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「査定額」の対立は、実はお菓子の分け方と同じ問題だった
離婚時の財産分与で、不動産の査定額をめぐって対立する。よくある話ですが、この対立、実は不動産の話である前に、もっと単純な「子どものころの揉め事」と同じ構造だということに、気づいている方は少ないです。
「切る人」と「選ぶ人」を分ける、という知恵
兄弟で、1枚のケーキを分けるとき。よく使われるルールをご存知でしょうか。「切る人と、選ぶ人を分ける」というものです。たとえば、兄が切って、妹が先に選ぶ。この方法なら、兄は自分が損をしないよう、できるだけ均等に切ろうとします。逆に、切る人が「自分から選んでいい」というルールだったらどうなるでしょうか。誰だって、大きい方を自分の分にします。
これは「もらう人」と「決める人」が同一人物である限り、どれだけ人柄が良くても、公平な分け方にはたどり着けないという、単純な構造の話です。値段をつける人と、その値段で得をする人が同じであれば、その数字は最初から信用できません。逆に言えば、数字そのものよりも、「誰が、どういう手順で値段を決めるか」というルール設計のほうが、実は重要だということです。
なぜ、無料査定は「疑ってかかる」べきなのか
不動産会社が出す無料査定は、あくまで売却を想定した概算価格であり、法的な証明力はありません。宅地建物取引業法34条の2第2項は、宅建業者が価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないと定めています。つまり、「なぜこの金額なのか」を説明できない査定は、そもそも法律上、正式な意見として成立していないということです。
財産分与の場面では、この「切る人と選ぶ人」がそのまま、対立する当事者双方に置き換わります。夫が依頼した会社は3,000万円、妻が依頼した会社は2,500万円。どちらも「売却を想定した概算」である以上、どちらかが嘘をついているわけではなく、それぞれが「自分に有利な切り方」をしているだけ、というケースが実際には少なくありません。
財産分与の現場では、すでにこの仕組みが動いている
財産分与における不動産の評価は、原則として裁判時(口頭弁論終結時)を基準に行うとされています(最高裁判所昭和34年2月19日判決)。評価方法そのものに法律上の定めはなく、客観的に合理的と認められる方法であればよいとされています。
実務では、まず双方が提出した査定資料を比較検討し、裁判所が評価額を認定することが多いとされます。それでも折り合わない場合は、裁判所が不動産鑑定士を鑑定人に選任し、鑑定評価を行います(家事事件手続法64条1項、民事訴訟法212条)。鑑定費用は、任意鑑定でも10万円前後から、裁判所の鑑定手続きでは数十万円から100万円を超えることもあり、費用は鑑定を求める当事者が予納し、最終的に清算されます。
重要:これはまさに「切る人と選ぶ人を分ける」仕組みそのものです。当事者(切る人)には金額を決めさせず、利害関係のない第三者(裁判所が選ぶ鑑定士)に評価させる。鑑定費用は、公平さを買うためのコストだと考えると、納得しやすいのではないでしょうか。
視点を変えると、見えてくること
「高く出してくれる会社を探す」というのは、実は「切る人に、自分から選ばせてほしい」とお願いしているのと同じことです。相手方や裁判所に根拠を問われれば、その数字はすぐに崩れてしまいます。査定額がそのまま売却額になる保証なんてありません。
査定額の対立は、本来「誰が正直か」を疑う話ではありません。誰が査定するかという入口の問題ではなく、対立が始まる前に、決め方の手順そのものを先に握っておけるかどうか。財産分与という制度は、すでにその答えを持っています。査定書を受け取ったら、金額だけでなく、「この数字は、どちらの得になる人が出したものか」を、まず確認してみてください。
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出典一覧
宅地建物取引業法34条の2第2項(価額に関する意見の根拠明示義務)
最高裁判所昭和34年2月19日判決(財産分与における不動産評価の基準時)
家事事件手続法40条(参与員)・64条1項、民事訴訟法212条(鑑定)
※本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律相談ではありません。財産分与・査定額の取り扱いは個別の事情によって異なるため、必ず弁護士・不動産会社にご相談ください。
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