『岬に待つ恐怖』原本の❸ | 高田龍の『ごまめの歯軋り』

高田龍の『ごまめの歯軋り』

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  『岬に待つ恐怖』
       



原本の❸


中村は自分の耳の中に心臓があるような錯覚に陥っていた。

呼吸を整えてから、中村は柏木弁護士に顔を向け、確認するように聞き直した。

『岬の丘ですか』

『えぇ、そうです』

『なんでまた、雨宮様は岬のあんな所を』

『さぁ、それは私に聞かれても』

それまで黙って中村の横に居た秘書課長の木邑が初めて口を開いた。

『実際問題、建設用地にあの岬を使用する場合、機材の運搬など工事用の車両をを現場に乗り込ませる時点から問題かと・・・』

木邑の懸念している理由は

東海岸と呼ばれる小さな浜の南側に突き出した岬には市街地からも、海岸線をなぞる様に走る国道からもアクセスが悪く、どちらも途中から車での通行が困難なほど道が狭くなっているため木邑が話した通り資材搬入等、工事関係車両の通行は不可能と言えた。

どうしてもという場合、いずれのルートを執るにしても大規模な道路の拡張工事が必要となる。

それに掛かる費用が莫大であることは間違いなく、雨宮コーポレーションが如何に力のある企業だったとしても金を棄てるようなことは出来ないだろうという考えが木邑の言いたいことだった。

中村は、木邑を知って二十数年が経っているが、特別その存在に重きを置いたことはなかった。

要するに、相手にしていなかったのである。

痩せた木邑は、その体型だけでなく人格的にも線が細く、実際の年齢よりも十歳は老けて見えたが、その理由は彼の髪の薄さにもあったろう。

額は大きく後退し、その禿げ上がった額のこめかみに浮き出ている血管が、彼の神経質さを際立たせていて

市長の日程調整ぐらいが精一杯と思っていたこの男が今日は頼もしく見える。

『そうなんですよ、私も今それを申し上げようと思ってました』

椅子の肘掛けを頼りにしながら身を乗り出した中村は愛想笑いを満面に浮かべて柏木弁護士の顔色をうかがうのだった。

       以下次葉