ときめき映画館#秋の映画劇場「秋刀魚の味」 | 春夏秋冬✦浪漫百景

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季節の移ろいの中で...
歌と画像で綴る心ときめく東京千夜一夜物語

秋刀魚の味

名匠・小津安二郎の遺作となった作品。老いと孤独をテーマに、

妻に先立たれた初老男性と結婚適齢期を迎えた娘の心情を、

ユーモラスかつ細やかに描き出す。

デリカシーがなくノーテンキな父・兄・弟。 

適齢期の娘が嫁ぐ迄の周囲のお節介を描いた軽妙洒脱な物語! 

戦後、アメリカの真似ばかりする日本!

1962年に松竹が製作・配給した日本映画。

昭和37年度芸術祭参加作品。

路子は、亡くなった母親の役割を果たしつつお勤めにも出て、一家を支えています。

彼女は可憐でおしとやかな「年頃の娘」ですが、精神的に成熟している感じです。
父親や弟の身の回りの世話を焼くだけでなく、

彼らの生活態度を注意する「しつけ」役までこなす姿には、

すでに母親の貫禄が漂います。

一方で彼女の兄夫婦は、子供を生み育てる事よりもレジャーや買い物に夢中で、

いつもお金に汲々としています。
そして弟は ぶっきら棒で態度だけは大きいのですが、

内面はまるで子供のように幼い感じです。

 

路子はお兄さん(佐田啓二)の家庭を通じて、

彼の同僚である三浦(吉田輝雄)という男性と、家族ぐるみのお付き合いをしています。
二人は何となくお互いに好意を持っているようには見えますが、

あくまでもアッサリとした友達同士でしかありません。

そんな路子に、あるとき縁談が持ち上がります。
父親の友人が、路子ちゃんにちょうど良い相手がいるという話を持ってきたのです。
その世話好きの友人は、父親が娘を手放すのを惜しむあまり、

路子が婚期を逃すのを心配している様子です。
そして彼女に「もう行かなくちゃいけないよ」と諭しますが、

路子は「私が行くと家が困りますから」と言って、その縁談を断るのでした。

路子の父親は若くして奥さんを亡くしてしまったせいで、

今ではすっかり彼女を頼りにするようになっています。
娘が適齢期を迎えている事にも気付かず、

友達にせっつかれてやっと重い腰を上げる始末です。

それでも このお父さんがやっと「その気」になったのは、

同窓会での出来事がキッカケでした。
同窓会の場には「ひょうたん」というアダ名の先生が登場します。
彼は今では没落し、それぞれ立派に成長した壮年期の生徒たちとは対照的に、

弱く卑屈な感じの老人といった痛々しい存在です。

お父さんが弟に話を聞いてみると、どうやら路子は兄の友人の三浦君が好きらしい、

という事が分かってきます。
お父さんはお兄さんに、三浦君の気持ちを聞いてくれるよう頼みます。

そしてお兄さんが三浦君に路子の話をしてみると、

彼はすでに相手が決まってしまった後でした。
ところがよくよく聞いてみると、

以前三浦君はお兄さんに「路子さんを貰いたい」という話をしたのだと言います。
でも そのときお兄さんは、

自分が「あいつはまだ当分結婚しないよ」と言ったという事を、

すっかり忘れてしまっているのでした。

それでも意を決して、路子に三浦の結婚が決まっている事を打ち明けますが、

彼女は微動だにしませんでした。
「いいの。私、あとで後悔したくなかっただけなの」
と気丈に振る舞い、あっさりとお見合いの話を承諾します。

彼女が落ち着いているのを見てホッとする二人でしたが、弟が現れて
「どうしたんだ?姉ちゃん泣いてるぞ」
と言いに来ると、お父さんは再び大慌てですww
ところがお父さんが心配して見に行くと、どんなに泣き崩れているかと想いきや、

意外にも路子はしっかりしていました。

年頃のお嬢さんが、失恋をして平気な訳がありません。
それでも彼女の威厳すら感じる後ろ姿からは、失恋の痛手よりも、

信念を貫き通した「自信」のようなものが勝っているように感じます。

その凛とした美しいうなじを見ていると、彼女ならお見合いの相手とでも、

立派な家庭を築いて幸せになれるような気がしました。

 

キャスト

平山周平
演 - 笠智衆
サラリーマン。妻を亡くし、長女と次男の3人で暮らす。
平山路子
演 - 岩下志麻
周平の長女。24歳。父と弟の身の回りの世話をする。
平山幸一
演 - 佐田啓二
周平の長男。路子の兄。妻と団地暮らし。
平山秋子
演 - 岡田茉莉子
幸一の妻。
三浦豊
演 - 吉田輝雄
幸一の同僚。
田口房子
演 - 牧紀子
周平の会社のOL。
平山和夫
演 - 三上真一郎
周平の次男。学生。幸一と路子の弟。
河合秀三
演 - 中村伸郎(文学座)
周平の旧友。路子の会社の上司。
佐久間清太郎
演 - 東野英治郎(俳優座)
周平のかつての恩師。今はラーメン屋を営む。
河合のぶ子
演 - 三宅邦子
河合の妻。
バーのマダム
演 - 岸田今日子(文学座)
周平の亡き妻の若い頃に似ている。
堀江タマ子
演 - 環三千世
堀江の後妻。
堀江晋
演 - 北竜二
周平の旧友。若い妻を娶っている。
「若松」の女将
演 - 高橋とよ
河合にからかわれてばかりいる。
佐々木洋子
演 - 浅茅しのぶ
周平の秘書。
   

 

 

《別シーン》

「軍艦マーチ」の流れるバーの場面で、

お父さんと艦長時代の部下がマダムと3人で
行進のマネをしてはしゃぐシーンは、

今から見るとシュールでちょっと怖いものがありますw
ここで、部下とのやりとりに笑える話が出てきました。

「でも艦長さん、これでもし日本が勝ってたら、どうなってたですかね。
あなたも私も今頃ニューヨークですよ、ニューヨーク!

目玉の青いやつが、丸髷かなんか結っちゃって、
チューインガム噛み噛み、三味線弾いてますよ。
ざまあみろってんだ・・・」

これは、たとえ日本が勝っていたとしても
そういう風にはならなかっただろうという前提があって、

初めて成り立つ「笑い」ではないかと思います。

最後に、この映画には秋刀魚を食すシーンはありません。