【事案の概要】

大阪市長が、宗教法人であるA寺に対し、墓地、埋葬等に関する法律10条の規定により、納骨堂の経営の許可及びその施設の変更の許可をしたところ、同納骨堂の周辺に居住する者達が、大阪市を相手に、本件各許可の取消しを求めました。

 

【判旨】

 行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。 

      ↓そして

 処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては、当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮し、この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては、当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものである(同条2項、最高裁平成16年 (行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁 参照)。 

      ↓

 上記の見地に立って、被上告人らが本件各許可の取消しを求める原告適格を有するか否かについて判断する。

①法は、墓地等の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆 衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とし(1条)、10条において、墓地等を経営し又は墓地の区域等を変更しようとする者は、都道府県 知事の許可を受けなければならない旨を規定する。同条は、その許可の要件を特に規定しておらず、それ自体が墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも保護することを目的としているものとは解し難い(最高裁平成10年(行ツ)第10 号同12年3月17日第二小法廷判決・裁判集民事197号661頁参照。以下、 この判決を「平成12年判決」という。)。 

       ↓もっとも

 法10条が上記許可の要件を特に規定していないのは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的 条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことに鑑み、墓地等の経営又は墓地の区域等の変更(以下「墓地経営等」という。)に係る許否の判断については、上記のような法の目的に従った都道府県知事の広範な裁量に委ね、地域の特性に応じた自主的な処理を図る趣旨に出たものと解される。

       ↓そうすると

 同条は、法の目的に適合する限り、墓地経営等の許可の具体的な要件が、都道府県(市又は特別区にあっては、市又は特別区)の条例又は規則により補完され得ることを当然の前提としているものと解される。

        ↓そして

 本件細則8条は、法の目的に沿って、大阪市長が行う法10条の規定による墓地経営等の許可の要件を具体的に規定するものであるから、被上告人らが本件各許可の取消しを求める原告適格を有するか否かの判断に当たっては、その根拠となる法令として本件細則8条の趣旨及び目的を考慮すべきである。

       ↓

本件細則8条本文は、墓地等の設置場所に関し、墓地等が死体を葬るための 施設であり(法2条)、その存在が人の死を想起させるものであることに鑑み、良好な生活環境を保全する必要がある施設として、学校、病院及び人家という特定の類型の施設に特に着目し、その周囲おおむね300m以内の場所における墓地経営等については、これらの施設に係る生活環境を損なうおそれがあるものとみて、これを原則として禁止する規定であると解される。

       ↓そして

 本件細則8条ただし書は、墓地等が国民の生活にとって必要なものであることにも配慮し、上記場所における墓地経営等であっても、個別具体的な事情の下で、上記生活環境に係る利益を著しく損なうおそれがないと判断される場合には、例外的に許可し得ることとした規定であると解される。 

       ↓そうすると

 本件細則8条は、墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家については、これに居住する者が平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含む規定であると解するのが相当である。

 

③したがって法10条の規定により大阪市長がした納骨堂の経営又はその施設の変更に係る許可について、当該納骨堂の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家に居住する者は、その取消しを求める原告適格を有するものと解すべきである。」

 

【分析】

 本件最高裁判決は、平成12年判決を変更せず、専ら本件細則の解釈により原告適格の有無を判断するという手法を用いました。

 細則を具体的に解釈する点(上記赤字部分)は、細則8条本文や細則8条ただし書をそれぞれ分析し、本件細則8条全体の規定が墓地等の所在地からおおむね300m以内の場所に敷地がある人家については、これに居住する者が平穏に日常生活を送る利益を個々の居住者の個別的利益として保護する趣旨を含む規定であるとの判断をしました。

司 法試験の答案を書く上でも非常に勉強になりますのでよく読んでみて下さい。

 

◎宇賀克也意見にも注目!!

 本件には、宇賀克也裁判官の意見がついています。

 宇賀克也裁判官は、「本件で平成12年判決を変更せず、専ら本件細則の解釈により原告適格の有無を判断すると、今後、他の地方公共団体における墓地経営等の許可につき取消訴訟が提起された場合、その都度、条例又は規則の規定の仕方に応じた解釈を要することとなり、訴訟の入口である原告適格の判断だけのために数年争われ、本案審理に更に数年を要するという非生産的な事態は解消されない。」としています。

 そして、宇賀裁判官は、「・・・法10条自体が周辺住民の個別的利益を保護しており、周辺住民に墓地経営等の許可の取消しを求める原告適格は認められると考える。」とされています。

 このような宇賀裁判官の意見は、注目に値しますので、一読されてみると勉強になるでしょう。

 今後の判例分析の動向にも着目していきましょう!!

 

 なお、寺院法務の観点からも納骨堂の経営許可を得るにあたって慎重な配慮が求められることが明確になったといえます。

 

 

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