『岬に待つ恐怖』十四年前の原本❹ | 高田龍の『ごまめの歯軋り』

高田龍の『ごまめの歯軋り』

還暦を過ぎた無名の男の独り言を、ジャンル無しで書き綴るブログです。
身の周りに起きた出来事から、世の中の動き、小説から身の上相談迄やるつもりです。
もっとも、身の上相談は、相談してくれる人が居ればの話しですが......。
兎に角、宜しくお願いします。



  『岬に待つ恐怖』
                   原本の❹

秘書課長や助役の話しを聞いていた柏木弁護士だったが二人が驚くような言葉を返してきた。

『それは、個人的には私もそう思いますが、しかしですね、この件を依頼された当初から雨宮社長の方からそのへんのことは伺っておりました』
助役も秘書課長の木邑も驚きは隠せない。
『雨宮社長はなんて言ってるんですか』
『はい、地元の方々は自分の希望する土地は、交通の便が非常に悪いので別の場所を勧めて来ると思う、しかしこのことは建設用地があの岬でなければ話は始まらない、くれぐれもその事だけは理解してもらって欲しいとの事でした』
中村の胸の中に不安とも恐怖ともつかない感情が湧き上がった。
《間違い無い、雨宮社長は岬で起きたことを知っている、いったい誰が・・・》
収まっていた汗がまた全身から噴き出している。
《だが、どうやって嗅ぎつけたというのだ》 
中村が気にしている過去の忌まわしい出来事は、市長と中村、他に二人といってもそのうちの一人は五年も前に死んでいる、ということはあの事を知る人間はこの世の中には三人、たったの三人という事になる。

その後の弁護士の話しは、ほとんど中村の耳には入らなかった。
それでも彼は平静を装い、柏木弁護士との打ち合わせが終わると役所の正面玄関で弁護士が車に乗って帰るのを見送り、直ぐに裏の駐車場に有る自分の車に乗り込んで、風邪を拗らせて自宅で休養している市長の処へ向かう。
得体の知れない恐怖が中村助役を包み込んでいた。

さっき迄、晴れ渡っていた空はいつの間にか雲に覆われ、岬の上空はひときわ低く厚い雲が垂れこめている
車の窓越しに見える岬の景色は不気味で思わず中村は
身震いするのだった。
この長閑な海辺の街に、何かが忍び寄っている事を、