10月25日、生殖機能を無くす手術を性別変更の条件とする性同一性障害特例法の要件の憲法適合性が争われました。

 そこで、最高裁大法廷は、生殖不能手術要件が憲法13条に違反し、無効である旨の決定が出ました。以下では、決定の内容について、少し言及していきたいと思います。

 

【最高裁決定の内容】

 「特例法の制定趣旨は、性同一性障害に対する必要な治療を受けていたとしてもなお法的性別が生物学的な性別のままであることにより社会生活上の問題を抱えている者について、性別変更審判をすることにより治療の効果を高め、社会的な不利益を解消することにあると解されるところ、その制定当時、生殖腺除去手術を含む性別適合手術は段階的治療における最終段階の治療として位置付けられていたことからすれば、性別変更審判を求める者について生殖腺除去手術を受けたことを前提とする要件を課すことは、性同一性障害についての必要な治療を受けた者を対象とする点で医学的にも合理的関連性を有するものであったということができる。

         ↓しかしながら

 特例法の制定後、性同一性障害に対する医学的知見が進展し、性同一性障害を有する者の示す症状及びこれに対する治療の在り方の多様性に関する認識が一般化して段階的治療という考え方が採られなくなり、性同一性障害に対する治療として、どのような身体的治療を必要とするかは患者によって異なるものとされたことにより、必要な治療を受けたか否かは性別適合手術を受けたか否かによって決まるものではなくなり、上記要件を課すことは、医学的にみて合理的関連性を欠くに至っているといわざるを得ない。

         ↓そして

 本件規定による身体への侵襲を受けない自由に対する制約は、上記のような医学的知見の進展に伴い、治療としては生殖腺除去手術を要しない性同一性障害者に対し、身体への侵襲を受けない自由を放棄して強度な身体的侵襲である生殖腺除去手術を受けることを甘受するか、又は性自認に従った法令上の性別の取扱いを受けるという重要な法的利益を放棄して性別変更審判を受けることを断念するかという過酷な二者択一を迫るものになったということができる。

         ↓また

 前記の本件規定の目的を達成するために、このような医学的にみて合理的関連性を欠く制約を課すことは、生殖能力の喪失を法令上の性別の取扱いを変更するための要件としない国が増加していることをも考慮すると、制約として過剰になっているというべきである。

         ↓そうすると

 本件規定は、上記のような二者択一を迫るという態様により過剰な制約を課すものであるから、本件規定による制約の程度は重大なものというべきである。 

         ↓以上を踏まえると

 本件規定による身体への侵襲を受けない自由の制約については、現時点において、その必要性が低減しており、その程度が重大なものとなっていることなどを総合的に較量すれば、必要かつ合理的なものということはできない。

         ↓よって

 本件規定は憲法13条に違反するものというべきである。

 

【解説】

 これまでは複数の医師から性同一性障害と診断された上で家裁に審判を申し立てた場合、①18歳以上、②現在結婚していない、③未成年の子どもがいない、④生殖機能が無い、⑤変更後の性別の性器に似た外観を備えるの5要件を全て満たせば性別変更が認められるとしていました。

 今回、最高裁は、上記5要件のうち、④の要件を問題としました。精巣や卵巣の除去手術を受けるということは、強度な身体的侵襲を伴うものであるため、当該④の要件は違憲・無効なものであると判断しました。

  1. 年齢要件: 20歳以上であること
  2. ⾮婚要件: 婚姻をしていないこと
  3. ⼦なし要件 :未成年の子どもがいないこと
  4. 不妊要件: 生殖機能を永続的に欠く状態にあること
  5. 外観要件: 移行する性別の性器に近似する外観を備えていること

 

 もっとも、最高裁は、⑤の要件については、原審で審理が尽くされていないため、本件を原審に差し戻すとの判断をしました。

 

◎反対意見では⑤の要件について言及!!

 ただし、本件決定には、三浦守裁判官、草野耕一裁判官、宇賀克也裁判官という3人の裁判官の反対意見が付いています。

 これら3人の裁判官は、④の要件が憲法13条に違反して無効であることを前提に、⑤の要件についても違憲・無効であるとして、申立人の性別の取扱いの変更を認める旨の決定をするのが相当であるとしました。

 個人的な意見としましては、⑤の要件も違憲・無効としなければ、結局、性器の除去手術等という身体への侵襲を伴うことになるため、⑤の要件についても違憲・無効とする反対意見が妥当であると考えます。

 今後の差戻審の動向に注目していきましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

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