ライ・クーダー 『Chicken Skin Music』 | Apple Music音楽生活

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5月に、ライ・クーダーがテックスメックスに取り組むきっかけとなったアルバム『Paradise & Lunch』を紹介しましたが、今回ご紹介する『Chicken Skin Music』では、メキシコとの国境地域に根付いたテハノ・ミュージックのアコーディオン奏者フラコ・ヒメネスも参加し、更にはハワイのスラックキー・ギターの父、ギャビー・パヒヌイとの共演も収録した、ワールド・ミュージックの先駆けとなったアルバムです。
このアルバムは、はじめてのライ自身によるセルフ・プロデュースの作品でもあり、間違いなくライはこの頃、彼の長い音楽キャリアの最初のピークを迎えていたと思いますね。



1976年リリース
Chicken Skin Music/Ry Cooder

¥1,539
Amazon.co.jp


Track Listing
1.The Bourgeois Blues
2.I Got Mine
3.Always Lift Him Up/Kanaka Wai Wai
4.He'll Have To Go
5.Smack Dab In The Middle
6.Stand By Me
7.Yellow Roses
8.Chloe
9.Goodnight Irene



こういう名盤と呼ばれるアルバムは既に語り尽くされた感があるので記事は書きにくいのですが、私なりの切り口で紹介しようと思います。


まずは初期の「不況時代三部作」の流れをくむ古いアメリカの歌を取り上げた2.I Got Mine



もう、こういう曲はお手の物で、安心して聴いていられる感じがします。
刑務所に収監されているところを発見され、ウディ・ガスリーらのフォーク・リバイバルに影響を与えたレッドベリーの1.The Bourgeois Bluesや前作から登場した男性ゴスペル・コーラスを施したブルースナンバー、5.Smack Dab In The Middleなども、従来からのライ・クーダーらしさが楽しめるナンバー。


さて、ではフラコ・ヒメネスやギャビー・パヒヌイが加わることで、これまでのライ・クーダーの音世界がどう変わるのか聴いてみましょうか。


テックスメックスの巨匠、フラコ・ヒメネスが登場する、4.He'll Have To Goのライブステージでの演奏をお聴きください。
彼のアコーディオンは正に素晴らしいの一言。この音ひとつで空気感が変わりますね。



初期の3作には戦前のアメリカへのタイム・トリップの感覚がありましたが、
この曲からは空間的なトリップ(旅情)を感じます。
これは"He'll Have To Go"というカントリーの曲をテックスメックスにアレンジした曲ですが、他のジャンルの曲を別ジャンルのルーツ・ミュージックでアレンジし直すという手法がこのアルバムでは目立ちます。
ベン・E・キングの6.Stand By Meもテックスメックスのアレンジでジョン・レノンのカバーとはまったく別の味わいがありますね。
この4.と6.はライ・クーダーがフラコ・ヒメネスを招いて収録したものですが、
逆にライがヒメネスのバンドに参加してレコーディングしたのが9.Good Night Irene。
このラストナンバーはオープニングの"The Bourgeois Blues"と同じくレッド・ベリーの作品。


このアルバムの最大の聴きものは、ライがハワイまで出向き、ハワイアンの巨匠ギャビー・パヒヌイアッタ・アイザックスを招いて録音した7.Yellow Rosesと8.Chloeでしょうか。
古いジャズ・ナンバーをハワイアンにアレンジした"Chloe"をお聴きください。



この2曲のセッションではギャビー・パヒヌイは、なぜかスティール・ギターの担当に回り、2本のスラックキー・ギターはアッタ・アイザックスとライによるもの。
私はこの2曲でスラックキー・ギターというものを知り、スラックキー・ギターのアルバムを聴くようになります。
いまでは私の夏の定番ですね。
このハワイ独特のゆる~いチューニングで弾くギターについてはこちら


このアルバム以前にもライは2ndで伝説的なブルースマン、スリーピー・ジョン・エスティス、4thでジャズの巨人、アール・ハインズなどのアメリカン・ルーツ・ミュージックの巨匠たちと共演してきましたが、今回はアメリカ国内とはいえ、異なる音楽文化の巨匠と共演したということが意義深いですね。
その後、アメリカ国内も飛び出して、インドのV・M・バット、マリのアリ・ファルカ・トゥーレ、キューバのコンパイラ・セグンドらと共演を重ねていくことになります。




最後に、この曲をご紹介したいと思います。
各曲のレコーディング日時のデータまでは見つからなかったので、これはあくまで私の推測なのですが、フラコ・ヒメネスやギャビー・バフィヌイと重ねたセッションの成果がこの3.Always Lift Him Up-Kanaka Wai Waiに結実しているように思えます。
ライがジム・ケルトナーなどのいつものメンバーと演奏しているのですが、最初に紹介した"I Got Mine"などの従来のライ・クーダーのサウンドとは明らか違う深い情感が流れています。



主体となっている曲は1stアルバムでも取り上げたアルフレッド・リードの"Always Lift Him Up"ですが、間奏ではハワイアンの名曲"Kanaka Wai Wai"のメロディーをライがスラックキー・ギターで聴かせます。
このスラックキー・ギターが見事に自分のものとなっているので、ライがハワイに行ってギャビー・パヒヌイらから本場のスラックキーを学んだ後にレコーディングされたものではと思った次第です。


80年代後半のワールド・ミュージックのブーム時には当たり前だった異なる地域の音楽のミクスチュアですが1976年の時点で苦もなくやってのけていたライ・クーダーはやはりワールド・ミュージックの先駆者ですね。



フォーク、ブルース、トラディショナル・ソング(伝承曲)だけの「不況時代三部作」も渋い味わいがありましたが、本作はテックスメックスやハワイアンの要素が入ったことで、音が豊かになり、非常にレイドバック感のある作品に仕上がっています。
一番最初に聴くライ・クーダーのアルバムも1枚選ぶとしたら、やはり、この『Chicken Skin Music』ですかね。


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名作です。