俠客への道
綱島一家の跡目争いは泥沼の状態が続いて、何人もの三代目候補を名乗る人間とそれを推す人間達が入り混じり、収拾のつかない所まで拗れていた。
そして抗争は、犠牲者を出してしまうのである。
しかし、犠牲者が出たことによって静まるかと思われた抗争は、その逆に激化し
死傷者の数は増え続けた。
髙田福松は傍観者だったが
この状態が続くことが良いことではないとは思っていた、かと言って自分ではどうすることも出来ない。
彼には、自分に生命を預けてくれている若い衆、二八人の生活を守ることに集中しなければならなかった。
ある日のことだった。
土屋徳太郎の家に普段は来ることのない人から電話がかかってきた。
綱島一家初代総長の妻だった女性からだった。
彼女は三代目を決めるために、卑劣な足の引っ張り合いを続け、死人を何人も出して、命懸けで綱島一家を起こした初代の思いに、いつまで泥を塗るつもりだ。
私は初代姉の立場で綱島一家一門、全員に言っておきたいことがあるから、全員を集めてくれという話しだった。
綱島一家は江戸時代末期、
今の長野県に在った鹿乃介一家で渡世修行した綱島の小太郎という男が、故郷に戻り立ち上げたものだった
。
初代、綱島の小太郎の妻は
初代姉の立場で二階の大広間いっぱいに集まった綱島一家の若い衆達の前に立った。
大広間に収まりきらなかった若い衆は階下の部屋へと
押しかけ、人で溢れ返っていた。
綱島一家初代姉は開口一番
『跡目を決めずに、死んだ 二代目が悪いと言えば、
そうなのかも知れないが
殺し合いして跡目を決め ろなんてどういうことだ
カタギの皆さんに迷惑か けて、綱島の代紋をどれ だけ傷つけるつもりだ!
世間がなんと言ってるか 判っているのかい!』
大広間を埋め尽くす男達は全員が無言だった。
綱島一家初代姉は沈黙する集団に向かって、さらに告げた。
『もう馬鹿な殺し合いは止 めること!
誰がどう言おうと、綱島 一家の三代目は髙田福松 しかいない、それをここ に居る全員が肝に銘じな さい!三代目は福しか居 ません!』
立錐の余地もなく大広間に詰めかけた若い衆達の一番後ろに居た髙田福松が誰よりも驚いていた。
綱島一家初代姉のこのひと言で事態は一変した。
髙田福松は齢二八歳で綱島一家三代目の立場を手に入れることになる。
了。