バーで知り合った女性が、とても美人だった。一緒にベッドをともにし、明けがた目を覚まして隣をみると別人が寝ていた。

 

これは、化粧を落した女性の顔にまつわる笑い話として、日本でよく聞かれます。けれどもタイの場合は、目を覚ましたら男が寝ていたという話はあっても、女性の顔そのものにまつわる話はほとんど聞きません。というのもタイ人の場合は、化粧ではなく整形で顔を美しくしているからです。

 

 

日本と韓国における整形観の違い

「身体髪膚これを父母に受くあえて毀傷せざるは孝のはじめなり」とは、有名な『孝経』の一節。ひとのカラダは父母から恵まれたものであるから、傷つけないようにするのが孝行のはじめという意味ですよね。

 

これをもって、日本ではイレズミや整形はもってのほかと考えます。この『孝経』の思想は、日本よりも、おとなり韓国のほうが、はるかに広く社会に浸透しています。にもかかわらず、韓国は美容整形大国です。

 

その理由は、カラダに傷をつけないのは、あくまで孝のはじめ。初歩の初歩で、これがすべてではないからです。孝には、終わりがあります。身を立て、道をおこない、名を後世に挙げ、もって父母を顕すは孝の終わりなりと。つまり、整形し、K-POPアイドルとなって有名になり、稼いで親を楽させてあげる。韓国人にとって、整形こそが親孝行なんです。

 

 

タイにおける整形観

では、タイ人にとって整形はどういうものなのでしょうか。中華系タイ人のあいだには、もしかしたら『孝経』の影響があるかもしれません。ですが、大多数は違います。

 

注目すべきは上座部仏教の思想です。日本の大乗仏教のように、死後の往生浄土を目指し、広くひとを救おうというのではありません。タイの仏教は輪廻転生を信じ、現世利益的です。だからこそ、ひとびとは布施をし、寺院で宝くじのあたり番号を知ろうとします。

 

つまり、今の容姿は一時的な仮のもの。整形し、今の世をよく暮らすことはあたりまえなのです。親孝行ではなく、自分のためが、タイの美容整形なんです。