小説『岬に待つ恐怖』序〜壱 | 高田龍の《夢の途中》

高田龍の《夢の途中》

気がついたら、72歳に成ってました。
今までずいぶんたくさんのことを書いて来ました。
あと何年生きられるのか判りませんが、書き続ける事が生存確認でも有りますし生存証明でもあります。
宜しくお願い致します。


《序章》一。


海岸線の空が少しづつ明るさを増して行く。

昨夜は早目に寝床に着いたのにまったくと言えるほど眠れなかった。


気がつけば、枕元に置いてある《G ・SEIKO》の針は午前四時を指していた。

あと二時間もしないうちに朝がやって来る。

彼は時計マニアだった。

ロレックスやパテック、他にも数本持ってはいたが、市役所の職員になっているために職場にそれをして行くことは無い。

職場にはもっぱら《G・SEIKO》だ、これならかなりの時計愛好家でなければ百万円を上回る価格の物とは思はない。

機能的にも素晴らしい。


彼は、思いを巡らす。

昨夜はなんで眠れなかったのだろう。

悪夢にうなされた訳でもない。

原因はなんだろう、あれこれ考えているうちにも時計の針は進む。


眠れなかった原因が判ったところで仕方のないことだ、もう世間は朝の中を動き始めようとしている。


シャワーを浴び、洗顔を済ませ身繕いを整えると、駅前の《マック》でコーヒーとハンバーガーでも買って職場に向かう前に海岸に行ってみよう。

彼に、そんな考えが浮かんだ。

海岸からすぐの街に暮らしながら、しばらく海を見ていない。

そう決めると無性に海が見たくなった。


風景もそうだが、海の匂いを胸いっぱいに吸い込みたかったのかもしれない。


《スマホ》に設定してある時刻に耳障りな電子音が鳴り、一日が始まった。

いつもの一日なのに、胸の中に得体の知れないものがあった。