暑い寒いを繰り返し、季節はゆっくり進んでいった。
厚労省の職員、佐山航からの報告でも百地の周辺を覆っていた霧のようなものは晴れることは無かった。
気がつけば、季節は夏が終わろうとしていた。
百地幸一郎が、厚労省から依頼された案件も、なんら解決の糸口を見出される事
その厚労省からも、この一ヵ月何の連絡も来てはいない。
《熊》による被害も、相変わらず、全国的に報告はされていたが、これと言って得体の知れない何かから被害を被ったと思われる事案は何も無かった。
結局は、この期間に何も進展することは無かったと言える。
百地も彼が集めたスタッフも次第に、この件を忘れていった。
其々に静かな日常が戻っていた。
そして、時は流れた。
百地幸一郎は、今年七十歳になっている。
あの日、三八歳だった加藤拓也は四三歳になっていた
。
木村良平は四五歳。
厚労省が全国から選び出した猟師の田中壮一は六十六歳になっていた。
あの日以来、皆んなが歳をとり穏やかな日は続いている。
百地の机の上の一番目立つ場所に置かれていた厚労省からの資料も気がつけば百地の背中にある書類棚の上の方に、その場所は替わっていた。
ところが穏やかな時間は、突然破られる。
それは加藤拓也の携帯が鳴るところから始まった。
加藤が持ち歩いている書類入れの中から携帯の着信を知らせる振動音がなり加藤は少し慌てながら鞄の中をさぐる。
『もしもし、加藤拓也さんの携帯でよろしかったでしょうか?』
『私、加藤ですがどちら様ですか』
電話の相手は厚労省の佐藤だったが、加藤は厚労省の佐藤のことは知ってはいたが、彼から直接電話をもらった事はなかった。
『もしもし、加藤でございます、佐藤様、大変ご無沙汰しております、何かありましたか?』
佐藤からの応えは簡単だった。
百地教授に用があって電話をしたが繋がらなかったために加藤にかけたという。
加藤は、日常の百地教授との習慣的な連絡の密度などを話した。
何か仕事がない限り、連絡を取ったり、会う事は無いと伝えた。
佐藤が百地教授に伝えたかったことは何だったのか、加藤拓也は心が何故か騒いでいた。
