Deguejo (1966)
"Degueyo" Deguello" De Guello" などの表記揺れはありますが、1966年イタリア製作の西部劇です。いわゆるマカロニウエスタン。
日本では「荒野のみな殺し」のタイトルで1967年に公開されました。
なかなか物騒なタイトルですね。
そもそも "Degueyo" はスペイン語の "deguello" (斬首)が元になっています。
ヨーロッパでは軍隊や狩猟の合図にラッパで合図する習慣があり、おそらく古くは角笛で行われていたのでしょう、Bugle Call (Bugle はラテン語のBuclus=小鹿に由来する、小型の管楽器)と呼ばれております。
このBugle Call の一つが、かのアラモ包囲戦(1836、メキシコ共和国 vs テキサス分離独立派)でメキシコ共和国軍が奏でた「騎馬突撃開始」を意味する "El Deguello" です。
1947年に出版されたマーサ・ケラーの "Brady's Bend & Other Ballads" で "Deguelloは絶望の叫び" と著され、またこれを元にしたフォークソング "No quarter, no quarter" によって「虐殺の歌」としての deguello が人々に知れ渡ったそうです。
そして映画にも "deguello" が登場します。
巨匠ハワード・ホークス、名優ジョン・ウェインという最強コンビによる「リオ・ブラボー」(1959) でディミトリオ・ティオムキンが作曲した deguello は日本でも「皆殺しの歌」としてシングルリリースされる人気曲となりました。
そして1964年。セルジオ・レオーネ氏が世に出した「荒野の用心棒」で世界的マカロニウエスタンブームが到来するわけですが、クライマックスのシーンでレオーネ氏が、このティオムキン作曲の "Deguello" を使用したいと言ったところ、サントラ担当のエンニオ・モリコーネ師が「他人の曲を使うくらいならこの映画に関わるの辞める」と言いだしたのは有名な逸話。
そして「代わりにそれっぽい曲を頼むよ」てなわけでできあがったのが「荒野の用心棒」
その後に製作された数多くのマカロニウエスタンは、これを基調にしているせいか、劇中で "deguello" 的な楽曲が登場することが多いのです。
音楽的にはスペイン音楽の影響がとても強い楽曲ですが、ロケ地がスペインでありスタッフも多くのスペイン人が関与し、また西部劇と言ってもメキシコ国境付近が舞台の物語が多いためか、どの作品においても "deguello" の響きは映像に妙にマッチしています。
というか "deguello" はマカロニウエスタンを象徴する楽曲あるいは西部劇の「決闘シーン」の象徴にまでなった感があります。
ところが、「突撃ラッパ」たる "deguello" が、こんな哀愁のメロディなはずはありません。
実際は以下のようなスタイルだったと言われています。
2004年に製作された "The Alamo" では、勇壮なマーチで再現しています。
そんな "deguello" をタイトルに据えた本作。
"El Deguello" が「皆殺しの歌」ですから
邦題「荒野のみな殺し」となったのはごく自然なこと。
そして本作の終盤には「みな殺し」のタイトルに違わぬ凄惨な戦いが用意されております。
監督はジュゼッペ・ヴァリ氏
(ジョセフ・ウォーレンとしてクレジットされてます)
Giuseppe Vari (as Joseph Warren) 1924-1993
ローマ生まれの彼は編集者および脚本家として映画界でのキャリアをスタートさせ、1953年に監督デビュー。以来30本近い作品でメガホンをとりました。
マカロニウエスタンでもその手腕が十分に発揮され、"L'ultimo killer" (1967) や "Prega il Morto e Ammazza il Vivo" (1971) など、いずれも印象的な7本が残されています。
また脚本には、かのセルジオ・ガローネ氏が名を連ねております。
Sergio Garrone (1925-2023)
「十字架の長い列」や「ジャンゴ・ザ・バスタード」の監督として有名ですね。
主演はジャコモ・ロッシ・スチュアート氏
(ジャック・スチュアートの名でクレジット)
Giacomo Rossi Stuart (as Jack Stuart) 1925-1994
運動神経抜群で数々のスポーツに親しんだ彼は20台半ばで渡米、かのアクターズスタジオで演技を学んだそうです!
イタリアに帰国後30歳で映画初主演、以来アクション系を中心に数多くの映画に出演されました。
マカロニウエスタンに於ても「赤い砂の決闘」や「グランドキャニオンの大虐殺」といった初期から出演しており、本作以外では "Uccidi Django... uccidi per primo!!!" で主演。また「五人の軍隊」や「荒野のドラゴン」「新さすらいの用心棒 ベン&チャーリー」にも名を連ねております(ノンクレジットながら、かの「ゴッドファザー」にも出演)。
氏が演ずるのはノーマン・サンデルという男。
郊外でのどかに暮らす彼の元に突如、助けを求める老いた男が…しかしすぐさまやって来た追っ手にその男は銃撃され死亡、同時に父親も撃たれて亡くなってしまいます。
死に際に男が残した「クック大佐」を頼りに、父の仇を討つ旅が始まります。
同行する仲間が二人。
一人目はフランク・ドネル。ノーマンの友人。
演ずるはダニエレ・ヴァルガス氏
Daniele Vargas (1922-1981)
ボローニャ出身の彼は高校(なんと、かのピエール・パオロ・パゾリーニ氏と同級生とか)卒業後、名門ボローニャ大学の医学部に進学、卒後一時期医師として働いていたそうですが演技への夢を諦められず、ローマに移住しペプラム映画への出演することからキャリアをスタート。その後1988年まで数え切れないほどの映画で活躍されました。マカロニウエスタンでも主に悪役として印象深い役者さんです。
もう一人はローガン。クック大佐を知る男。
演じたのはホセ・トーレス氏
José Torres (1925-)
御歳99歳、ベネズエラ初の俳優で1941年から2016年まで、ヨーロッパや南米各国で無数の映画に出演したレジェンドです。単身渡欧し数々のチャレンジの末にマカロニウエスタンで頭角を現し、母国に凱旋したという、現代日本で言ったら真田広之さんのような素晴らしい役者さんだと思い僕はリスペクトしております。
イケメンの主人公と二人の悪役俳優という三人組の旅路。この時点でワクワクが止まりませんが、さらにクセ者が加わります。
盗賊に襲われ一人悲嘆に暮れていたウィスキーの行商人フォーラン。
演じたのはリカルド・ガローネ氏
Riccardo Garrone (1926-2016)
本作で脚本を共同執筆したセルジオ・ガローネ氏の弟。国立芸術アカデミー出身、数多くの映画で多岐にわたる配役をこなし活躍した他、演劇の分野や声優としての評価も高いようです。
クック大佐を探して一行が行き着いたのはデンジャー・シティ。しかし町は荒廃しさながらゴースト・タウン。
デンジャー・シティなんて、まず名前からして物騒ですものね…
出迎えたのはサルーンのオーナーである謎の美女ジェニー。
ダナ・ギア女史が演じております。
Dana Ghia (1932-2024)
20代で歌手デビュー、1960年代に入って女優業にも精を出し数多くの映画に出演。マカロニウエスタンでは「デスペラード」や "L'ira di Dio" 「風来坊 花と夕日とライフルと」などでお馴染みです。80年代に入ってからはTVでも活躍されました。
ジェニー曰く、デンジャーシティは残虐な盗賊ラモンの一味によって略奪の限りを尽くされたのだ、と。男たちは殺されるか誘拐され、女子供しか残っていない、と。
そんな中、ラモンの愛人になったはずの女ロージーが逃げ戻ってきます。
演じたのはロージー・ジッケル女史
Rozy Zickel (?-)
1963年から1968年までに6本の映画に出演したことが知られています。マカロニウエスタンでは本作の他 "un buco in fronte" (1968) のアデリータ役。ちなみにこの作品もジュゼッペ・ヴァリ監督作品です。
ロージーを探してデンジャーシティに辿り着いたラモン。
凶悪な盗賊のボスを怪演したのはダン・ヴァディス氏
Dan Vadis (1938-1987)
ギリシャ系アメリカ人で中国生まれのボディビルダー、もと米海軍兵士というなかなか情報量の多いプロフィールを持つ彼は、ペプラム映画の黄金時代にイタリアで俳優として大成、その後はマカロニウエスタンの悪役に活路を見いだし(「さいはての用心棒」や「ガンマン渡世」"Dio perdoni la mia pistola" )、さらにハリウッドに凱旋しイーストウッド作品(「荒野のストレンジャー」「ガントレット」「ブロンコビリー」)で活躍しました。
ラモンがデンジャーシティを襲撃する間にアジトに潜入したノーマンはクック大佐を救出。
ジュゼッペ・アドバッティ氏が、この初老の南軍大佐を演じております。
Giuseppe Addobbati (1909-1986)
戦前のイタリアの演劇界および映画の分野で大活躍、戦後もマカロニウエスタンやホラー、アクション映画などジャンル問わず相当な数の映画に出演されております。
しかいクック大佐救出の際に両手に致命傷を負ったノーマンは、なんとほぼ戦力外になってしまいます(主人公だっていうのに…)
クック大佐は南軍の軍資金の隠し場所を知る男であり、ゆえにラモンに狙われ拷問されていたという。
町を救うためにやむなく大金をラモンに渡す決意をしたものの、肝心の大金はすでに何者かによって奪われていた…
後がないデンジャーシティ。
女たちも銃を手に、バリケードを作ってラモン軍団の襲撃に備えます。
町は囲まれ逃げ場は失われてしまいました。
まさにアラモの包囲戦を彷彿とさせる絶望的な状況。
最後の酒を酌み交わすフランクとローガン。
やって来たラモン軍団。
人質(町の男たち)を返還すると見せかけて、駆け寄った女たちもろとも射殺。
そして "Degueyo!" のかけ声と共にラモン軍団の突撃開始。
ここからは凄惨な地獄絵巻。
敵も味方も一人死に、また一人死に…
ちなみにデンジャーシティの不遇な女達の中には、他のマカロニウエスタンでも活躍するミラ・スタニック女史やエリカ・ブランク女史もいます。
まさに deguello
ラモン一味の屍が積み上がるだけでなく、フランクもローガンもクック大佐も、町の女達も次々に凶弾に倒れる中
実は軍資金の在処を知り隠していたのは…
ジェニーだった。
そして、実は米軍エージェントだったフォーランが詰め寄るが…
めざといラモンに見つかり射殺。
命乞いするジェニーにも容赦の無いラモン。
さらには唯一残ったラモン軍団の腹心まで射殺し
大金独り占め。
なんとか一命を取り留めていたロージーも、とどめを刺されてしまう…
ロージーに心寄せていたノーマンが怪我も厭わぬまま、思わず飛び出したものの、百戦錬磨のラモンの前に風前の灯火
万事休すと思われたとき
ノーマンを救ったのはラモンに母親を殺害された幼い男の子でした。
そう、ロリス・ロッディ君ここでも大活躍。
Loris Loddi (1957-)
4歳で銀幕デビューの天才子役。映画、演劇、TVに吹き替えと全方向で未だに活躍し続けております。
「荒野の10万ドル」の、「帰ってきたガンマン」の、あの子です!
彼の機転でついにラモンを倒したノーマン。
身寄りを失った二人は、寄り添うように町を出て行くのでした…めでたしめでたし。
いやはや壮絶なクライマックス。
ドラマチックな物語をさらにドラマチックに盛り上げるのがもの悲しくも力強い響きのサントラ。
メインタイトルは、まさしく deguello、そして劇中曲はかのドヴォルザークの交響曲「新世界より」の第三楽章の印象的なジングルを引用して緊張感のある空気を生み出しております。
(おなじみ僕の師匠 Yass氏のチャンネルより)
音楽担当はアレッサンドロ・デレヴィツキー氏
Alessandro Derevitzky (1909-1974)
1930年代後半から映画音楽の分野で活躍、1960年代以降は実験音楽をメインに活動。
マカロニウエスタンを担当したのは本作のみのようです。
メインタイトルの素晴らしいトランペットは、そうマカロニ金管楽器請負人のミケーレ・ラチェレンザ氏が吹いております。
Michele Lacerenza (1922-1989)
音楽一家に生まれ育ち、エンニオ・モリコーネ師の右腕として数々の名演を残しつつ自らも作曲者として映画音楽に寄与したレジェンドです。かつてセルジオ・レオーネからニニ・ロッソ「じゃない方」扱いを受け、涙ながらに鳴らした「荒野の用心棒」のトランペットが、未だ我々の涙腺を刺激し続けているのです!
さて、こんな「荒野のみな殺し」
日本版DVDもリリースされております、気になる方は是非ご鑑賞くださいませ。
そしてわたくしも、この素晴らしい作品の音楽を
自分ありにカバーしてみました。
トランペットは吹けないのでギターで代用してあります。
ぜひお楽しみいただけたら幸いです。
いよいよ寒さも本格化してきました。
ご自愛のほどを。
アディオス、アミーゴ!
(^-^)


































































































