桑原嶽の本。

まず一言。小説ネタに一々突っ込むな。

さて、何時も通り本屋を徘徊していて、探している本が見付からずに、何時も通りに違う本を買い込んでしまったのが今回。

先に断っておくが、俺は司馬遼太郎作品を読んだことはない。
最低限、認識はしていない。
おかしな書き方になったのは、水木しげるの本を読んだことがない(映像化された物は見たことがある)と思い込んでいたが、娘に語るお父さんの戦記を八十年代中盤に読んでいたことを最近知ったからだ。(小学校の最後の歳くらいに読んでいた記憶がある)
なので、著者を知らないまま司馬遼太郎作品を読んでいる確率は存在するが、まあ、それは本題ではない。

それはさておき。

本来小説家とは、嘘八百を並べ立てて面白い話を作り出し、それを売ってもうけている人のことだ。
なので、この本の前書きを読むまではとても否定的で、買うことになるとは考えていなかった。
だが違った。
小説家とはどんな仕事をする人達なのかを理解していないのか、それとも、あまりに有名な作家だから嘘は書かないと思ったのか、小説を信じている人が多いらしいことを知って、最終的に購入を決めた。
日露戦争の陸戦についても知りたかった。(地図の話で少しだけ知識はあるが、それも大した物ではない)

まあ、最初の方に書いたが、俺は司馬遼太郎作品を読んだことがない。当然坂の上の雲も未読だ。
だから、批判の部分については何かを書く資格が全く存在していない。

と言う事で日露戦争についての部分に絞って、色々と書いてみたいと思う。

まず何よりも驚いたのは、203高地が旅順要塞攻防戦で、決定的な役割を果たしていなかったと言うことだ。
何冊かの本で203高地について読んだことはあったが、それが間違いだったらしいことがこの本を読んで分かった。
ただし、双方が意図しないで決戦の地になってしまったのは事実らしい。
ある意味、乗りと勢いで決戦をする場所として203高地が存在したと言えるかも知れない。(言えないか?)
別に、他の場所でも良かったのだろう。
旅順にいた艦隊は、その機能が無くなっていたと言う事だし。(もっとも、この事実を知っている人間が日本にいたかは極めて疑問だ)
何作も映像化されているので、決戦が双方の意図したところだと思っていたので、極めて大きな衝撃だった。

とは言え、203高地を占領し旅順港内の艦隊を攻撃したことにより、ロシアから新たな艦隊がやってくることとなり、最終的にバルチック艦隊の到着が延々と遅れた。
この事実は大きな意味を持つのではないかと思う。
想定よりも時間が有ったのだから、色々な準備をすることが出来たはずだからだ。
それに引き替えバルチック艦隊の疲労は蓄積されていったはずだ。
これが日本海海戦に及ぼした影響はかなり大きかったのではないかと思う。
最終的に、203高地で払われた犠牲は無駄ではなかったと、俺は判断する。

さて、次。

疑問がある。
著者曰く「望台」こそが旅順攻略の要だと書いている。(字合ってるかな?)
ここが、何故それ程重要だったのかについて、殆ど書かれていなかった。
地図や地形図を見ても、俺ごときではさっぱり分からないので、少し解説して欲しかった。

そうそう、これは日露戦争後の話になるが。

明治天皇への報告書(本当はきちんとした言葉がある)を提出する時、定型文章を提出した他の人と違い、乃木将軍だけが事細かに色々と現実的なことを書いていたと書かれていた。
これは、行為としてどうなのだろうか?
本来、定型文章を提出することが正しいのか、それとも、事細かな報告書を提出することの方が正しいのか?
今の俺からすれば、どちらも正しいことのように思えるのだが、実際はどうなのだろうか?

さて最後に。

最近読んだ本には、日露戦争の頃までは江戸時代の教育があったから、日本は道を踏み外さずに済んだと書かれていた。
だがこの本を読むと少し感じが違うことに気が付く。
明治天皇へ提出した乃木将軍の、報告書の一部、軍部にとってあまり都合の良くないところが伏せ字にされて公開されたとあった。
最近何処かで似たようなことがあったと思うのだが、百年前の日本にも同じようなことが起きていたようだ。
これはもしかしたら、ある意味日本人の、あるいは組織人の習い性なのかも知れない。
これが積み重なって、前大戦の敗北に繋がったのだとしたら、あまり悠長にしていられないのかも知れない。
具体的な改善の方法は思いつけないけれど。

ついでにもう一つ。
これは蛇足気味だ。

乃木希典は偉大な軍人だった。
戦場における火力の必要性をきちんと理解していて、弾薬の集積や備蓄が終了するまでは要塞への攻撃を控えるという理性が働いた。(横槍で攻撃する羽目に陥ったが)
その幕僚達も、おおむね同じ意見だった。
陸軍内に派閥争いがあり、乃木将軍が派閥から疎まれていたことも理解できる。
それでも尚、何故戦訓が正しく伝わらなかったのだろうか?
俺には、それがどうしても理解できない。

これは完全に蛇足なのだが。
俺が書くと変な誤解が広まりそうなので詳しくはこの本を読んでもらう必要があるのだが、日露戦争後の乃木将軍に明治天皇が要求(要請か?)したことは、立憲君主制の君主として正しかったのだろうか?
それが疑問だ。
もう一度書くが、詳しく知りたければこの本を読んでくれ。

さて結論だ。

この本は、安全保証や軍事に興味があるならば絶対に読むべき本だと思う。
殆ど語られていなかった、日露戦争の陸戦について詳しく書かれている本だからだ。(海戦については色々と読んでいる)
そして、以前読んだ明治維新という過ちは、司馬遼太郎の否定本という感覚が抜けなかったが、これは根拠を上げて批判している本だ。
否定することは簡単だが、根拠を上げて批判することは極めて困難だと俺は思う。
だからこそ、この本は一読の価値があると考える。
ただし、乃木希典を擁護する姿勢が少し強い気がするので、そこには注意が必要かもしれない。


ランキングに参加しています。お暇なようでしたら、下の電子住所をひっぱたいてください。
http://blog.with2.net/link.php?1740066