見慣れない小さな建物の中に数人の参列者の男女と自分がいた。
なぜここにいるのかまるで覚えていない。
一部屋しかない簡素な建物は、言われてみれば確かに小さな神社のようだった。
ふと正面の庭に目をやると、信じられない光景が広がっていた。
雅やかな装束をまとった日本の神々が、ゆっくりとこちらへ近づいてくるではないか。
天之御中主、天照大御神、須佐之男命、大国主命、見覚えのある神々が勢揃いしている。
彼らは庭の中央に立つと、厳かな面持ちで祝詞を唱え始めた。

そう思った僕はそっと後ろの障子に手をかけ、静かに閉め切った。
外から見えないように念のためにもう一枚重ねる。
御神事だ。
邪魔は禁物だ。
正面に目を戻すと、参列者たちが正座をして祝詞に聞き入っている。
僕は彼らの列の一番右端にそっと加わった。
その瞬間だった。
正面にいた神々のうちの一柱がこちらを見た。
目が合った、と思った次の瞬間、その神は一瞬、ほんの少しだけ驚いたように見開いた目をした。
しかしすぐにその表情は崩れ、ニヤリとどこか愉快そうな笑みに変わった。
他の神々は祝詞に集中しているようで、その変化に気づいていない。
僕は神の意図が読めず、戸惑いを覚えた。
やがて祝詞が終わり、神々は静かに、来た時と同じように庭から去っていった。建物の中には祝詞の余韻のような静けさが残った。
「さあ、お昼にしましょうか」
誰かがそう言って、立ち上がった。
どうやらこれからみんなで食堂へ食事に行くらしい。
僕も立ち上がり、皆に続いて出口へ向かおうとした時、ふと頭に何か違和感を覚えた。
なんだろう、この妙な重さは。
無意識に頭に手をやると、そこには信じられない感触があった。
硬くて、丸みを帯びていて、そして……妙な突起がある。
まさか、と思いながらそれを少しずらして見て、僕は愕然とした。
それは紛れもなくち◯ち◯の形をした被り物だった。
鮮やかなピンク色で、つぶらな瞳のような飾りが二つ、先端には小さな鈴までついている。
なぜこんなものを自分が被っているのか、全く見当もつかない。
しかしその瞬間、さっき神様が見せた一瞬の驚きと、その後のニヤニヤ顔の意味が、雷に打たれたように理解できた。
御神事の最中、なんと不謹慎な姿を晒してしまったのか。
冷や汗が背中を伝う。

しかし、もし誰かに見られたら……。
いや、もうすでに神様に見られているのだ。
今更隠したところで意味がないかもしれない。
ぐるぐると頭の中で葛藤が渦巻く。
食堂の入り口が、すぐそこに見えていた。
僕はち◯ち◯の被り物を頭に乗せたまま、重い足取りで一歩を踏み出した。