリック・クラプトンのブルースの方が黒人のブルースやアメリカの白人のブルースより取っつきやすいのとジャズの場合も同じような気がします(私の年代ではフュージョンから本格的にジャズに入る人もいましたが)

モダン・ジャズはいまだに苦手ですが、ブルースやカントリーと同じく、アメリカのルーツ・ミュージックのひとつとしてのジャズなら、少しは聴けそうな気がしてきました。
そういう意味ではこういう古いジャズにインスパイアされたバンドもアメリカーナと呼んでもいいのかもしれませんね。


参考文献

ポートレイト・イン・ジャズ (新潮文庫)/村上 春樹

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ジャズの歴史/フランク ティロー

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