しかし彼は闇雲に取り乱すこともなく、菜穂子の計画に同意した。
そうするしかなかったと云う方が正しいかもしれない。
桜の花が開き始めた頃、菜穂子は家を出て行った。
田村はひとりに成った。
妻がいない寂しさは、正直なところあまりなかった。
しかし、笑い声の絶えなかった家の中が静まりかえっていることに、押し潰されそうに成る孤独感が断続的に襲って来ることはあった。
その間隔も次第に長くなり、孤独感さえ心地よさに変わって行く。
人の心は不思議なものだ。
時間の流れとは不思議なものだと田村は思った。
家の近くのスーパーに、ひとり買い出しに行くことにも慣れた。
時折、買い物客の行き交う店内で、ひとりの自分に気がつき、立ち尽くすことはあるが、菜穂子の買い物に付き合ってカートを押しながらたわいもない会話に興じていたことが懐かしく思い出されるだけで、寂しいとか、孤独だと思うことはなかった。
同じような思いは、よく行った喫茶店、日本蕎麦屋、ファミレス、など、至る所で心に湧き上がったが、やはり悲壮な思いとは違うのだ。
田村自身も驚いていることだったが、寂しさなど凌駕してしまう開放感が大きいのだ。