生きていくあなたへ 最期のメッセージ | 猿の残日録

猿の残日録

いろんなことがあるが、人生短いから前だけを見たほうがいいですよ。江原啓之 今宵の格言

日野原重明 1911.10.4生 2017.7.18逝去
2017.9.30発行

輪嶋東太郎 聞き書き

生きていくあなたへ 105歳どうしても遺したかった言葉



105歳という年齢を迎えてもなお、
僕にはまだ自分でも知らない自分がたくさんあり、
その未知なる自分と出会えるということに、心からわくわくしているのです




どうか、僕に残されたこのかけがえのない時間を無駄にせず、
与えられた使命をまっとうできますようにと、毎日祈りながら暮らしています



今までたくさんの人の死を見てきた先生にとって、死とはどのようなものですか?

「新しい始まり」という風に感じます

終わりではなく、新しい何かが始まるという感覚です

僕は妻をはじめ、たくさんの親しい人を亡くしましたが、亡くなった後のほうが
むしろ生きていたときよりも、その人の姿が僕の中で鮮やかになっていくのを感じます



車椅子に乗るようになってからは、特に自分の思い通りにならない不自由なことが増えました
それでもやはり長生きしてよかった
長く生きるというのは素晴らしい、そう思っています
というのも、100歳を超えたあたりから、
自分がいかに本当の自分を知らないでいたかということを感じるからです

世の中でいちばんわかっていないのは自分自身のことだ、ということに気づくことができました
これは、年をとってみないとわからない発見でした


長生きするということは、わからない自分と出会う時間がもらえるということです
完全にわかりきれるとは思わないけれど、自分の姿をどんどん知っていく喜びは
年をとったことでより実感するようになりました

あなたと今こうして話している瞬間にも「ああ、ぼくにはこういうところがあるんだな」
と気づかされることの連続なのですから



「命というのは君たちが使える時間の中にあるんだよ」と子ども達に伝えてきました

君達が大きくなったら、その時間をほかの人のため、社会のために使わないといけない
そう気づく時が必ず来るよ
だから大きくなって大人になったら、君達の時間をできるだけまわりの人のために使ってくださいね



僕の大好きな作品、サン=テグジュペリの「星の王子さま」の中に
「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」
という言葉が出てきます
 とても意味深い言葉です
 見えなくても信じられる、そういう幸せを僕は妻に教えてもらっているのです



本当の友達とはいったいどんな存在なのでしょうか

僕にとっては、僕のために祈ってくれる人です

誰かのために祈る行為とは、相手を自分のことのように思うということです



では、そのたった一人の友を見つけるためにはどうしたらいいのか……
大切なのはインスピレーションです
もし誰かと出会って、この人だと感じたら、その感覚を信じてみてください
そしてもっと重要なのは、インスピレーションを感じた相手と時間を過ごし、ともに歩き
いつか一緒の「舞台」に立つということです

舞台とは、その友が命をかけて臨んでいる恐ろしい場です
真の友になるためには一緒に苦難を乗り越えていく必要があるからです
夫婦も同じです
本物の苦難を乗り越えた夫婦というのは、やがて真の友になっていけるのだと思います



もし僕が若々しいといわれるのだとすれば、いちばんの原因は
常に新しい自分との出会いを大切に過ごしているからではないかと思います

過去の自分にこだわり、自分のやり方はこうだとか、自分はこういう性質だ、
ということを決めつけず過ごしています
だから毎日が自己発見の連続なのです

その中には、日常の小さなことから、人生観を変えるような重大なものまで様々あるのですが
特に大きく自己を見つけられたのは、
苦難にあったときや病気を患ったときに多かったように思います


人間というものは、苦難にあわなければなかなか目が覚めない

人間というのは不思議なもので、苦しいとき、逆境のときにこそ
自分の根源と出会うことができるのです

病や苦難によって、新しい自分を見つけたら、その恵みを受け取ると同時に
過去の自分の皮を脱ぎ捨てましょう
常に「キープオンゴーイング(前に進み続けよう」

若々しさの秘訣にもつながる、僕の大好きな言葉です



新たに何かを始めることの中には、心が躍動するきっかけがたくさんつまっています
そう考えると、僕がどんどん新しい挑戦をするのは、感動を追いかけているからかもしれません

新しいことを始めるよさというのは、何歳になってもこれまで知らなかった自分の姿を知れるということ
それが感動することにつながるのです



たとえば日常の中でいつもとちょっと違う道を散歩してみるとか、久しぶりに美術館に行ってみるとか
そういった小さいことでももちろんいいのです
その中にたくさんの発見があるはずだからです


最近僕は、「運動不足」より「感動不足」のほうが深刻なのではないかと感じています
だからあなたとも一緒に心を躍動させて、感動の気持ちを分かち合いたいなと思うのです



得たものではなく、与えられたものをどう使うか

その使い方によって、本当の偉さ、つまり人生の豊かさが決められるのだと思います



そもそも仕事とはいったい何なのでしょうか
ライフワークという言葉がありますが、僕にとって働くというのは生きることと同義です
会社でどんな待遇なのか、どれだけ稼いでいるか、そういうことではなく
自分が生きていることをどれだけ社会に還元できるのか、
もっと言えば自分に与えられた命という時間をどれだけ人のために使えるかということが
働くということなのです

それは、使命と言い換えてもいいかもしれません


特定の誰かのためでもいいし、社会のため、未来のためでもいい
利他の精神がある限り、人間にとって仕事に終わりは無いのでしょう
そう考えるから、今こうして車椅子の生活になっていても、僕にはできる仕事がある
そう信じられるのです

自分の使命と向き合い続けることで、自然と生きることと働くことが一体化していく
そんな状態こそ理想の現役像といえるのではないでしょうか



先生の次の目標は何ですか?

今日も生きさせていただいている
そう実感する日々の中で、新たな目標を問われ、真っ先に考えるのは、
頂いた命という残り少ない時間をめいっぱい使って、人のために捧げるということです

そしてその過程で、未知なる自分と向き合い、自己発見をすること
それを最期のその時まで絶え間なく続けていくということです

そのためには、これからも何度も何度も苦難にあうでしょう
でもその苦しみが大きければ大きいほど、きっと自分には大きな自己発見がある
それを越えてなお、自分の時間を人々に捧げる
その喜びは苦難と比例して大きなものであると信じ、
ただただ、ありのままに、あるがままに、キープオンゴーイングです



何かの目的を心に抱き
はじめて希望が生じる
やりたいことがない者には希望はない


偶然を待ち受ける心
失敗を徹底して検証する姿勢


変化を恐れない
未知とは、変化する可能性のこと
変化していく自分を待望してほしい




困難にもかかわらず
やっぱり感謝しなくちゃならない



これまで本当に、つらかった……

でもそのつらさの中に
やっぱり、本当のものが与えられた
それを、みなさんと一緒に
私は静かに考えたい……



いま、みなさんと一緒にここにいる……
つらさ以上の喜びはそこにある



私のいちばん好きな言葉は
「エンカウンター」
私の人生でのみなさんとの出会い……