結論から
家の売却が終わっても、まだ仕事は残っています。
● 利益が出た場合:譲渡所得税がかかることがあり、売った年の翌年に確定申告が必要です。マイホームなら3,000万円特別控除で税額がゼロになることもありますが、控除を受けるにも申告が要ります。
● 損失が出た場合:原則として課税されませんが、住宅ローンが残ったまま売った場合など一定の要件を満たせば、その損失を給与所得などと損益通算し、税金の還付を受けられる特例があります。この特例を使うにも申告が要ります。
● お金の分け方:口約束ではなく、財産分与協議書に明記して残す。これが後日の「言った・言わない」を防ぎます。
税額の計算と申告は税理士、協議書の作成・法的効力の確認は弁護士、登記は司法書士。当社(住宅流通合同会社)が担うのは売却の実務までで、税務・法務の最終判断は必ず専門家にご確認ください。
1. 全体マップ ― 売却後に残る「3つの手続き」
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手続き |
内容 |
主な相談先 |
期限の目安 |
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①譲渡所得の確定申告 |
利益が出た場合の納税、または特例適用のための申告 |
税理士 |
売った年の翌年2/16〜3/15頃 |
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②財産分与協議書の作成 |
売却代金・残債務・その他財産の分け方を書面化 |
弁護士(必要に応じ公証役場) |
離婚成立前後、決済と同時期が理想 |
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③登記関連手続き |
所有権移転登記、抵当権抹消登記など |
司法書士 |
決済当日〜数日以内 |
このうち①と②が、「税金と分与の確定」というテーマの中心です。③はすでに決済実務の中で司法書士が担うため、ここでは①②を中心に整理します。
2. 譲渡所得税 ― 利益が出た場合
2-1. 基本の仕組み
不動産を売って利益(譲渡所得)が出ると、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税が課税されます。これらを総称して「譲渡所得税」と呼ぶのが一般的です。給与所得などとは別に計算する分離課税で、確定申告は他の所得と一緒に行います。
課税譲渡所得金額 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額
税率は、売った年の1月1日現在の所有期間によって次のように分かれます。
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区分 |
所有期間 |
所得税 |
住民税 |
復興特別所得税 |
合計税率 |
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短期譲渡所得 |
5年以下 |
30% |
9% |
0.63% |
39.63% |
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長期譲渡所得 |
5年超 |
15% |
5% |
0.315% |
20.315% |
※所有期間は「取得日から売却日まで」ではなく、「取得日から売った年の1月1日まで」で判定します。実質5年ちょうどでも短期になるケースがあるため、決済時期の調整が節税に直結することがあります。
2-2. 3,000万円特別控除
マイホーム(居住用財産)を売った場合、所有期間の長短にかかわらず、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります(「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」)。
主な適用要件
● 自分が住んでいる家屋、またはその敷地を売ること(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る場合を含む)
● 売った年の前年・前々年にこの特例や譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例を受けていないこと
● 親子・夫婦など特別な関係にある人への売却でないこと
重要:控除を受けるには申告が必要です。「税額がゼロになるから申告しなくてよい」わけではありません。控除を適用するための確定申告書を提出して初めて成立します。申告をしなければ、控除前の金額で課税されたのと同じ結果になりかねません。
3. 譲渡損失が出た場合 ― 見落とされやすい論点
離婚に伴う売却では、住宅ローンの残債務が売却価格を上回る「オーバーローン」状態での売却が少なくありません。この場合、譲渡所得はマイナス(譲渡損失)になりますが、ここで検討すべき特例が2つあります。
3-1. 特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41条の5の2)
住宅ローンが残っているマイホームを、そのローン残高を下回る価額で売却して損失が生じたときの特例です。買い換えて新しい家を取得しなくても適用できるのが特徴で、離婚後に新居を取得しないケースでも使える可能性があります。
主な要件
● 所有期間が売った年の1月1日において5年を超えていること
● 売買契約日の前日において、償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること
● 譲渡価額がそのローン残高を下回っていること
● 親子・夫婦など「特別の関係がある人」への売却でないこと
3-2. 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措法41条の5)
売却と同時期に新たなマイホームを取得(買い換え)する場合の特例です。離婚後すぐに新居のローンを組むようなケースが対象になります。
主な要件
● 所有期間が売った年の1月1日において5年を超えていること
● 譲渡の前年から翌年までの間に新居宅を取得すること
● 新居宅について償還期間10年以上の住宅ローンを有すること
3-3. どちらも共通する効果
損益通算しきれなかった損失は、譲渡の年の翌年以後3年間繰り越して控除できます(繰越控除)。ただし繰越控除を適用する年は、合計所得金額が3,000万円以下であることが条件です。
3-4. 適用にあたっての実務上の注意
● この特例も、確定申告が必要です。損失なので税額はゼロでも、特例を使うために申告書と一定の明細書(特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書など)の添付が必要です。
● 損益通算の年に申告し、繰越控除を続ける年も連続して確定申告書(損失申告用)を提出する必要があります。1年でも申告を欠くと、翌年以降の繰越控除が受けられなくなるおそれがあります。
● 元配偶者への売却は「特別の関係がある人」への譲渡として、これらの特例が使えない場合があります。財産分与としての名義変更・売却スキームを組む際は、この点を事前に税理士へ確認することが重要です。
4. ケース別判定表
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ケース |
譲渡所得税 |
使える特例の例 |
申告の要否 |
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利益が出た(3,000万円以下) |
控除でゼロになりうる |
3,000万円特別控除 |
必要(控除適用のため) |
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利益が出た(3,000万円超) |
超過分に課税 |
3,000万円特別控除、10年超所有軽減税率 |
必要 |
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損失が出た(オーバーローン・買換えなし) |
原則非課税 |
措法41の5の2の特例 |
特例を使うなら必要 |
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損失が出た(買換えあり) |
原則非課税 |
措法41の5の特例 |
特例を使うなら必要 |
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元配偶者へ売却・名義変更 |
ケースによる |
特別関係者間取引として特例対象外の可能性 |
個別確認が必須 |
5. 例外・経過措置 ― 期限と将来の税制変更
● 特例の適用期限:損益通算・繰越控除の特例(措法41条の5、41条の5の2)は、いずれも令和7年12月31日までの譲渡を対象とする時限措置です。延長される可能性はありますが、現時点の制度が今後も同じ内容で続く保証はありません。売却・決済時期が制度の適用期限をまたぐ場合は、必ず最新の情報を確認してください。
● 復興特別所得税の名称変更:確定申告で所得税と併せて申告・納付する付加税は、これまで「復興特別所得税」(基準所得税額×2.1%)という名称でしたが、令和9年分(2027年分)以後は「防衛特別所得税及び復興特別所得税」という名称に変わります。税率の合計や仕組みが大きく変わるものではありませんが、申告書上の名称が変わる点は知っておくとよいでしょう。
● 相続と所有期間の通算:離婚とは別の話ですが、相続で取得した不動産を売る場合、所有期間は被相続人(亡くなった方)が取得した日から通算されます。離婚後に相続不動産を財産分与に含めるケースでは、この通算ルールが特例の要件判定に影響することがあります。
6. 財産分与協議書 ― なぜ「書面化」が必要か
民法768条は、離婚時に相手方に財産の分与を請求できることを定めています。ここでいう「財産」には、不動産の売却代金だけでなく、残った住宅ローン債務、預貯金、退職金の一部などが含まれることがあります。
口頭合意だけでは、次のようなトラブルが起こり得ます。
● 「売却代金の分け方について、当初の約束と違う」という水掛け論
● 住宅ローンの連帯保証・連帯債務が残ったまま、負担割合が曖昧になる
● 後年、退職金や年金分割など別の財産分与項目との整合が取れなくなる
財産分与協議書に明記すべき代表的な項目
● 売却代金の分配割合・分配時期
● 残債務(住宅ローン等)がある場合の負担者・負担割合
● 連帯保証・連帯債務の解除見込みと、解除できなかった場合の取り扱い
● 諸費用(仲介手数料、抵当権抹消費用、譲渡所得税等)の負担者
● 清算条項(この協議書に定める以外、互いに債権債務がないことの確認)
法的効力の確認や、離婚協議書・公正証書としての作成は弁護士(必要に応じて公証役場)の領域です。当社では売却の実務・スケジュール調整までを担当し、協議書そのものの作成・助言は行っておりません。
7. 確認資料と相談窓口
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内容 |
相談先 |
備考 |
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譲渡所得税の計算・特例適用の可否・確定申告 |
税理士、国税局電話相談センター |
特例ごとに必要書類が異なるため事前確認を推奨 |
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財産分与協議書の作成・法的効力・公正証書化 |
弁護士、公証役場 |
連帯保証・連帯債務の扱いは特に要確認 |
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所有権移転登記・抵当権抹消登記 |
司法書士 |
決済と同日手続きが一般的 |
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売却実務(査定・媒介・スケジュール調整) |
住宅流通合同会社 |
千葉県知事(2)第17629号・不動産業務40年 |
確認のタイミングの目安:売却活動を始める前に税理士へ概算の税額シミュレーションを依頼しておくと、手取り額を踏まえた財産分与協議がしやすくなります。決済直前になって税額が想定と違うことが判明すると、協議のやり直しが必要になる場合があります。
8. 実例(一般化した設例)
設例:オーバーローンでの売却、買い換えなしのケース
かつて4,000万円で取得したマイホームを、離婚を機に2,000万円で売却。売却時点で住宅ローンが3,000万円残っており、売却代金をすべて返済に充てても1,000万円のローンが残った。
このようなケースでは、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の要件(所有期間5年超、償還期間10年以上のローン残高が譲渡価額を上回っていることなど)を満たせば、残る損失相当額を給与所得などと損益通算し、その年の所得税の還付を受けられる可能性があります。控除しきれない場合は翌年以後3年間繰り越せます。
ただし、これはあくまで一般的な制度の説明であり、実際に適用できるかどうかは、所有期間・ローンの契約内容・売却先が「特別の関係がある人」に該当しないか等、個別の事情によって結論が変わります。具体的な税額シミュレーションと申告の要否は、必ず税理士にご確認ください。
出典一覧
● 国税庁タックスアンサー No.3202「譲渡所得の計算のしかた(取得費・譲渡費用)」
● 国税庁タックスアンサー No.1440「譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
● 国税庁タックスアンサー No.3208「長期譲渡所得の税額の計算」
● 国税庁タックスアンサー No.3211「短期譲渡所得の税額の計算」
● 国税庁タックスアンサー No.3302「マイホームを売ったときの特例(3,000万円特別控除)」
● 国税庁タックスアンサー No.3203「不動産を譲渡して譲渡損失が生じた場合」
● 国税庁タックスアンサー No.3370「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき」
● 国税庁タックスアンサー No.3390「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき」
● 国税庁「土地や建物を売ったとき」(暮らしの税情報)
● 民法768条(財産分与)
個別のご事情については、必ず税理士・弁護士など資格者にご確認ください。当社は不動産の売却実務を専門としており、税務・法務の判断・助言は行っておりません。