冥王星水瓶座紀元0 | 非日常的日常ブログ

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日々過ごしていく中であった出来事や、なかった出来事、夢で見た出来事を淡々と綴ったり、綴らなかったりしていきます。

昼間だというのに世界は帳が下りたように暗かった。厚く垂れ込めた暗雲はまるで巨大な生き物の皮膚のように脈打ち、光を一切遮断している。自分がどこにいるのか見当もつかない。足元は冷たく硬く、微かに金属のような匂いが鼻をついた。

その異様な静寂を切り裂くように、腹の底から湧き上がるような重低音が響き始めた。それは世界の心臓が悲鳴を上げているような、魂の不安を掻き立てる音だった。音の根源を探ると薄暗い空間の奥に巨大なシルエットが浮かび上がった。

近づくにつれてその影は明確な形を帯びてきた。巨大な黒檀のような光沢を放つデスク。その向こうに堂々とした椅子が鎮座し、そこに威圧的な男が腰掛けていた。顔は影で見えないが、その巨大な体躯、厳格な雰囲気、そして頭上に戴く奇妙な装飾はまるで冥界の王、閻魔大王そのものだった。そして空間全体を震わせるような、重々しい声が響き渡った。



「十」

心臓が凍り付くような恐怖が全身を駆け巡る。一体何が始まるのか? なぜ、こんな場所にいるのか?

「九」

男の声は地を這うような重低音で、ゆっくりと、しかし確実に数を刻んでいく。暗雲はさらに色を濃くし、周囲の景色を飲み込んでいく。

「八」


男は微動だにしない。まるでこの光景を何千回、何万回も見てきたかのように冷静だ。


「七」

世界の終わりを告げるカウントダウン。そんな言葉が脳裏をよぎった瞬間、全身の血液が凍り付いた。何が終わるのか? なぜ、こんな場所で、こんな光景を目の当たりにしているのか?


「六」

深淵から響くような声は容赦なく時を刻む。まるで死刑執行の瞬間を待つ囚人のようだ。

「五」

周囲の闇は深みを増し、時間の流れすらもその音に捕らわれているかのようだった。


「四」

心臓が激しく鼓動し、喉がカラカラに渇く。逃げなければ。そう思うのに、足は地面に縫い付けられたように動かない。

カウントダウンは続く。残された時間はあとわずか。この世界の終末を一体どう迎えればいいのだろうか。恐怖と絶望が俺を完全に支配していた。



「三」

男の声は先ほどよりも僅かに大きく、重みを増したように感じられた。暗雲はさらに深く沈み込み、周囲の輪郭を曖昧にしていく。まるで世界そのものがカウントダウンに合わせてゆっくりと崩壊していくようだ。

「二」

遠くで何かが軋むような悲鳴のような音が聞こえた。それはこの世界のどこかで何かが決定的に終わりを迎えている証拠のように思えた。

「一」

男の姿が一瞬だけ強い光に照らされた気がした。その顔は冷酷で一切の感情を読み取ることができなかった。

カウントダウンはあと一つ。世界の終わりがすぐそこまで迫っている。一体何が起こるのか?そして俺はどうなるのか?恐怖と混乱が渦巻き、思考は完全に停止していた。ただ男を見つめ、その次の言葉を待つことしかできなかった。



「零」

その瞬間、全てが静寂に包まれた。暗闇はさらに深く濃くなり、重低音は完全に消え去った。ただそこに何があったのか、何が起こったのか、何もかもが曖昧で理解することはできなかった。まるで長い悪夢から覚めた後のようにただ茫然と立ち尽くすしかなかった。

重々しい沈黙が空間を支配した。カウントダウンが終わったのに何も起こらない。世界の終わりはこんなにも静かなのだろうか?

男は依然として微動だにせず、ただ前を見据えている。その漆黒の瞳の奥にかすかな光が宿っているように見えた。それは怒りか、悲しみか、あるいは単なる静寂なのか、窺い知ることはできなかった。

張り詰めた空気の中、男はゆっくりと、まるで悠久の時をかけて言葉を紡ぐかのように低い声で語り始めた。

「終わりは常に、始まりの隣にある」

その声は地鳴りのような重低音とは異なり、深く、静かで、しかし、魂の奥底に響くような力を持っていた。

「汝は幾度となく終わりを見てきた。そしてその度に新たな始まりを迎えてきたのだ」

男の言葉の意味がすぐには理解できなかった。終わりと始まり?それは一体何を指しているのだろうか?

男はゆっくりと手を挙げた。その巨大な手がまるで天を指し示すかのように、ゆっくりと動く。

「見よ」

その指の先には先ほどまで暗雲に覆われて何も見えなかった空が、ほんの一部分だけ裂けて光が差し込んでいた。それは希望の光というよりも、世界の真実を垣間見せるような圧倒的な光だった。

光の中に無数の光の粒子が見えた。それはまるで星屑のようであり、同時に何かの断片のようにも見えた。

「汝の世界は終わるのではない。形を変えるのだ」

男の声はまるで古い書物を読み上げるように荘厳だった。

「破壊は創造の母。終わりは新たな始まりの胎動」

その言葉と同時に、地鳴りのような重低音が再び響き始めた。しかし、先ほどのような終末を告げる音ではなく、もっと根源的な大地の鼓動のような音だった。

空の裂け目は徐々に大きくなっていく。暗雲はゆっくりと消散し始め、その奥から信じられないような光景が姿を現し始めた。

それは見たこともない色彩に輝く空だった。紫、緑、金色、そして今まで見たことのないような透明な青。無数の星々がまるで宝石のように瞬いている。そしてその中心には巨大な、脈打つような光の塊があった。

「汝がいた世界は一つの終わりを迎える。だがそれはより大きな宇宙の一部へと還るための通過点に過ぎない」

男は静かに語り続ける。

「恐れることはない。終わりは常に新たな始まりを孕んでいる。汝もまたその流れの一部なのだから」

カウントダウンの意味がようやく理解できた。それは世界の終末ではなく、変革の時を告げる合図だったのだ。

地鳴りのような音は次第に高まり、やがて世界全体を包み込むような祝祭の音楽のように響き始めた。暗雲は完全に消え去り、目の前には信じられないほど美しい宇宙が広がっていた。

冥界の王の如き男はゆっくりと立ち上がった。その姿は先ほどまでの威圧感とは異なり、どこか慈悲深く、そして悠然としていた。


「さあ、行け。新たな始まりの場所へ」

男の声が優しく背中を押すように響いた瞬間、俺の意識は光の中に溶けていった。次に目を開けた時、一体どんな世界が広がっているのだろうか。それまでの恐怖は嘘のように消え去り、新たに幕を開けた未知なる時代への期待が俺の心を満たしていた。