この画像を見て、ある世代以上の男性ならきっと思い浮かべる広告があるでしょう。そう、「包茎」です。

 

包茎(Phimosis)とは、「六訂版 家庭医学大全科」によれば「ペニスをおおっている包皮の出口が狭く亀頭が露出しない状態を真性包茎、手を用いると完全に露出できても、包皮が過剰なため通常は亀頭が露出していない状態を仮性包茎という。包皮と亀頭の一部が癒着して完全に露出できないことがよくあるが、このような状態は生理的包茎と呼ばれ、真性包茎とは区別され、特別な治療の必要はなく、大部分は徐々に癒着がはがれていく。真性包茎は新生児の96%、乳児の80%、幼児の60%、小学校低学年の40%にみられ、思春期前では10%、思春期後は5%と減少し、真性包茎の大部分は思春期までに自然に治る」とされています。

 

 

 

 

けっして治療を必要とする病気ではありませんが、多くの日本男性が包茎を恥ずかしいことと考え、なかには手術で改善しようとする人もいます。このあたり、東京経済大学教授の澁谷知美さんが「日本の包茎―男の体の200年史(筑摩選書)」という本で詳しく論じています。澁谷知美さんとは、国際日本文化研究センターの井上章一教授の「性欲の文化史」共同研究会などでご一緒したことがありますが、その頃は「童貞」について研究されていました。

 

仮性包茎手術を正当化する言説の1970-90 年代における変容

澁谷知美さんが「仮性包茎手術を正当化する言説の1970-90 年代における変容 : 医療化された男らしさ概念を手がかりとして」という論文を書いています。それによると、1975 年頃からパートナー女性の性的快感に重点が置かれ、性的快感の付与ができないのが包茎のデメリットとして語られていたといいます。しかし、1980 年代以降では、「不潔」が挙げられることが多き、包茎だと「不潔」で「臭い」がきついことが女性の口から、あるいは女性と関連させながら語られるようです。

 

また、包茎ゆえに恥垢がたまりやすく、その恥垢が性交時に子宮に残ることで女性を子宮ガンにさせる、あるいは女性に性感染症を伝染させるといったこともみられはじめます。そして、恥垢だらけだとフェラしてもらえないということすら語られはじめます。

 

どうやら30年にわたって、包茎でいると女性に嫌われる、臭い、病気になる、ペニスが成長しない、精神的にコンプレックスになるといったことがえんえんと語られ続けているようです。

上野クリニックの広告

さて、話を戻しましょう。

 

タートルネックで顔の半分を隠している写真から、包茎や包茎手術のことを思い出してしまうのはなぜなのでしょう。研究として詳しく調べたわけではないので、ちょっと乱暴な話にはなるのですが、一説には上野クリニックの広告だといわれています。上野クリニックは、30年以上も前に開院した包茎治療、性感染症、勃起機能の低下、亀頭増大などに関するクリニックです。

 

その上野クリニック、「ひとつ上野おとこ」というちょっとだじゃれなキャッチフレーズと一緒に、タートルネックで顔の半分を隠している写真で雑誌広告などを1990年代前半からはじめています。また、さすがに内容が内容なので昼間の時間帯ではなく深夜にはなりますが、テレビコマーシャルなどもおこなわれていました。

 

上野クリニックの広告のすごいところは、「ひとつ上野おとこ」と自社の名前を入れてはいますが、具体的に包茎治療、性感染症、勃起機能の低下、亀頭増大などの治療をおこないますよとは一切いわないところです。それは、高須クリニックの広告も同じですよね。

 

高須クリニックの場合は、もはや高須院長が有名すぎて、高須=美容整形のイメージができていますが、とはいえ「イエス!高須クリニック」としかいいません。その他の美容クリニックの広告が白衣や手術着で医師が登場していたり、どんな美容整形をしているかを語っているのとは全く違います。

 

 

本当ならば、上野クリニックに取材を申し込んで調査をしないといけないところですが、みんなの包茎手術というウェブサイトによれば「最初は40誌ほどの掲載だったものが、2002年の時点では男性向けのさまざまなジャンルの雑誌、600誌近くに掲載されていた」のだとか。たしかに、男性誌はもちろんのこと漫画雑誌などでも広告が載っていた記憶があり、男性なら一度や二度は目にしたことがあるに違いありません。

タートルネックのファッション史

ところで、タートルネックはじつはけっこう古いファッションだといわれています。もともとは、中世ヨーロッパで。重い甲冑をまとう騎士たちが甲冑で首を擦り切らないように保護するために発明されたといわれています。つまり、アンダーシャツだったんですね。

 

その後、船員やポロ選手のユニフォームなどに採用されたり、1920年代にはおしゃれアイテムとして人気になります。同時に、それまで主に男性たちが着用していたタートルネックを女性たちも着始めました。 Kelsey McKinneによれば、1890年のウェルズリー大学の女性ボート チームの写真には、女性たちがタートルネックのセーターに、お決まりのロングスカートを着た姿が写っているといわれています。

 

そしてSéverin Pierronによれば、1950年代にタートルネックはジェンダーレス化し、マリリン・モンローをはじめとするハリウッド女優が愛用すると、1960年代にはビートルズやミック・ジャガーらが、反順応主義とクールな態度の象徴として、このスタイルを取り入れました。

 

タートルネックといえば、冬に首回りが寒くないように着ているという人も多いでしょうが、けっこう歴史的には面白い変遷をしてきたファッションなんです。

まとめ

Z世代からするとタートルネックはiPhoneで有名なアップルの創業者スティーブ・ジョブスの定番ファッションというイメージしかないかも知れません。ミレニアム世代以上の男性なら、今回テーマの包茎をイメージさせるでしょう。

 

イメージはともかく、着心地がよくて着回ししやすい防寒性にも優れたタートルネックは、けっして古いファッションではないのかも知れません。