後楽園ホールに行かなくても、日本武道館に行かなくても、週刊プロレスの頁を捲りさえすれば、目の前にプロレスの喧騒が拡がってくれるのだ。
三十代を迎えていた私は、それぞれの記者達が書き上げる文章に酔いしれた。
それで満足していたのだ。
会場へ足を運んで、生のプロレスを観たいという気持ちにはならなかった。
あの頃が懐かしく思い出される。
その活字プロレスファンの私の前に、現役のプロレスラーである谷津嘉章が突然現れたのだから、感動的な対面になる筈だったのかも知れないが、そうはならなかった。
彼は、私が持っていた先入観とはまったく違う雰囲気で現れたのである。
そして、この谷津嘉章との出会いが私とプロレスを結びつける事になるのである
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