春の公園 | 非日常的日常ブログ

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日々過ごしていく中であった出来事や、なかった出来事、夢で見た出来事を淡々と綴ったり、綴らなかったりしていきます。

春の陽光が降り注ぎ、いつものんびりとした空気が流れる公園。
しかし今日、その平和は奇妙な形で打ち破られていた。広々とした芝生の上を二頭の堂々たるライオンが悠然と歩いている。
その間をけたたましい音を立てながら、一台の事務机が走り抜けていく。

机の上にはカーリー・ガブリエル(仮名)と、もう一人の女性が必死にしがみついていた。

振り落とされたら最後、あの黄金色の瞳を持つ獣たちの餌食になるだろう。
恐怖で喉は張り付き、額には汗が滲む。

もう一人の女性はカーリーの肩を強く握りしめ、震える手を必死に抑えていた。



されどライオンたちはそんな滑稽な光景にもさしたる興味はないようだ。

まるでそこに何もないかのように、静かに、そして堂々と、公園の主として君臨している。

彼らにとって机の上で震える人間など取るに足りない存在なのだろう。

その圧倒的な存在感だけが、カーリーの絶望を深くしていた。


どれだけ逃げてもライオンたちは、一定の距離を保って追いかけてくる。

彼らの目はまるで、カーリーの狼狽ぶりを楽しんでいるかのように遊び心に満ちている。


春の陽光が降り注ぐ公園は異様に静かだった。
桜の花びらが舞い散る中、ブランコや滑り台は古びて色あせている。
公園全体に時間が止まってしまったかのような、不自然な静けさが漂っている。
そしてライオンたちの動きにも、どこかぎこちない、作り物のような感じがする。
彼らの咆哮は聞こえず、ただ地面を擦るような低い音が聞こえるだけだ。

一緒に机にしがみついていたもう一人の女性が震える声で呟いた。
「これって…夢、なんじゃないかな?」

その言葉を聞いた瞬間、カーリーはハッ!とした。

そうだ、あまりにも現実離れしている。
ライオンが放し飼いにされている公園なんてありえない。
キャスター付きの事務机で逃げるなんて、まるで漫画の世界だ。
そう思った瞬間、周囲の景色が歪み始めた。
色あせた遊具はさらに色褪せ、春の柔らかな日差しがまぶしく感じられる。
けたたましい事務机の音も、ライオンの気配も、全てがぼやけていく。



まぶたを開けると見慣れた天井がそこにあった。
窓の外からは明るい光と、心地よい鳥のさえずりが聞こえてくる。
昨夜、けたたましい音を立てる事務机の上で、ライオンから必死に逃げていたあの恐怖はまるで幻だったかのようだ。
しかし、胸の奥には奇妙なざわめきが残っている。
あの古びた遊具が並ぶ公園の異様な静けさ、獲物を定めるライオンたちの冷たい眼差し、そして、必死にしがみついた事務机のひんやりとした感触が、まだ手のひらに残っているような気がする。
あれは本当にただの夢だったのだろうか?

ゆっくりと体を起こし、窓の外を見る。
見慣れた朝の風景が広がっていた。
隣の家の赤い屋根、電線にとまる数羽の雀、そして、かすかに聞こえる子供たちの声。
ああ、やはり夢だったのだ。

カーリーは安堵の息をついた。


急いでベッドから出て、朝の支度を始めた。
朝食の準備をし、顔を洗い、着替える。
日常のルーティンが夢の残滓を少しずつ洗い流していくようだった。
「さあ、今日も一日頑張ろう」

そう心の中で呟き、カーリーは玄関のドアを開けた。


「!」


目の前に広がった光景に、カーリー・ガブリエルの足は完全に凍り付いた。

昨夜の夢で追いかけてきた二頭のライオンが、そこに悠然と座っていたのだ。
朝日を浴びて輝く毛並み、大きな前足。夢と寸分変わらぬ姿。

静かに立ち上がり、ゆっくりとカーリーに向かって歩いてこようとしたその時、信じられないことが起こった。

地面が激しく揺れ始め、まるで巨大な生き物が地中を蠢いているかのようだ。
二頭のライオンはその異変に気づき、周囲を警戒し始めた。

揺れがますます激しくなると、目の前の地面が裂け始め、姿を現したのは巨大なミミズだった。
太さはおとなの胴体ほどもあり、ぬめぬめとした体表が月明かりに不気味に光っている。

巨大ミミズはカーリーとライオンを一瞥し、耳をつんざくような音を発した。

二頭のライオンは巨大ミミズに気を取られ、カーリーのことなど眼中にない。

その隙に逃走を試みるが、地面はミミズの出現によって傾いていた。

すると、さらに信じられないことが起こった。
巨大ミミズが空中に持ち上がり、そこには巨大な鳥が空を舞っていた。
鳥はミミズを掴み、あっという間に飲み込んでしまう。

そして満足げにカーリーの方を向いてきた。


再び絶望的な状況に陥ったカーリーの前に、さらに巨大な影が現れた。

それは空を覆い尽くすほどの大きさを持つ巨大な空飛ぶクジラだった。
クジラは優雅に泳ぎながら巨大鳥に向かって潮吹きを放ち、鳥を吹き飛ばした。

そしてクジラはゆっくり、カーリーの方へと近づいてくる。

その銀色に輝く姿はまるで空を泳ぐ宝石のようだった。

彼女がその壮大な光景に見惚れていると、クジラは優しい声で語りかけた。

「もう、お帰りなさい。」その声が聞こえた瞬間、カーリーの意識は途絶えた。




気がつくと、カーリーは再び疾走する事務机の上にいた。

必死にしがみつくもう一人の女性とともに。

すぐ脇にはあの二頭のライオンも当たり前のようにいる。


いったいどうなっているのか?
今いるこの世界は現実なのか?それとも、ただの悪夢なのか?

いつ終わるとも知れぬ逃走劇の中、カーリーは無性に空腹を感じていた。