高田龍の《夢の途中》 -3ページ目

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。




 ある日の午前中、洒落た店を見つけて入る。


雰囲気が気に入り、午後に再び訪れる。


ところが、午前中とは違って店は混んでいた。


目宛にしていた席も家族連れが座っていた。


帰ろうかと思っても見たが厨房を縁取るように設えられたカウンター席に座って注文することにした。

ウィスキー・ソーダ(ハイボール)を頼んでから、さて何かつまみをとメニューに眼を向ける。

カウンター席の客の食べているソーセージが気になっていた私は、それを注文する。


旨い!


続いて出てきたのは、私が一番楽しみにしていたブルー・チーズだ。

これは、格段に美味かった

私は、自分の記憶の襞の奥に有ったある事を思い出した。


はっきりと、記憶してはいないが、日本橋に白木屋というデパートがあった。


そのデパートへ母と一緒に行った時のことだった。


日本橋の白木屋と言えば、創業が江戸時代、歴史ある老舗だ。

その頃、私は小学校の低学年、白木屋が歴史あるデパートだという事も高級百貨店だという事も、まったく知らない。


母に手を引かれるままに地階の食料品売り場へ。


そこそこ混んでいた気がするが、母はバターやチーズを売っている所で足を止め

しばらく、あれこれと物色していたが、すみの方にあったチーズを手にして店員さんに手渡した。

するとこの店員さん、親切心の塊のような顔つきで、

『お客さん!そのチーズはやめたほうがいいわよ、それねカビが生えてるのよ』

そう言われた母は、何も聞かなかったような顔で、ソレを下さいと言い、品物を包んで貰い支払いを済ませた。


昭和三十年代、高級百貨店でもこんな事があったんだなぁ。