離婚にともなう売却で、最ももめやすいのが価格です。少しでも高くと考える人と、早く現金にしたい人とで、気持ちがすれ違います。

だからこそ大切なのが、根拠のある査定です。「だいたいこのくらい」ではなく、近隣で、いつ、いくらで成約したか、その実例(成約事例)にもとづいて、現在の時価を示します。おふたりが同じ数字を見て納得できることが、対立をほどく起点になります。

査定額は売れる金額の保証ではありません。ですが、根拠が共有されていれば、売り急ぎの安値も、高望みの売れ残りも避けやすくなります。

ここでは、価格をめぐってネットの相談や実務の現場でよく見かける争点を、5つに整理しました。ご自身の状況とあわせて、一つずつ確認してみてください。

 

① 「いくらで出すか」をめぐる時間軸のズレ

一方は「少しでも高く売りたい」、もう一方は「早く現金化して次の生活に進みたい」。同じ物件を見ていても、気持ちの向きが逆になりやすい場面です。

どちらの気持ちも自然なものです。ここで大切なのは、感情をぶつけ合うことではなく、あらかじめ「手順」を決めておくことです。たとえば、最初の数週間は近隣の成約事例にもとづく適正価格で売り出し、反応が薄ければ、あらかじめ決めた期日で段階的に見直す。こうした流れを先に合意しておくと、価格を下げる場面でも「言った・言わない」の対立になりにくくなります。

② 査定額が会社によって大きく違う

複数の会社に査定を頼むと、数百万円単位で金額が違うことがあります。高い査定額を出した会社を信じたい側と、それを疑う側とで、意見が割れやすいところです。

査定額のなかには、媒介を獲得するために、根拠のうすいまま高めに提示されるケースもあります。大切なのは、その金額が「なぜその数字なのか」を、直近の近隣の成約事例で説明できるかどうかです。レインズや国の取引価格情報など、実際に成約した実例にもとづいた説明であれば、おふたりとも納得材料として共有しやすくなります。

③ 「まだ時間がある」という誤解と、財産分与の期限

2024年の民法改正(令和6年法律第33号、2026年4月1日施行)により、財産分与を請求できる期間が、離婚成立から2年から5年へと延長されました(民法768条2項ただし書)。

この改正を知ると、「期限が延びたのだから急がなくていい」と考えたくなるかもしれません。ですが、実務の感覚としては、むしろ逆です。期間が長くなるほど、相場の変動、どちらかの再婚や転居、書類の散逸など、状況が複雑になる要因が増えていきます。猶予ができたからこそ、焦って安値で手放すのではなく、根拠ある価格で早めに、落ち着いて話を進めておくことが、結果的にはお互いのためになります。

※ 財産分与の具体的な取り扱いや期限については、個別の事情により判断が異なります。詳しくは弁護士等の専門家にご確認ください。

④ 住宅ローンの残債(オーバーローン)と名義

売却代金だけではローンを完済できない、いわゆる「オーバーローン」の場合、価格交渉の余地はほとんどなくなり、分与額にも直接影響します。

また、共有名義か、どちらか一方のみの名義かによって、売却の意思決定に必要な同意者が変わってきます。査定を進めるのと並行して、金融機関へ残債の額を確認し、抵当権抹消の見通しを早い段階でつけておくことをおすすめします。

⑤ 仲介会社選びそのものが対立の火種になる

一方は知人の紹介する会社を希望し、もう一方は別の会社を希望する、というケースも珍しくありません。

業界の一部では、自社で買主も見つけて両手の仲介にしたいという思いから、他社からの問い合わせを断ってしまう、いわゆる囲い込みが起きることがあると言われています。こうしたことが起きると、販売の機会そのものが狭まり、結果として価格にも影響が出かねません。レインズへの登録状況や、他社からの問い合わせをどう扱っているか、報告の頻度はどうかを、事前に確認しておくと安心です。おふたりが同じ情報を同じタイミングで見られる体制であれば、疑心暗鬼になりにくくなります。

 

争点のまとめ

争点

対立の構図

解決の視点

① 時間軸

高く売りたい人と、早く現金化したい人のズレ

期日と価格改定の手順を先に合意しておく

② 査定額の差

会社ごとの査定額に数百万円単位の開き

直近の近隣成約事例で説明できるかを確認する

③ 期限の誤解

「まだ時間がある」という先延ばし

猶予があるからこそ、根拠ある価格で落ち着いて進める

④ 残債・名義

オーバーローンや名義で交渉の余地が変わる

査定と並行し、金融機関へ残債と抹消の見通しを確認

⑤ 会社選び

希望する仲介会社が双方で食い違う

レインズ登録・報告頻度など、同じ情報を見られる体制を確認

 

さいごに

離婚にともなう売却では、価格そのものよりも、「その価格をどう決めたか」の透明性が、おふたりの納得につながります。近隣の成約事例、レインズでの公開状況、報告の頻度。こうした一つひとつを、口約束ではなく実際に確認できる形でお示しすることが、私たちの役目だと考えています。

価格の付け方や進め方について、迷われることがあれば、いつでもご相談ください。

 

出典・参考

・民法第768条(e-Gov法令検索)

・民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)施行期日に関する政令

・宅地建物取引業法施行規則(国土交通省)

住宅流通合同会社 千葉県知事(2)第17629号 不動産業務40年