母方の祖母が倒れた為、母は田舎へ看病に出かけてしまい、家に残されたのは義父と私。
小学生の頃から一緒に暮らしてはいるものの、私は彼を「お父さん」と認める事も呼ぶ事も出来ません。
母が田舎に帰った日、私が仕事から帰ってみると、義父は私に料理を作ってもらえるとは全く思っていなかったらしく、不揃いに切ったかまぼこと、黄身と白身のしっかり混ざっていないパサパサした卵焼きをつまみにビールを飲んでいました。
実際作る気のなかった私は申し訳ないような気分になってしまい、帰って来たそのままの格好でまた買い物に出かけて材料を調達し、簡単な夕食を作りました。
おみそ汁とご飯と炒め物だけの。
母の料理の腕前が天下一品である為、普段は私の出番はなく、よって私の料理の腕前も全く大したコトはありません。それでも義父は「美味いよ」と嬉しそうに食べながら、会話が続かないせいかナイター中継をずっと見ていました。
母が帰って来る迄の一週間程、いろいろ作りましたが、どう考えても普段食べている母の料理には及ばなかったハズです。それでも義父は何を食べても「美味いよ」しか言いませんでした。
今はもう結婚して、私は実家から遠く離れた場所に住んでいます。
たまに電話しても、あの時と変わりないぎこちなさで「元気か?」と「たまには帰っといでよ」しか言わない義父。血の繋がらない娘を10年以上も養ってくれた義父。
ごめんね、ほんとは「お父さん」って呼んであげたいんだけど。
呼ぼうって思っても、いざ顔を見るとどうしても呼べない。
実の親父よりも、遙かに私を大事にしてくれたのにね。ごめんね。